35.一方その頃、崩壊する王子の権威
王城から北の結界柱までの距離は馬車で1週間ほどである。
一つの柱の結界が損なわれると、結界にほころびが生じる。そのため早急な対応が必要であった。
王国は結界により守護されており、魔族からの侵入を防いでいるからである。
魔族は一般に腕力や魔力が強く、まともに戦えば国が亡びる可能性が高かった。
だが、
「くっくっく。それゆえに今回の成功は僕の権威を高め、イゾルテの名を王国中に知らしめることになるだろう」
僕は唇を歪めて笑う。
「はい、殿下、お任せ下さい。結界柱の聖女と言えば、確かに上級レベルの聖女ですが、私には劣ります。代わりが務まらないはずがありません。いえ、むしろ、より強固な結界を張る結果になるでしょう」
「わはははは!!! その通りだ、イゾルテ!!!」
「おほほほほ!!!!」
僕たちは輝かしい未来に馬車の中で乾杯する。
成功した未来のイメージには、僕が戴冠し神々しく玉座に座る光景があった。そして、それはまさに現実になろうとしているのだ。
「くあーっはっははっはっは!!」
「うふふふふふふふふ!!!」
こうして僕たちは、北の結界柱の塔へと到着したのである。
砦の中は至ってシンプルな造りであり、厳重に衛兵たちに守られていた。
そして、一つの大きな扉をくぐると、そこには王国を守る守護結界を形成するための、巨大な魔法陣が描かれていたのである。
聖女はその中心において、聖句を詠唱し、結界柱を起動させることになる。
ただし、一度十分な魔力を通せば、一定時間稼働するため、休憩もとることが可能だ。イゾルテならば楽勝だろう。
僕たちは堂々と進んでいった。
「王子自ら、宮廷聖女を連れて来て下さるとは、感激の極みであります」
ここの兵士長だろう。
尊敬の念を込めた瞳で僕の方を見た。
ふっ、と僕は余裕の笑みを浮かべる。
「国の危機に私心なく機敏に動くことができるのが、将来の王としての才覚の一つだと確信しているのでね」
「さ、さすがでございます! カイル殿下」
賞賛が気持ちがいい。
だが、こんなものは当たり前のことなのだ。この結界の復旧に成功すれば、更なる賞賛、そして王位。ぐひひひ。僕は思わず笑いそうになるのをグッとこらえると。
「さて、こんな会話をしている暇は無駄だろう? 早く結界柱の復旧に当たろうじゃないか。ここにいる僕が選んだ聖女、イゾルテに不可能はないからね」
「ええ、もちろんですわ、殿下」
彼女はそう言うと、エキゾチックな笑みを浮かべてから、魔法陣の中心へと進んだ。
「では始めますわ、殿下。四神司る方位の精霊よ。王国の守護と国家の安寧を守り、災いを除きたまえ。『無窮の神鳥』」
「ふ、素晴らしい」
僕は満足してその光景を見守る。精霊フェニックスによって魔法陣が駆動し、結界柱が起動するのである。後は他の結界柱と勝手にリンクして、王国全体を守る守護結界となるのだ。原理自体は分かっていないが、古代からある魔法陣を利用しており、このようにちゃんと動いているのだから、問題ないだろう。
「よし、上手く行ったようだな。イゾルテ、一旦起動させしてしまえば、ある程度放置しておいても大丈夫らしい。どうだ、この後は一緒に食事にでも。あるいは、ぐひひ」
僕が彼女とのこの後の予定を口にしかけた時であった。
「ぐっは!!!!!!!!!!」
「…………は?」
突然、さっきまでぴんぴんして、愛想を周囲に振りまいていたイゾルテが両手をつくようにして、倒れ込んだ。
と、同時に、
『シュウウウウウウウウウウウウンンンンン………………………………………………』
起動したと思った結界柱が、その動きを停止させたのである。
美しくルビーのように光り輝いていた魔法陣の明かりはまったく鳴りを潜めた。
「ど、どうなって、るんだ……? は?」
僕は何が起こったのか分からずに、口をパクパクとするしかない。
どういうことだ?
これは楽勝の任務だったはずだ。
それなのに、どうしてイゾルテが倒れているんだ?
しかも、青白い顔をして、脂汗までかいているように見える。
「な、何ごとだ!? へ、兵士長! お前たち何かしたんじゃないのかあ!?」
思わず周囲に怒鳴り散らしてしまう。さっきまでの余裕の態度からは考えられないほどの豹変ぶりだと気づいたが、そんなことに構っている余裕などなかった。
だが、兵士長からは、
「い、いえ。私たちは何も。そもそも、我々兵士はこの魔法陣に触ることさえ許されていませんし、24時間体制で監視もしています。誰かが小細工をするようなことはできません」
「じゃ、じゃあ、どうしてこんなことになるんだ!? い、いや、これは何かの間違いか!? そ、そうだ。そうに違いない!!」
僕は駆け足でイゾルテの元に駆け寄って声をかける。
「は、ははは。イゾルテらしくもないな。詠唱にでも失敗したか? ちょっとうまく起動できなかったらしい。さあ、こんな簡単な任務は終わらせてさっさと王都へ帰ろう。さ、もう一度やってみて……」
「で、殿下。魔力が……尽きました……」
「……は?」
僕は何かの聞き間違いかと思う。だが、イゾルテは青白い顔で、ヒューヒューと肩で息をするだけだ。それは、たった数秒の魔法陣の起動で、魔力のほとんどを使い果たしてしまったことに他ならなかった。
「ば、ばか……な……」
僕はヨロヨロと後ずさると、ドスンとしりもちをついてしまった。
周囲の兵士たちからの視線も最初の期待に満ちていた物とは違う。
期待させるだけさせておいて、全く実力のない、勘違い野郎たちが来た。そんな疑念や蔑みの視線だった。
「な、なんで、こんなことが起こるんだ……?」
僕は顔面を蒼白にしながら、ただ震える唇で言うしかなかった。
戴冠し玉座に座る僕のイメージをしていた自分が、もはやはるか遠い昔の出来事のように思われて仕方なかった。
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