51.悪いのは全部オークさんたちです
私はナイフを抜いた。
「うう、使った事ないのに!」
オークの一人は素手、もう一人はこん棒を持っている。
「ぎゃははははは! 使ったことないくせに、俺とやりあおうってのかよ! 俺一人で十分だな!」
「ああ、やっちまいな!!」
ラッキー。
二人がかりじゃなくて1対1でやれそうだ。
油断を誘うためならどれだけでもみっともないセリフを吐けるのだ。
「おらあ!! オークの拳を喰らいやがれ!!」
「きゃあ!!」
私は大きく大きく、できるだけ大きく吹き飛ばされて、木にたたきつけられた。
「くはははは! やっぱり人間の女は非力だぜえ!」
「師匠!? 大丈夫ですか!?」
「うーん、さすがオークは凄いですね。とっても怪力です!!」
大声でそう言うと、今ほど私に攻撃したオークさんはニヤリと口元を緩めました。
よしよし。
自分の優勢を完全に確信してくれた顔だ。分かりやすくて最高である。
吹っ飛ばされる、と言っても、パンチ一つであんなに吹っ飛ばされる訳がないというのに。だが、オークは油断してくれているおかげで、手ごたえに違和感を覚えずにいてくれている。
何より、
「いやぁ! 先制攻撃を! 先制攻撃を! 受けてしまいました! 死ぬかと思うほどの先制攻撃を!!!!」
「し、師匠?」
露骨すぎただろうか?
でも大事なことだ。相手が完全に先に手を出して来たという事実は、ビュネイ公爵に釈明する機会があったとしたら、情状酌量の余地になるし、相手が殺そうとしてきたと少なくともこちらが認識していたとなれば、やはりこれも情状酌量の余地が生まれやすい。
先に手を出す、というのは悪手なのだ。
ゆえに、これで、好き放題攻撃出来る。
「ううう、ですが負けるわけにはいきません」
「はーっはっは! ならもう一撃喰らわせてやるぜ!」
「きゃあ!」
やはり同じく攻撃を受けて、吹き飛んだ。
「はーっはっはっは……は??????」
しかし、
「ぎ、ぎゃあああああああああああああああああああああああああ!??!? ブ、ブヒイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ?!?!?」
攻撃してきたオークの口から、まさに豚のような悲鳴が上がる。
なぜなら、折れたナイフの先端が、偶然にも、オークの額に突き刺さってしまっていたからだ。
「ナイフで受け止めた時に、偶然、ナイフが折れて、それで突き刺さったみたいですね。ラッキーでした」
「え? ……し、師匠?」
こらこら、合わせなさいって。
「傷つけるつもりはなかったのですが。こんなことになってしまって……」
私は反省する。ふりをする。
「えええええ……。もしかしてこれって……」
だから合わせてくださいって。大事なことなんですよ、法律に配慮することは。
「兄弟!? くそ!! なんてことだ!! てめえ、偶然とはいえ、弟分をやるたぁ、ゆるせねえ!! このこん棒で弄り殺しにしてやる!!!」
「いえいえ。決して殺すつもりはなかったのです。それに、そちらが襲ってきたので仕方なく防御をしただけで、こちらからは一切手を出すつもりはなかったんですよ」
「うるせえ!!」
オークはこん棒を振りかざして襲撃してくる。
よし。
「ミューズさん、風魔法で樹上へ退避できますか? 高い場所が良いです」
「へ? あ、はいもちろんです、師匠! 風の精霊シルフよ。大地に縛られた身体にしばしの自由を与えたまえ。『浮遊』」
その魔法によって、私とミューズさんは、私が吹き飛ばされた時にクッションに使った高い木へ浮遊する。
20メートルは昇り、丈夫そうな枝の上に二人で降り立った。
大地ではオークさんがあらんかぎりの罵声をがなりたて、太い木を幹をこん棒で殴りつけ、私たちをふるい落とそうとしている。
「オークさん。こちらに戦う意思はありません。それに弟分の方との出来事は不運な出来事でした。どうか許してください!」
私は大声で謝罪の言葉を口にする。しかし、
「許さねえ! いいから降りてこい! 卑怯だぞ! ぶっ殺してやる!!」
「こちらには抵抗の意思はありません!」
さて、そろそろいいですかね。
「うるせえ! 許さねえって言ってるだろうが! 早くおりてッぎゃあああああああああああああああああ!?!?」
20メートルも上の方にいましたが、その光景はよく見えた。
何せ、先ほどまで優位を確信していたオークがきりもみ回転をしながら、私たちと同じ目線くらいまで打ち上げられ、白目をむき、舌をだらりとさせた状態で、そのまま地面まで落下していったのだから。
そして、もう一度下に目を向けた時、そこには赤毛の可愛い少女がいた。
「なーにをやっとるんじゃ? そなたらは? ま、考えておることはなんとなーく、分かるんじゃけど」
捕まえた猪を肩にのせたまま、オークを吹っ飛ばした元魔王リリちゃんが、呆れた様子で大木の上にいる私たちを呆れた様子で見ていたのだった。
「時間稼ぎも含めて、完璧だったと思うのですがいかがでしょうか?」
「は、はぁ……」
ミューズさんからは、なぜか賞賛のお声は頂けないのだった。
やはりナイフ一本をダメにする戦術はコスパが悪いということだったろうか?
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