52.私たちは被害者ですよ~
「リリちゃん様! 私たちは被害者です! オークと言う魔族に初めて襲われた恐怖で逃げまどっていました!」
「はぁ」
私はミューズさんに魔法で大木からゆっくり降ろしてもらい、着地すると同時に、主張を始める。
「逃げまどっておったのか? なんか、一人ナイフを額に突き立てられて絶命しておるが」
「そうなんです! 見て下さい! おろろろん!!」
私は悲しみに暮れた表情で、根本からポッキリ逝ったナイフを見せる。
「危ないところでした。オークさんの強力な筋力でナイフをへし折られてしまったんです!! もはや私の命は風前の灯火でした! しかし! 女神は私を見捨ててはいなかったのです。偶然にもそのナイフの先端が相手に命中! 相打ちと相なったのです!」
「相打ちのう」
リリちゃんは地面で絶命しているオークと、私を見比べて呆れた声を上げた。
「オークは死んで、そなたはせいぜい擦過傷程度に見えるのじゃが?」
「いえいえ、内臓に来てます。それにオークさんの攻撃を二撃もまともに受けたせいで、二度も数十メートルを吹っ飛ばされて、そのうえ大木にたたきつけられる有様です! 危なかった! 死ぬところでした!」
「ふーん」
「というわけで、これは正当防衛の範疇だと思われます! それから、相手から手を出してきました! それによって私はボコボコにされたのです! 信じて下さい!!」
「信じるけど、ボコボコにはされとらんじゃろうに。まぁ分かった分かった」
リリちゃんは頷いてから、裁定者の顔になって言う。
「武装した野盗が一方的に殺意をもって襲撃をしかけてきた、と。それに対してセラとミューズはあくまで防御に徹した。途中不幸な事故によって、加害側の一人が死亡した。残り一人のオークが激高して襲ってきたが機転をきかせることによって何とか事なきを得ることが出来た。そこに儂がかけつけて救援した。そういうことで良いな?」
「魔王様すごいですね」
「儂をなんじゃと思うとるんじゃ、ミューズ。元エルフ王女よ」
彼女はそう言いながら、先ほどぶっ飛ばした、こん棒を振り回しながら襲ってきたオークを荒縄でしばり、大木にくくりつける。意識はないが、まだ息はある。
「まぁ、セラの判断は無難でさすがなのじゃ。神聖聖女の肩書きを与える以上は履歴は奇麗な方が良い。それが表面上であってものう」
「まぁ、貴族社会の基本ですよね」
「うむ。その辺、うまいことやってくれたと思うのじゃ。今の内容じゃったら、例えばビュネイ公爵の側近から異論が出る隙もないじゃろ。たとえ」
彼女は言った。
「聖女セラの計画通り、そなたらが本当は無傷で、オーク二体のうち一体が絶命、もう一方が虫の息であってもの」
やれやれ、と肩をすくめる。
まぁ、よしよし。
演技しておいて良かったようだ。
初めての魔王国だからこそ、慎重さが必要なのだ。
逆に権力を振るっていいタイミングが来れば、その時は権力を積極的に使った方がいい。力の行使の是非は、時と場合による。
ところで。
「この生き残られたオークさんはどうされるんですか?」
その言葉にリリちゃんは当然のように言った。
「公爵首都マーニャスまで連行しようと思うのじゃ。なーんか起こっておるような気がするのでな」
「分かりました」
私は元魔王リリちゃんの言葉に従うことにした。
間もなく、ビュネイ公爵との謁見となる。
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