8.少女を守る聖女さん ~密猟者視点~
~密猟者視点~
「なっ……」
密猟者集団のリーダーである俺は、唖然とする他なかった。
「ぎゃあ!!!!!!!!!」
「う、うわああああああ!!!」
「な、なんて強さなんだ!? バケモンだ!!!」
密猟団などやっていれば、修羅場は幾つもくぐっている。
特に森での狩りを生業としている以上、野生動物と同じ弱肉強食の論理の中に生きて来た。そんな中でも俺たちは腕に覚えのあるメンバーばかりが集った精鋭だった。
その、はずだった……。
だがっ……!
目の前の少女の姿がブレる!
「ぎゃっ!?!??」「ぐはあ!?!?」
相手の攻撃が全く見えない!
そんな混乱に乗じて、少女はさらに俺たちを処理していく。
そう。
処理だ。
あきらかに俺たちよりも格上の存在として、段取りよくこちらの戦力を削ぐという、ただの処理。
目の前の少女にとっては、俺たちなど敵ではない。
そのことが、時折静止した際に見せる、少女の涼し気なアンバー色の瞳から嫌でも理解させられる。
「ふ、ふざけるな!! お前のようなふざけた存在がいてたまるかあ!!!!」
最後の部下の一人が倒れるのを見て、俺も叫び声を上げて剣を振り上げ、突撃してしまう。
それは恐怖であり、やはり最後まで目の前の光景が信じられなかったからだろう。
なぜならば、目の前の少女は、シスターのまとう黒を基調とした聖装をまとい、美しい金髪を長く伸ばした、涼やかな目元をした少女に過ぎないのだ。それは、俺たちが今まで蹂躙し、商品として来た相手とそう変わらない相手なはずだった。
なのに。
「遅すぎますね」
「なっ!?」
いつの間にか後ろをとられていた。
「こちらはナイフで身軽なのですから、剣を大きく振り回すのは悪手だと思いますよ? まぁ」
「!?」
俺は悲鳴を上げる暇すらなかった。
「もう会うことはないでしょうけど」
衝撃が後頭部に走るのを感じて、俺は気を失った。
死んではいない。
だが、次起きた瞬間には、俺は官憲につきだされていることは明らかだった。密猟者は重罪で、人身売買も行ってきた。彼女の言う通り、俺が彼女の顔を見ることは二度とかなわないだろう。
これが圧倒的な格上というものなのか……。
見た目に惑わされ、油断したことも敗因の一つ。
だが、何よりも、こんな化け物とエンカウントしたこと自体が不運だった。
その圧倒的実力差を痛感しながら、俺の意識は闇へと落ちて行ったのである。