37.絶望の街
「今日もすがすがしい良い天気ですね。リリちゃん、ミューズさん」
「何だか眠くなってくるのじゃ、むにゃむにゃ」
「師匠もリリ様も荷台のほうで休憩してもらっていても良いですよ。馬車の運転は私がやっておきますのでって、うわーーーーーーーーーっと!?!??!」
突然、いつもおとなしい馬がいなないて、前脚を上に蹴り上げた。
これ以上進みたくない、と言っているように感じる。
「この先はティアムールの街があったと思いますが……」
「ふむ、何かあったのかもしれんの。かすかじゃが、この臭いは……」
クンクンとリリちゃんが鼻を動かす。
「死臭か? いや、少し違うか」
「おっと。それはけが人ということですか? こうしてはいられませんね。中毒者の血が騒ぎます。不謹慎なのは百も承知で全力にて駆けつけましょう!」
「自覚があるから良いってもんじゃないんじゃがな」
「まぁまぁ。偽善でもなんでも善ならいいんじゃないでしょうか。それに師匠のは純粋な中毒ですから」
「皆さんが私をどう思っているかよく分かりました」
私はニコリとしてから、馬車を降り、二人を連れてティアムールへと向かいます。
そこに私の癒しを必要とする者たちがいると本能が感じたので!
街の門は開かなかったので、上から無断で入らせてもらう。
すると、
『あー……うー……』
動けなくなって壁にもたれかかりうめき声を上げる人間が多数いた。
家屋の中には更にたくさんの者たちがいるだろう。
「な、なんですか、これ!?」
初めて見る光景にミューズさんは驚く。
まぁ、無理もない。
「ゾンビですよ。知りませんか? いえ、正確にはゾンビの前段階『なりかけ』ですが」
「そのようじゃな。街全体がこうなっておる。飲み水に何かを混ぜたか、律儀に一人一人をゾンビ化させるために襲ったのか知らぬがな」
「ひ、ひどい!」
「まぁ、とりあえずちょっと街を歩きましょうか」
「師匠は落ち着きすぎ!」
ミューズさんにツッコまれながらも、私は街を見ていく。
中心街へ歩いてゆくほど、人の数は増えていき、倒れている人達も多い。
「これは大変そうですね。やれやれ、困ったものですね。むふ」
「ノーコメントじゃ」
「今、笑いました!? この状況で笑いました!?」
「さて、そんなことは決して。さあさあ、もっと隅々まで見て回りましょう。むふ、むふふふふ」
「……」
「もう隠す気がない!?」
そんな感じで街中を歩き回った。
街の一番奥には教会があって、そこには人がいない。
そこからは引き返して、中心地まで戻って来て二人に言った。
「一万人くらいでしょうか? 家屋の数からしても中規模の街ですし、それくらいの人数は想定するべきでしょうね」
「い、一万人!? そ、そんな数が『なりかけ』だなんて!!」
ゴクリ、とミューズさんが息をのみます。
「もし、このまま全員が『なりかけ』から本当のゾンビへと『孵化』すれば大変なことになるでしょうね」
「じゃな」
リリちゃんも頷き、
「恐らく、壁を破壊して近くの村々を襲うじゃろう。また旅人や行商人なども見境なく襲う。この周辺一帯が地獄になるのは火を見るよりも明らかじゃ」
と淡々と言う。
「そ、そんなっ……! ど、どうしたらっ……!?」
ミューズさんが青ざめた表情で慌てた。
私は神妙な表情で頷きながら、彼女へ言った。
「ゾンビ化の病魔の撃退には首魁がいます。そして、ゾンビ化が完了するまではその首魁は必ず近くにいなくてはならないのです。ですので、その首魁を私たちで討伐しましょう」
「わ、分かりました。まずはその首魁の場所の調査ですね」
そうミューズさんは言うが、
「え? 場所ならもう分かってますよ?」
「……へ?」
彼女はポカンとした。
「一緒に街の中を歩いたじゃないですか」
「そうじゃぞ、ミューズ。お主も一緒に見たではないか」
「え? え? え?」
ミューズさんは頭の上に疑問符を浮かべていて可愛いので、私は補足した。
「街の一番奥。そこが敵の本拠地でしょう。ただ、今は留守のようですね」
「うむ。恐らく夜に根城にしておるのじゃろう」
「そ、そうなんですか?」
ええ、と私は頷く。
「教会に人がいないなんて変ですからね。首魁が回収したんでしょう」
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