55.ぴったりの呪文
全員が安らかな寝息を立てはじめたので、癒し終えたと思った時であった。
一人がまた苦しみ始めたのである。
おかしい。
「全員、呪いも含めて解呪したはずだったのですが」
「診てみましょう」
私とピオピオさんは、鋼のような身体を持つゴーレム族という魔族の男性の枕元に座る。
見れば、癒したはずの太もも部分から、また出血をしはじめていた。
「もう一度、傷を治す回復魔法を使用しましょうか?」
私はピオピオさんに相談する。
しかし、ピオピオさんは首を横に振り、
「これは多分、徐々に傷が悪化していく『腐蝕』状態ではないかしら。珍しい症状だわ」
「ああ、なるほど!」
私はポンと手を打つ。
「『腐蝕』という病魔は種族限定で罹患するので、初めて見ました。ゴーレム族はその鋼のような身体が侵食されてボロボロになるということですね」
「そうよ。だから体力だけ回復させても無理ねえ」
困った表情をしているピオピオさんに私は提案した。
「では腐蝕を解除する回復魔法を使用してみましょう」
「そ、そんなことまで出来るの~?」
ピオピオさんは驚くが、
「はい。いちおうどんなリクエストにでも応えられるように勉強していましたから」
「とっても偉いのね~」
褒められてしまった。しかし、
「楽しいですからね」
まぁ単なる趣味だ。その趣味の延長で、王都にあった埃まみれの魔法書は、最低限頭の中に入っている。
さて、では。
こういう初めて使用する魔法はワクワクとする。完全なる背徳だが役に立つなら学んでおいて良かった。
初めての詠唱。
「月の精霊ルナよ。腐蝕する災いを遠ざけ、夜の帳を下ろすが如き、静寂なる癒しをこの哀れなる者に与えたまえ。≪『月光の煌めき』≫」
詠唱によって、展開された魔法陣から、女神と言った方がしっくりくる精霊が現れる。
その月の女神の容貌をした精霊は微笑むと、目の前の男性の脚へキラキラとした月の雫を落とした。
すると、先ほどまでの出血が次第に止まると同時に、鋼の皮膚がその箇所を覆って行く。
「すっごいわね~。完璧じゃない!」
ピオピオさんが目を丸くしていた。
「いえいえ、私も楽しかったです」
そう私は上機嫌に答えたのである。
「しかも全然、手柄を誇ったりもしないし~。ほら~、もっと威張ってもいいのよ~? 誰も死なせずに、こんなにうまく治療が出来たのはあなたのおかげなんだからぁ」
いやいや。
「ピオピオさんがいてくれたおかげですよ」
「そんなことないんだけどな~」
そんなこんなで、今回の騒動は本当に終わったのであった。
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