第4章国務大臣及枢密顧問 第5章司法
第四章 国務大臣及枢密顧問
第五十五条 国務各大臣ハ天皇ヲ輔弼シ其ノ責ニ任ス
2 凡テ法律勅令其ノ他国務ニ関ル詔勅ハ国務大臣ノ副署ヲ要ス
第五十六条 枢密顧問ハ枢密院官制ノ定ムル所ニ依リ天皇ノ諮詢ニ応ヘ重要ノ国務ヲ審議ス
第五章 司 法
第五十七条 司法権ハ天皇ノ名ニ於テ法律ニ依リ裁判所之ヲ行フ
2 裁判所ノ構成ハ法律ヲ以テ之ヲ定ム
第五十八条 裁判官ハ法律ニ定メタル資格ヲ具フル者ヲ以テ之ニ任ス
2 裁判官ハ刑法ノ宣告又ハ懲戒ノ処分ニ由ルノ外其ノ職ヲ免セラルヽコトナシ
3 懲戒ノ条規ハ法律ヲ以テ之ヲ定ム
第五十九条 裁判ノ対審判決ハ之ヲ公開ス但シ安寧秩序又ハ風俗ヲ害スルノ虞アルトキハ法律ニ依リ又ハ裁判所ノ決議ヲ以テ対審ノ公開ヲ停ムルコトヲ得
第六十条 特別裁判所ノ管轄ニ属スヘキモノハ別ニ法律ヲ以テ之ヲ定ム
第六十一条 行政官庁ノ違法処分ニ由リ権利ヲ傷害セラレタリトスルノ訴訟ニシテ別ニ法律ヲ以テ定メタル行政裁判所ノ裁判ニ属スヘキモノハ司法裁判所ニ於テ受理スルノ限ニ在ラス
かき氷を全部食べ終わると、伊野上と桃子はすぐに続きに取り掛かった。
「第4章は2条しかないから、次の第5章と一緒でいいと思うんだ」
「2条だけでも、一つの章に分けるような大きなことが書いてあるような気もするけれど……」
桃子はあまり納得していないようだったが、最終的に伊野上の意見に同調した。
「第4章は国務大臣と枢密院について。第5章は司法についてだね」
「国務大臣や司法については分かるけど、枢密院って?」
「明治21年[1888年]に設置された大日本帝国憲法の草案を練る為の機関だったもの。それが憲法によって天皇の最高諮詢機関とされたんだ。諮詢は上司、この場合は天皇が意見を参考にするために聞くっていうことで、その最上級機関にされたっていうことさ。枢密院は議長、副議長それぞれ1人と顧問官といわれた人たちが24~28人ぐらいで活動をしてたんだ。ちなみに初代議長は伊藤博文。顧問官以外にも、国務大臣は枢密院に議席をもっていたから、枢密院の決定は政府の決定ともとられたことがあるね」
「へぇ……」
桃子は口から空気が漏れたような音を出した。
「で、振り仮名はこんな感じ。
第4章 国務大臣及枢密顧問
第55条
① 国務各大臣ハ天皇ヲ輔弼シ其ノ責ニ任ス
② 凡テ法律勅令其ノ他国務ニ関ル詔勅ハ国務大臣ノ副署ヲ要ス
第56条
枢密顧問ハ枢密院官制ノ定ムル所ニ依リ天皇ノ諮詢ニ応ヘ重要ノ国務ヲ審議ス
第5章 司法
第57条
① 司法権ハ天皇ノ名ニ於テ法律ニ依リ裁判所之ヲ行フ
② 裁判所ノ構成ハ法律ヲ以テ之ヲ定ム
第58条
① 裁判官ハ法律ニ定メタル資格ヲ具フル者ヲ以テ之ニ任ス
② 裁判官ハ刑法ノ宣告又ハ懲戒ノ処分ニ由ルノ外其ノ職ヲ免セラルヽコトナシ
③ 懲戒ノ条規ハ法律ヲ以テ之ヲ定ム
第59条
裁判ノ対審判決ハ之ヲ公開ス 但シ安寧秩序又ハ風俗ヲ害スルノ虞アルトキハ法律ニ依リ又ハ裁判所ノ決議ヲ以テ対審ノ公開ヲ停ムルコトヲ得
第60条
特別裁判所ノ管轄ニ属スヘキモノハ別ニ法律ヲ以テ之ヲ定ム
第61条
行政官庁ノ違法処分ニ由リ権利ヲ傷害セラレタリトスルノ訴訟ニシテ別ニ法律ヲ以テ定メタル行政裁判所ノ裁判ニ属スヘキモノハ司法裁判所ニ於テ受理スルノ限ニ在ラス」
「ということで、いつもどおりに行くよ。
第四章、国務大臣及び枢密顧問
第五十五条、各国務大臣は、天皇を輔弼し、その責任を負う。
第五十六条、枢密顧問は、枢密官制に決められている通りに天皇の諮詢に返答し、重要な国務に関する事柄を審議する。
第五章、司法
第五十七条、司法権は、天皇の名において法律により裁判所が行う。
2、裁判所の構成は、法律で定める。
第五十八条、裁判官は、法律で定められている資格があると認められる者を任命する。
2、裁判官は、刑法による宣告か懲戒による処分を除いて免職されることはない。
3、懲戒の条規は法律に定めるものとする。
第五十九条、裁判の対審や判決は公開とする。但し、安寧秩序や風俗を害する恐れがある対審は法律に決められている場合か裁判所の決議によって対審を非公開とすることができる。
第六十条、特別裁判所の管轄にするべき事例については、別に法律を作り定める。
第六十一条、行政官庁の違法処分により権利を侵害されたとする訴訟については別に法律を作り定める行政裁判所の管轄とし、それらは司法裁判所が受理する事例とはならない」
「対審って裁判の昔の言い方だったね」
「そうだよ。日本国憲法の時にやったね」
「特別裁判所ってどんなのがあったの」
「皇族間の民事訴訟を争うことになっていた『皇室裁判所』、軍人や軍属を軍に関する法律によって裁くことになっていた『軍法会議』、行政事件に関してのみ扱うことになっていた『行政裁判所』が主なものだね。ちなみに、今の日本国憲法下でも例外的に認められた特別裁判所があるんだ」
「でも、今の憲法だと特別裁判所って設置できないはずじゃ……」
「たった一つの例外、それは『弾劾裁判所』なんだ。これも憲法の規定にあるよ。裁判官を裁くための国会におかれる裁判所で、上がないから特別裁判所として扱われることがあるね」
「そっかー」
メモ帳をいったん閉め、桃子が伊野上に聞いた。
「で、次は第6章だったね」
「第6章は会計で第7章が補則になってるんだ。それで補則はあまり条項数が少ないから第6章と一緒にした方がいいと思うんだけど、どうかな」
「第7章の時に、大日本帝国についていろいろ聞きたいなと思ったりしてるんだけど……」
「そう?だったら別でもいいか。今回、ムリ言って一緒にしてるし」
二人はそんな会話をしながら、お昼ごはんへと気持ちは移っていっていた。