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4.一方その頃、第1王子は病に苦しみ悔しがる

~一方、その頃王城では~


「くそ、ゴホゴホ! 熱がまたぶり返したぞ! イゾルテを呼んできてくれ!!」


第1王子たるこの僕、カイル様の命や健康は、何者にも優先される。


何せ将来の王だからだ。


だから、平民の命などどうでも良いし、他の貴族どもも僕にかしずくことが当然である。


忌々しいシスター・セラは、平民出身だった。


そんな下賤な血筋を王家に入れるのは、いかな理由があろうと嫌だったし、代わりの聖女を見つけたと父や母を説得し、なおかつ縁戚関係にある公爵などにも根回しして、やっと婚約を破棄して、あの忌々しい平民出身の女を追い出したのである。


やれやれ。せいせいした。


あの時はそう思った。


だが、あれ以来どうにも城の様子がおかしいような気がした。


病気になる者が後を絶たず、またモンスターとの戦いで負傷した者たちの回復のスピードがどうにも遅いのだ。


まさかシスター・セラを追放したせい?


「馬鹿馬鹿しい! げほげほ!!!!」


はげしく咳き込みながら俺は歯ぎしりをする。高熱が出てきて、思考がまとまらない! くそが!


「あんな平民の女にそれほどの力があったわけがない!」


だが、ならばなぜ今自分はこうして病床にふせっているのか。


そのことを僕は考えないようにした。


そのことを認めれば僕は、自分の失敗を認めることになるから。


将来の王たる者、絶対に失敗など許されないのだ。


「ええい! イゾルテはまだなのか、くそ! 早くしろ! 第1王子たる僕が呼んでいるんだぞ!!」


手元の鈴を何度も鳴らす。


すると、申し訳なさそうな表情の執事が入室してきた。


「お前など呼んでいないぞ! 宮廷聖女のイゾルテを呼べと何度言えばっ……」


「無理です」


「分かる……って、え?」


こいつは今、何と言った?


第1王子である私の言葉を否定したというのか?


俺はそのことに愕然として、思わずパクパクと口を開閉することしかできない。


だが、執事は済まなさそうな表情で、しかし、淡々と説明をする。


「イゾルテ様は殿下へ1時間前に癒しの呪文を使用され、現在魔力切れを起こしています。というか、それ以前にも、何度も殿下の病の治癒に当たっていますので、オーバーワークかと……」


「は、はぁ!?」


俺は思わず驚くのと同時に怒鳴る。


「そんなわけないだろうが! この程度の病の治癒なら、シスター・セラならば幾らでも出来たぞ!」


「恐れながら、それは彼女が特別だっただけではないですか?」


「なぁ!?!?」


最も聞きたくない言葉をあっさりと言われて、俺は目をむく。


「馬鹿な! たかが熱を下げるくらいでっ……」


「一時的に病気を回復させることはできても、今のように再発することが多いのです。ですので、シスター・セラのように何度も神の奇跡を行使できる存在はなかなか探しても……」


「もういい! いいからイゾルテを! イゾルテを呼んで来い!!!」


俺は怒鳴り散らして、執事の言葉を聞こえないようにする。


僕は失敗などしていない。


采配ミスなどしていない。


卑しい身分のシスター・セラに才能などあるはずがないのだ。


僕には高い身分の公爵令嬢イゾルテのほうがふさわしい。


しかし、


「はぁ、はぁ……。カイル……殿下。すみません……」


「イゾルテ……。お前、随分……」


俺はそこでグッと言葉を飲み込んだ。


なんとイゾルテはここ数日でぐっと老け込んでしまったのだ。


髪の毛はほつれ、あの美しかった白磁のような肌は、今はガサガサになっていた。


エキゾチックだった瞳は弱弱しく濁っている。


とても、俺に回復魔法を使用できる状態でないことは一目で分かった。


くそ。


くそ。


くそ! くそ! くそ! くそくそくそくそくそ!!!!!


俺は内心で絶叫する。


(なんでこんなことにっ……!!!!!!!!)


俺の叫びは誰にも届くことはなかったのだった。




こうして、シスター・セラと第1王子カイルは、対照的な道を歩み出した。


セラは聖女として多くの民を癒すことに夢中になって世界を駆け巡る一方で、グランハイム王国は護国の柱であった聖女を自ら追放するという最も重大な過ちを犯してしまったのだった。


セラの治癒無双の旅は、今まさに幕を開けたのだ。

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