6.村ごと結界を張ればとりあえず安心ですね!
「はーい、それでは行きますよ~。赤い光がぴかぴかすると思うので、注意してくださいね」
ミリゲット村での漏魔病の原因追及は一旦置いておいて、私はひとまず対症療法を施すことにした。
やることはとても簡単で、結界で村を覆うだけだ。
「えっと、その対病魔結界を張れば、病気が再発することはないんですか?」
「はい。そうですよ?」
「そ、そんなにあっさり言い切られると……。さすがの聖女様でもそこまでは……」
「な、なあ? 確かに凄いのは知っているが、結界で村を包み込むだなんて……」
「そもそも結界っていうのは、もっと狭い範囲を入れなくしたりするもんなんじゃないのか? 村ごとなんて聞いたことがないんだが……?」
なぜか村人たちが困惑していた。
「まあ、確かに宮廷聖女をクビになるようなヘボ回復術士ですからね。皆さんが心配なのも分かります」
「いや、そこは王族たちの見る目がなさすぎです」
「はい。そこは心配していません」
「そもそも結界を張るという次元が違うということを言いたいわけでして」
あれ?
じゃあ、何が一体心配なのかしら。
うーん………………。
「まぁいっか」
「全然伝わってない!」
そんなことよりも。
「ほら、それよりも風邪は予防が大事ですからね。結界をしましょう。手洗い、うがい、防塵マスクをするのと同じですよ~」
「もしかして、今、神の奇跡と防塵マスクを一緒にしました!?」
「そんなに変わらなくありません?」
私の発言に、集まっていた村人たちは大きなため息を漏らして、何かを諦めたような胡乱な視線を私に向ける。
うーん、よく分からない。
でも、とにもかくにも結界を張る呪文を詠唱する。
あっ、そうだ。
「もう一度言いますけど、赤くてぴかぴかするので、ちょっとまぶしいので気を付けて下さいね」
「のんびりした言いようと、やろうとしていることのギャップで、風邪をひきそうだ……」
村人が何か呟いたようだが、私は既に呪文の詠唱に入っている。
「赤き精霊カーバンクル。病魔を退ける神秘を顕現せよ。対病魔結界」
私がそう精霊にお願いし、奇跡を現実のものとして具現化させる。
上空を額にルビーのような宝石をうめこんだウサギのような動物が駆け巡る。その精霊こそ、伝説に謳われしカーバンクル。カーバンクルは村の外縁を巡るように飛び回ると、キラキラとした赤いレースのカーテンのようなもので覆って行く。
そして、その赤いレースのカーテンのようなものは、村を半球形に囲むようにしたかと思うと、スッと色を消した。
一見すると、結界が張られているようには見えないだろう。
「どうですか、皆さん。ちょっと驚かせたかもしれませんが、これで村の外からやってくる病魔については入ってこれません」
「い、いや確かにすごいな! こんな奇跡が本当にあるだなんて!」
「そうでしょう!!」
私は少し自慢げに言った。シスターとして恥ずかしいのだが、この呪文には自信があるのだ。
「最初真っ赤な結界が上空まで覆ってしまったので、皆さんご心配になったと思います。『ええ、明日から空を見上げたら赤いのかよ、と』。ですがご安心ください。ちゃーんとですね、最後透明になるようにカーバンクルさんにはお願いしてあるんですよ!」
「いや! そこは元々全然気にしてませんし!」
ええ?
では何に驚かれたのだろう?
分からないな~。
以前はあの馬鹿でっかい城全体をすっぽり囲んでたから、これが凄い訳ないのだ。
「まあ、とにかくこれでしばらくは大丈夫です。ただ、私がいなくなれば結界も消えます。と、い・う・わ・け・で」
私は集まっている皆さんに言った。
「次は原因究明と、その原因の解決と行きましょうか!」
私は元気いっぱいの声で言ったのだった。
城を出てから、どんどん人が救えて気持ちがいい!!