屋根裏部屋の少女に僕は恋をした
こちらは「なろうラジオ大賞4」応募作品です。
テーマ:屋根裏
「ねえ、何してるの?」
その屋根裏部屋の少女と出会ったのは僕がまだ小学生の頃だった。
真冬の寒い時期で、庭に積もった雪をかいてると隣の家の屋根裏部屋から一人の女の子が顔を出して聞いてきたのだ。
真っ白い肌に濃いめの眉毛が印象的だった。
どことなく僕より少しだけ年上っぽく見えた。
僕は手を止め、屋根裏部屋の少女を見上げた。
「雪かきしてるんだよ」
少女は尋ねる。
「なんで?」
「なんでって、雪かきしないと外に出られないから」
「雪かきしないと外に出られないの?」
「そうだよ。見てよ、今日もこんなに積もってる」
おかしなことを言う子だなと思った。
この辺りに住んでる人はみんな雪かきをしないと外に出られないのに。
そこで僕はピンときた。
「君もやってみる?」
「何を?」
「雪かき」
我ながら名案だと思った。
あわよくばこの労働を押し付けられる。
けれども彼女は言った。
「無理」
「なんで?」
「外に出られないから」
「どうして?」
「病気なの」
病気という一言は、まだ幼かった僕の心に重くのしかかった。
そしてその一言だけで僕は少女がなんで屋根裏部屋にいるのかを悟った。
「そっか、病気なんだ」
「ごめんね」
「どうして謝るの?」
「え?」
「謝る必要なんてないのに」
僕の言葉に少女はプッと笑う。
「そうね。謝る必要なんてなかったね」
「うん。謝る必要なんてないよ」
「じゃあさ、おしゃべりしましょ」
「おしゃべり?」
「退屈だから」
今度は僕がプッと笑う番だった。
「そりゃ外に出られないんじゃ退屈だよね」
「でしょでしょ? だからおしゃべり」
「うん、わかった」
僕は雪をかきながら隣の屋根裏部屋の少女と他愛もないおしゃべりを続けた。
女の子とあまり話したことのない僕だったけど、彼女と話すのはとても楽しくて面白かった。
あまりに楽しすぎて雪かきがいっこうに終わらず親に怒られるくらい僕らはずっとおしゃべりをしていた。
こうして僕と屋根裏部屋の少女は毎日のように挨拶を交わすようになった。
「おはよう」
「おはよう」
「行ってきます」
「行ってらっしゃい」
「ただいま」
「おかえり」
いつしか僕は屋根裏部屋の窓から顔を出すその少女のことが好きになっていた。
「ねえ」
「なに?」
「僕、大きくなったらお医者さんになる」
「お医者さんに?」
「うん。それで君の病気を治してみせるよ」
「それじゃあ楽しみに待ってるね」
それから数十年。
今、僕の隣には病気を克服しウエディングドレスに身を包んだ彼女がいるのだった。
お読みいただきありがとうございました。