48.規格外の化け物
「甘いですわ」
「!?」
私は意外な場所からの声に驚く。
倒れた兵士たちの影の中から、ズブズブという音を立てて、イゾルテさんが私の背後に現れたからだ。
「変わった魔法を使われる!」
闇に紛れる魔法はオーソドックスなものだ。
ただ、人間で、しかも聖女と言う立場にありながら使用する魔法としては極めて珍しい。
虚をつかれて慌てはしない。ただ、背後をとられ急所をさらした状態であることは明らかだった。
振り返る時間はなく、イゾルテさんは高速詠唱を行う。
「「魅惑の精霊サキュバスよ。その凄艶たる貪欲をもて、彼の者の生命を喰らいつくせ『生体捕食』!」」
「はっ! はははは! いいぞ! イゾルテ、さすが君は最高だぁ!! その平民聖女に思い知らせてやれ!!」
カイル殿下の嘲笑が響く。
勝利を確信した高笑いである。
でも、まさかBクラス以上の高位『呪い』魔法を使用してくるとは……。聖女とは思えないほどの、魔法の使用範囲だと感心する。
そして、躱す余地のないほどのその魔法は、私の魔力と言う名の生命力を喰らいつくそうと、魅惑的な女の姿をとって、私の中にスーっと入っていった。
寄生虫のようなもので、私を中から食い荒らす算段だ。
「これであなたも終わりね! サキュバスを通してあなたの魔力が私の中に流れ込んで……え」
イゾルテさんは口上を止める。
ぽたぽたぽた……。鼻から血が流れ出ていた。
そして、
「ひい」
と短く、それでもその一言に最大限の恐怖を詰めた悲鳴を上げると、ペタリと地面に腰を抜かすようにしてしりもちをつく。
「ど、どうしたんだ! イゾルテ! お前の得意な魔法だろう! 早くそんな平民の魔力など吸い上げてしまえ!!」
殿下の怒声が飛ぶ。
しかし、
「なに……これ……。こんなどうなってるの? 魔力の神経系が人間の域を超えてる……こんなの……見せられるだけで……ぐはっ!!」
次に血反吐を吐いた。
「ど、どうしたんですか?」
一方、攻撃を受けているはずの私が、イゾルテさんの異常な状態に気が付いて、声をかけてしまった。それほど、彼女の雰囲気は異様だったのだ。顔は青白さを通り越して、何か理解できないものを見た時のように、固まってしまって無表情である。
「理解できない……。大きすぎて把握できない……。触れたら消し飛ぶほどの巨大な魔力神経系……。ぎゃ、逆にとりこまれてしまう。も、戻って、それ以上触れないで。サキュバス。あ、あ、ああああ……」
イゾルテさんはガクガクと膝を震わせながらも、私から離れるように後退してゆく。
「どうかしたんですか?」
よく分からない普通に聞く。でも、
「……どうしたら、そんな風に、なってしまうの」
「?」
彼女はよく分からないことを言いながら、やっとのことで立ち上がる。
そして、殿下の方へと駆け戻った。
「何をしているんだ! イゾルテ! せっかく勝利目前だったというのに!!」
「勝利、ですか」
彼女はその言葉に先ほど、私の中で見た『何か』を思い出したのか。
「う、うう……。す、すみません殿下。あれが何なのか分かりませんが、作戦を変えた方がいいでしょう」
「……は、はぁ?」
イゾルテさんの言葉に殿下は唖然とするばかりだが、
「早く帰って普通の景色を見たい。すみません殿下。私は一刻も早く王都に戻ります。う、ううう……」
「は、はぁあああああ!?」
殿下は歯噛みしつつ、イゾルテさんを叱咤激励しようとするが、イゾルテさんはなぜか動けないようだ。
と、同時に子飼いの兵士たちは全員失神している。
「師匠の勝利ですね! さすが師匠です! あと、私たちなかなか良いコンビでしたね! 素晴らしい連携でした! あとで褒めて下さいね! ところで最後は何をしたんですか?」
「さあ? 何だか突然怯え始めたんですけど……」
「規格外のものを見たのじゃろ。正気を保てて良かったの」
二人が私の隣に来て言った。リリちゃんのは、どういう意味なのでしょうか?
「ま、ともかく今のうちじゃ。奴らもじきに回復させるじゃろ。魔王国へ行くとしよう」
「まぁ、それが良さそうですね」
どうしてイゾルテさんが攻撃の手を止めたのかは不明ですが、ともかく私達は殿下がイゾルテさんに喚いている様子を尻目に、さっさとビュネイ公爵領とグランハイム王国との大結界を超えたのでした。
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