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上諭

朕祖宗ノ遺烈ヲ承ケ万世一系ノ帝位ヲ践ミ朕カ親愛スル所ノ臣民ハ即チ朕カ祖宗ノ恵撫慈養シタマヒシ所ノ臣民ナルヲ念ヒ其ノ康福ヲ増進シ其ノ懿徳良能ヲ発達セシメムコトヲ願ヒ又其ノ翼賛ニ依リ与ニ倶ニ国家ノ進運ヲ扶持セムコトヲ望ミ乃チ明治14年10月12日ノ詔命ヲ履践シ茲ニ大憲ヲ制定シ朕カ率由スル所ヲ示シ朕カ後嗣及臣民及臣民ノ子孫タル者ヲシテ永遠ニ循行スル所ヲ知ラシム

国家統治ノ大権ハ朕カ之ヲ祖宗ニ承ケテ之ヲ子孫ニ伝フル所ナリ朕及朕カ子孫ハ将来此ノ憲法ノ条章ニ循ヒ之ヲ行フコトヲ愆ラサルヘシ

朕ハ我カ臣民ノ権利及財産ノ安全ヲ貴重シ及之ヲ保護シ此ノ憲法及法律ノ範囲内ニ於テ其ノ享有ヲ完全ナラシムヘキコトヲ宣言ス帝国議会ハ明治23年ヲ以テ之ヲ召集シ議会開会ノ時[明治23年11月29日]ヲ以テ此ノ憲法ヲシテ有効ナラシムルノ期トスヘシ

将来若此ノ憲法ノ或ル条章ヲ改定スルノ必要ナル時宜ヲ見ルニ至ラハ朕及朕カ継統ノ子孫ハ発議ノ権ヲ執リ之ヲ議会ニ付シ議会ハ此ノ憲法ニ定メタル要件ニ依リ之ヲ議決スルノ外朕カ子孫及臣民ハ敢テ之カ紛更ヲ試ミルコトヲ得サルヘシ

朕カ在廷ノ大臣ハ朕カ為ニ此ノ憲法ヲ施行スルノ責ニ任スヘク朕カ現在及将来ノ臣民ハ此ノ憲法ニ対シ永遠ニ従順ノ義務ヲ負フヘシ


「上諭って、日本国憲法の方だったら、これから公布するっていう話だけだったけど…」

桃子が記憶を呼び起こすように頭をひねっている感じを滲みだしながら、伊野上に話しかける

「よく覚えてたね。俺の方はネット見ながらじゃないとだめだというのに」

「…ダメじゃん」

「そんなことより、これが大日本帝国憲法の上諭だよ」

ちん祖宗そそう遺烈いれつ万世一系ばんせいいっけい帝位ていいミ朕カ親愛スル所ノ臣民しんみんハ即チ朕カ祖宗ノ恵撫けいぶ慈養じようシタマヒシ所ノ臣民ナルヲおもヒ其ノ康福こうふくヲ増進シ其ノ懿徳いとく良能りょうのうヲ発達セシメムコトヲ願ヒ又其ノ翼賛よくさんともともニ国家ノ進運しんうん扶持ふじセムコトヲ望ミすなわチ明治14年10月12日ノ詔命ヲ履践りせんここ大憲たいけんヲ制定シ朕カ率由そつゆうスル所ヲ示シ朕カ後嗣こうし臣民及臣民ノ子孫タル者ヲシテ永遠ニ循行じゅんこうスル所ヲ知ラシム

国家統治ノ大権ハ朕カ之ヲ祖宗ニ承ケテ之ヲ子孫ニ伝フル所ナリ朕及朕カ子孫ハ将来此ノ憲法ノ条章じょうしょうしたがヒ之ヲ行フコトヲあやまラサルヘシ

朕ハ我カ臣民ノ権利及財産ノ安全ヲ貴重シ及之これヲ保護シ此ノ憲法及法律ノ範囲内ニおいテ其ノ享有きょうゆうヲ完全ナラシムヘキコトヲ宣言ス

帝国議会ハ明治23年ヲもっテ之ヲ召集シ議会開会ノ時[明治23年11月29日]ヲ以テ此ノ憲法ヲシテ有効ナラシムノトスヘシ

将来若此ノ憲法ノ或ル条章ヲ改定スルノ必要ナル時宜じぎヲ見ルニ至ラハ朕及朕カ継統ノ子孫ハ発議ノ権ヲリ之ヲ議会ニ付シ議会ハ此ノ憲法ニ定メタル要件ニ依リ之ヲ議決スルノほか朕カ子孫及臣民ハあえテ之カ紛更ふんこうヲ試ミルコトヲ得サルヘシ

朕カ在廷ざいていノ大臣ハ朕カ為ニ此ノ憲法ヲ施行スルノせめニ任スヘク朕カ現在及将来ノ臣民ハ此ノ憲法ニ対シ永遠ニ従順ノ義務ヲ負フヘシ

「とりあえず、現代語訳しておいた方がいいかな?」

伊野上が桃子の方を見ながら聞いたが、桃子はすでに頭がショートしかかっているようだった。

仕方ないので、伊野上は勝手に始めることにした。

「私、天皇は、祖宗が行ってきた偉大なる功績を受け継ぎ、万世一系の天皇の位に就き、私が親愛している臣民は、私の祖宗から情をかけられ慈しまれ大切に育てられた臣民であることを考え、その健やかで幸せであることを増進し、その素晴らしい徳や生まれながらにして持っている才能を発達するべきだと願い、またそれらの力添いにより臣民、天皇ともに日本帝国という国を進運することの手助けをしてくれることを望んでいる。このことは、明治14年10月12日に出した詔勅を実際に行うことであり、それを行うために天皇大権を制定し、私が前例にそむくようなことがないことを示し、私か私の後継ぎである天皇に対して臣民かその子孫は永遠に命令にそむくようなことがないことだと理解してほしい。

国家統治の大権は私の祖宗から私が受け継いだもので、私から私の子孫へつけ継がせるものである。私と私の子孫は将来にわたりこの憲法の条文に従い、実行を続けていくことに関して間違えることがないことを願っている。

私は、臣民が権利と財産の安全を非常に大切に思い、これらを保護し、この憲法と法律の範囲内においてそれらが生まれながらにして持っていることを完全にあることを宣言する。

帝国議会は、明治23年をもって召集し、帝国議会が最初に開会される時が、この憲法が有効になるという時期であるということを定める。

将来、この憲法のどこかの条文を改定するべきだという時期が到来したと判断できる状態になれば、私や私の子孫の天皇が発議の権を執行し、帝国議会へ付し、議会はこの憲法に定められている方式にのっとりこの憲法を改定する以外の方法で、私の子孫や臣民は思い切ってむやみに改めることを試みることをしないよう。

在廷の大臣は、私の為にこの憲法を施行する事に関する責任に任せる。現在及将来の臣民はこの憲法に対し永遠に従順の義務を負ふ義務がある」

一通り終わると、桃子の方を再び見た。

だが、桃子の頭はオーバーヒート気味らしい。

「…とりあえず、用語解説をしといた方がいいかな?」

「特に、万世一系、明治14年10月12日に出した詔勅、天皇大権、帝国議会についてをよろしく」

「じゃ、万世一系について。万世一系というのは、過去、現在、未来にわたりおなじ王室が続いていくことを言うんだ。皇室はまさしくそれに当たるとされているね。紀元前660年2月11日に神武天皇が即位して以来、男性一筋で皇位は継承されて来たんだ。途中で女性天皇も即位はしているけど、その後は必ず男系の天皇が即位しているということから見ても、一系で続いてきたとされているね。もっとも、欠史八代とか欠史十代とかもあって、確実だといわれているのは6世紀以降だったりもするんだけど」

「それでも1400年以上は最低でも続いてるっていうことじゃない」

「まあ、そういうことだね。さて、そんな天皇陛下は、明治時代に入り近大かを進めていくうえで重要だと思って明治14年10月12日に詔勅を出したんだ。これは、"国会開設の勅諭"と言われているものだね。題名からして何のことかわかると思うけど、帝国議会を開くことを決めたっていうことを臣民に言ったっていう内容の勅諭なんだ」

「ほぇ~~」

すこし混乱してきた頭が収まりつつある桃子に続けて伊野上が言う。

「で、天皇大権というのは、まあ、憲法を読み進めていけばちらほらと出てくるけど、ここの大日本帝国憲法自体は前にも話した通り、天皇が臣民に対して行うことを宣言したものだから、天皇に全権が形式上は集中するようになっているんだ。実際はそうでもないんだけども」

「その全権っていうのが、天皇大権っていうこと?」

「そういうこと。正確を期すためにいっておくけど、この場合の全権というのは憲法に書かれている権限だけを指すからね。例外は皇室典範だけど、皇室の家法としての位置づけで、憲法と同一視もされることがあったけど、今回は取り上げる予定はないよ」

「そっかー」

けっこうそっけなく桃子は答えた。

「最後の帝国議会は、これこそ憲法そのものに書かれているからその時に話すよ。第3章だったかな」

「次からは本文に入るのかな?」

伊野上からそのことを聞いたらすぐに、桃子は伊野上に聞き返す。

「でも、今日はもう終わり。結構時間経ってるしね」

時計は午後3時を回ろうとしているところだった。

「まだ3時じゃない」

「他の宿題もしたいからな。また明日。第1章から進めるだけ行こう」

「分かった、楽しみにしてるね」

桃子は不満そうな顔をしていたが、伊野上に押し切られるような形で引き下がった。

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