43.魔王国ビュネイ領の神聖聖女に推挙しておいたのじゃ
「ところでセラよ」
改まった調子でリリちゃんが言う。
今は食後のティータイムでまったりとした時間だ。
「はい、なんですか?」
私はレモンティーを頂きながら聞く。
「セラにはその、なんじゃ。良い相手などはおらぬのか?」
「はい?」
私はリリちゃんの質問に困惑する。
意味が良く分かりませんでしたので。
と、そこにミューズさんが補足するように言う。
「お付き合いしている方とか、結婚を約束している相手がいるか、ということですよ」
その言葉に私は微笑む。
「いるわけないじゃないですか。こんな宮廷聖女をクビになった癒し中毒聖女にそんな浮いた話が出るはずもありませんよ」
「ボソ(ほう、そうか。それは好都合なのじゃ)」
「どうかされたんですか?」
「いや、なんでもないのじゃ」
リリちゃんは上品にコップを口に運んで一口すする。
見た目は割とやんちゃな感じだが、元魔王なのだから当然こうした仕草は洗練されていた。
「これからもそうした予定はないのじゃ?」
「は、はあ。どうしてそんなことを聞くのか分かりませんが、正直、そんな時間はないですよね。癒しを待っている方々の元へ駆けつけるだけの暇のない旅ですから」
「そうか。うむ。ところでその点について提案があるのじゃがな、セラよ」
リリちゃんはコップをソーサーに置くとはっきりと言った。
「人間国ではそなたは正当な評価を受けておらぬ。なので、魔王国モルテモに来てはどうじゃろうか? 先代魔王として、そなたの入国の許可は取っておいたのじゃ」
「ま、魔王国ですか!? な、何だか突然のお話ですね?」
「そなたの才能はこんな全く正当な評価を与えぬ人間国に置いておくには、あまりにももったいない。魔王国モルテモも一枚岩ではなくての。儂を慕っている女魔貴族ビュネイという者がおる。で、そこの公爵領の神聖大聖女として推挙しておいたから」
「えええええええええええ!? いつの間に!?!?」
「まぁ受けてくれるかは自由じゃ。正直、魔王国も新しい魔王になってから、荒廃が進んでおる。神聖大聖女という地位に推挙はしておるが、自由にしてくれてよい。いや、むしろそなたの癒しの力を存分に振るうことが出来ると思うのじゃ」
「ああー、でも確かに師匠は、元宮廷聖女っていう肩書きだから、教会とかには正式に所属できないし、少し治癒活動には制限が入ったりしますよね。行ける場所も限られてますし」
実はそうなのだ。
関所などでは身分証の提示が必要だが、通れない場所も多い。
そのあたりはその土地土地を治める領主が、元宮廷聖女という地位をどう見るかによる。
王族ともめごとを起こしたくないと思う保身の強い貴族は領地に入れないし、それほど気にしない貴族や、情報が遅い貴族なんかは融通が利く。どちらにしても制限がかなりあるのだ。
それが歯がゆいと思わなかったかと言えば嘘になる。
私の夢は最大多数の人達を癒しまくることであり、そこに人種や国境は気にする対象ではない。
とはいえ、それがままならないのは、人の身である以上仕方ないこと。
そう思っていた。
だが、魔王国で神聖聖女として活動するならば、魔族の人達を癒しまくれるし、そして実は、魔王国の向こうにはグランハイム王国とは別の人間の国が多数広がっているのである。
グランハイム王国での治癒活動には制限が多いが、他の国では完全にフリーだ。
ただ、気になるのは。
「ありがたいお話ですが、ちょっと私に務まるとは思えませんね。買いかぶられると、ちょっと困ってしまいます」
ということであった。宮廷聖女をクビになるようなヘボ聖女に務まるわけがない。
しかし、
「うん、まぁそういう勘違い発言するじゃろうと思ってな。ほれ、これ、公爵からの公式な招待状じゃから」
「え」
私は固まる。
「それって断れないってことじゃ?」
「別に断っても良いのじゃ。じゃが、まぁ可愛い元魔王の顔を立てると思って、とりあえず一度行くだけ行っているというのはどうかのう?」
「むむー」
私は考える。
確かに買いかぶりで、明らかにリリちゃんは私に日々魔力補給をうけているということを過大に恩に着て、この提案をしてきたのだろう。
元々、リリちゃんの力が凄いだけで、私自身は大したことはしていないのに。
でも、色々な国を渡り歩いて治癒の旅をするというのは、私の夢であることも確かだ。
それに、元魔王とは言え、魔貴族というれっきとした公爵様に、神聖聖女として推挙しているともなれば、簡単に無碍にするのは余りにも失礼だ。リリちゃんの好意も無視することになる。
そんなことを色々考えると、私は頷く。
「分かりました。色々と考えてくれてありがとうございます。ビュネイ様の元に行ってみたいと思います」
「そうか、良かったのじゃ。では、この街を癒し終えたら、早速出発しようではないか」
リリちゃんは笑顔を見せて言った。
ただ、
「ボソ(セラの性格なら絶対に断れない様、退路を断った甲斐があったのじゃ)」
何か不穏な独り言が聞こえたような気がしたのですが、意味までは分からなかったのだった。
ともかく、こうして私たちは街の癒しを終えた数日後、魔王国ビュネイ領へと向かうことになったのである。
まぁ、すぐに追い出されると思いつつも。
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