38.元部下から嘲笑される元魔王リリ
真夜中。
『なりかけ』の人々の間をすたすたと私たち三人は教会に向かって歩く。
私とリリちゃんは世間話などをしている一方で、ミューズさんはオドオドしていて可愛い。
「どうかされたんですか? ミューズさん、さきほどから呼吸が荒いですよ? 私の癒しを催促しているんですか? ゾンビ化現象の原因を退治しようとしているこの緊迫した最中に」
「なんちゅう卑しい女じゃ。恥を知るが良いのじゃ。もっと緊張感を持つべきじゃ」
「それはあなたたちのことですよー!? なーんでこんな真っ暗闇の中、ゾンビ化しつつある人たちの間を平気で歩けるんですかー!?」
ミューズさんは半泣き状態で叫ぶが、
「これからこの方達『なりかけ』が私の治癒によって癒されて人間に戻るかと思うと、はぁ、背筋がゾクゾクします」
「まぁ、儂は先代魔王なのでな。こういうんは慣れとるのじゃ」
「あううう、凡人の自分が憎い」
「まぁ待て。儂をこのセラと一緒にするのはどうかと思うのじゃ。儂はかような変態ではない」
「面白い冗談を。さぁ、つきましたよ」
世間話をしているうちに、教会へと到着する。
すると、何もしていないのに正面扉が開かれた。
「招かれているようじゃなぁ。ま、ここは儂が先頭を行こう」
リリちゃん、ミューズさん、私の順番で中に入る。
バタン!! という大きな音ともに、扉が締まる。逃がさない意思のようなものを感じる。
と、その時、教会の祭壇の上に神への冒涜を見せつけるかのように、足を組んだ状態で腰かける者がいた。そして、それを取り巻くように他に二体の者がいる。
だが、その容貌は異様だった。
全員が骸骨にローブのようなものを身に着けている。中心の者は漆黒の外套をまとい杖を持ち、他の二人は青と赤の外套をまといつつ剣を所持していた。
「やはりお前じゃったか。魔貴族の十番、呪われた者の王よ!」
リリちゃんが言う。
どうやら既知の仲だったようだ。魔貴族というのは魔王に仕える直属の幹部のことで、全員で10人いると言われている。そのうちの一体ということだろう。
「くかかかか。まさか先代魔王殿がこのような場にいるとは。なぜ生きておられる。やはり死は怖いものですかな。たとえ魔王といえども生き恥を晒して生き延びたいと思うほどには」
「無理もない……。しょせんは弱き者。強き王の前に玉座を降りた腑抜け…だ……、ひ、ひ、ひ」
「そうねえ。これ以上生き恥をさらすようなら、私たちの仲間にでもなっちゃえば? その方がこれ以上情けない姿を晒さなくても良くなるわよ。ききききききき!」
漆黒の死者が嘲笑めいた嗤い声を立てる。
そして、それに青と赤の死者が同調するように嗤った。
だが、リリちゃんは気にもしていないように続ける。
「ふん、情けなくて悪かったのう。ま、儂にも青春が巡ってきたってところかの」
「はぁ?」
漆黒の死者がぽかんとした表情をしたのが分かった。
「ふん、そなたには分かるまい。期待もしておらぬよ。それより聞かせよ。この街の人間たちをゾンビにしてどうする気じゃ? 人間どもと戦争は控えよと、あれほど申しつけていたはずじゃ」
そうだったんだ。
リリちゃんのおかげで今の時代は特に平和だったのか。
ありがとうリリちゃん。
しかし、その話を聞いて、三体の死者は更に馬鹿にするように嘲笑する。
「くか、くかか!! 弱き魔王らしい腑抜けた意見よ! 最弱の魔王の貴様の言葉に誰が耳を貸すものか!!」
「その通り……だ。お前ごとき……が……この我ら三位一体たる……呪われた者の王に敵うわけもない……。ひひ」
「そうよ。早くその首を差し出しなさい、くきききき! いえ、あるいは、くききき」
赤き死者が嗤う。
「そこの二人を生贄に差し出しに来たのかしら? それで自分を我らの部下に加えて欲しいということかしら? くい、ききききき! それならそうと早く言えばいいのに」
くかかかか! ひひひひ! くきききき!
死者たちの嘲笑が神聖な教会に呪いのように渦巻いた。
しかし、
「いや、少し腹が減ったと思うてなぁ」
「な、なに?」
リリちゃんの言葉に、死者たちが戸惑うようなそぶりを見せる。
「胃の腑が鳴って仕方ない。そうじゃな、そなたらが儂に勝てたら、部下にでもなんでもなってやろうて。うむ、その代わりな」
先代魔王ブラッド・ヘカテ・リリモーティシアは獰猛な笑みを浮かべて言った。
「儂が勝ったら、そなたらの頭から足までひとかけらも残さず食べてやろう。歓喜するが良い、この儂が喰えたものではない貴様らを食してやろうというのじゃからな」
それは魔族における宣戦布告。
互いの命運をかけた呪いを生じ、その約束がたがえられることはない。
「馬鹿め! くきゃきゃきゃきゃ! 馬鹿め! お前のような最弱たる元魔王が、魔貴族最強の我に敵うはずがなかろう!!」
哄笑とともに、死者たちとの戦闘は開始されたのだった。
しかし――――――――――――――――
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