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36.一方その頃、絶望する王子は青ざめてへたりこむ

「な、なんでこんなことになってしまうんだ……」


僕は顔を青ざめさせながら、息も絶え絶えで、とても追加の魔法を使用できる状態ではなさそうなイゾルテを絶望的な気持ちで眺めながら、茫然と呟いた。


こんなはずじゃなかった。


平民聖女を追い出し、最高の聖女を宮廷聖女として加入させた。


もはや僕らの快進撃はとどまることを知らない状態になるはずだった。


「そ、それがどうして、こんな有様に……」


僕はかすれた声で、パクパクと口を開閉する。


兵士たちの治癒については運が悪かっただけだ。イゾルテも不慣れだったこともあるし、たまたま魔力を多く必要とする兵士が多かっただけだ、と思う様にしていた。


だが実際は、その後もイゾルテの治癒の効果は思ったほど凄くない、という話が、頻繁に耳に入る様になっていた。


なぜか元宮廷聖女セラの時は簡単に治ったはずの傷が完治しない。


あるいは、病気になることがなかった城の者が、しばしば病魔に蝕まれる事態が多数見受けられるというのだ。


だが、そんなのは偶然に過ぎない、と無視していた。


僕を追い落とそうとする、第2王子の勢力が流した噂に過ぎない。哀れな嫉妬に過ぎないのだと。


「だ、だからこそ。今回の結界柱の事件解決で文句を言う無礼者たちを一掃するはずだったのに……」


結界柱は国家安全の根幹だ。


この修復に貢献すれば、僕の王位獲得への道は一気に加速するだろうと確信していた。


だが、それは逆に言えば、


「こ、このミッションをミスすれば、僕の王位継承権に疑問符がついてしまう!!! なんでこんなことにぃいいいいいい!?!?!??」


僕は絶望して絶叫する。


すべてうまくいくはずだったことが、あの平民聖女セラを追放してから、すべての歯車がおかしくなったような違和感を覚える。


そ、そんなわけが……。


「それじゃあまるで、彼女こそがこの国にとって無くてはならなかった存在。すなわち、護国の象徴たる宮廷聖女そのものじゃないか……」


それを自分は追放してしまったというのか?


頭はずっと混乱している。


そもそも、イゾルテは上級聖女なのだ。なのに、どうして彼女より下級レベルの聖女で起動できていた結界柱を駆動できないのか。


意味が分からなかった。


と、その時である。


「あの、殿下。実は申し上げたいことがあるのですが……」


兵士長が話しかけて来た。


「なんだ……」


僕は絶望してへたりこんでいたため、ただ反射的に返事をした。だが、次の言葉で思わず我に返ることになる。


「元宮廷聖女セラ様にお戻り頂くことは出来ませんでしょうか?」


「は、はぁ!?!??!」


僕は聞きたくない名前をいきなり告げられて、思わず激高してしまう。


「どうしてあんな平民聖女の名前が出てくる! あんな無能な平民に戻ってきてもらう必要などどこにもないだろう!!!」


怒鳴りつける様に正論をたたきつけた。つもりだった。


しかし、兵士長や周囲の兵士たちは、ポカンとした……。いや、むしろ蔑むような、無知な子供を見るような哀れんだ目線を僕に向けた。


くそ! なんだその目は!!


あのセラが何だっていうんだ!


だが、その言葉を僕が口にすることは出来なかった。なぜなら。


「いえ、そもそも結界柱へ月に一度来ていただき、守護結界を維持されていたのは、セラ様でしたので。普段守護結界を維持している聖女は、セラ様の魔力のおかげで何とか結界柱の稼働を維持できていたのですよ?」


「……は?」


なんだそれは?


聞いていないぞ?


い、いや。


僕は破り捨てた引き継ぎ書の文面に、うっすらと結界柱に注入する魔力が必要となるという記述があったような気がする。


それに、彼女を追放するときにそれなりの嘆願書が届いたが、どれも大げさに書いたくだらない冗談だと取り合わず、全て無視していた。


その中にも結界柱からの嘆願書もあったことを思い出す。


「まさか、嘆願書をお読みいただいていなかったのですか? 分かっているのですか?」


兵士長の声は冷えに冷えていた。


「この結界柱の重要性が。王子ともあろうものが、まさか理解していなかったのですか?」


その言葉はまさに、僕が王子として失格である、ということを言外に突き付けた言葉に他ならなかった。


「ぐ、ぐがああああああああああああああああ!!!」


僕は悔しさと同時に絶望の叫び声を上げる。


今回の件はすぐに国王や貴族たちに知られることだろう。


もはや大結界の維持が難しいともなれば、僕の王位継承権すら怪しくなる!!


「ど、どうしてこんなことにいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!!!!!!!」


こんなはずじゃなかった。


僕は優れた功績で王となり、全ての者たちの上に君臨する最高の栄誉を手にするはずだったのだ。


だが、現実はこうして、たかだか北の砦を守る兵士長ごときに蔑視の目を向けられ、周囲の雑兵たちからも、白けた視線を受けている。


くそ! くそ! くそ! くそ! くそ! くそ! くそおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!


僕は絶望と怨嗟にまみれた絶叫を続ける。


「ぐぎぎぎぎぎ……。こ、こうなったら……。ああ、そうだ、こうすればよかったんだ。僕は王子なんだ。ど、どんなことをする権利だってある……」


僕はニチャリと唇を歪めた。


「そ、それに奴だって喜ぶはずだ。く、くはは。むしろ、また城に戻れることをありがたがるに、違いない!!」


そうすればまた僕の権勢は元に戻る! 以前の王位に最も近い王子として、復帰することができるんだ!!


は、ははは。僕は以前の姿を思い出して、つい薄ら笑いを浮かべた。


戻る! 僕は以前の自分を取り戻すんだ!


……奴を追放した時、喜び快哉を叫んでいたのはきっと悔し紛れだ! そうに違いない! 僕はそう自分に言い聞かせ、すぐに自分の連れて来た部下たちに、奴の行先を早急に調べさせることにしたのだった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 『聖女一人にそういう力がある』ではなく、 システム的にそういう規格外の魔力持ちを必要とする構造だとしたら、そもそも破綻してるくない?
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