32.エルフの里の呪い、全部祓っときましたので
「農作物は育たないし、木々が腐って倒れてしまう問題も深刻だったが、まさかあのミスティカ様の呪いだったとは……」
「牛や豚も原因不明の怪死が続いていた。本当に恐ろしいことだ……。思えば、我々エルフ族全体も体調が悪かった」
「だが、その呪いは里全体に及んでいるんだろう? 聖女様のお力といえども、そう簡単に里全体の呪いを祓うことが出来るのか?」
ざわざわ! とエルフの方達が私たちを取り巻くようにして、色々なことを言っていた。
そんな、深刻な表情のエルフたちに対して、
「はーい! それでは始めますねー。よろしくお願いしまーす!」
明るい私の声が響いた。
「……」
おや、元気がない。
「ほら! 呪いには暗い気持ちは逆効果ですよ! さぁ、私に続いて笑ってください。わっはっはっはー!」
「わ、わっはっはっは……」
「まだまだ声が小さいですよー! わっはっはっはー!!」
「わっはっはっはー!!!」
小さな子供が率先して笑ってくれた。
「おお! 子供たちはやっぱり素直で可愛いですね! さぁ、大人たちも見習いましょう!! 笑顔で呪いを吹き飛ばすんです!!」
「せ、聖女様……ですが、こんなことが本当に解呪につながるんですか?」
誰かが不安そうに言うが、
「病は気からと言うじゃないですか? 聞いたことありませんか?」
私はあっけらかんと答える。
「そ、それはそうですが……」
うーん、ちゃんと説明した方がいいか。
「みんなで笑うことは、呪いの反対である、祝いの儀式になります。笑うことって大事なんですよ? よく酒の席を設けますよね? あれも一種の悪魔祓いですし、笑って不幸の種を吹き飛ばす儀式でもあります。今はその儀式をすごく簡易的に行ったんですよ」
「そ、そうだったのですか!」
そうですよ。それに、
「そろそろ、皆さんの呪いは解けて来たと思うのですが、どうですか? 体調が少し良くなってきたと思うんですが?」
その言葉に、今気づいたとばかりに、エルフたちが驚きの声を上げた。
「え!?」
「あ、あれ!? ほ、本当だ!? あんなにつらかった体のだるさが、すごく軽くなって!?」
「す、すごい! 信じられない!!」
喜んでもらえて良かった。
「これで呪いは解けたのですか?」
「あ、それはまだですね」
私はあっさりと首を横に振った。
「今回の呪いはもの凄く強力です。この超広大なエルフの里全体を呪うレベルですから! まったくもって、ミスティカさんが誰からこの呪いの魔法を習得したのか気になるところですが……今は考えても仕方ないので置いておくとして。ともかくですね、この程度の儀式で、呪いを完全に祓うことは不可能です」
その言葉にエルフたちはしょんぼりとする。
「そうなのですか……。聖女様ですらそこまで言われるほどの呪いだとは……」
「仕方あるまい。命が助かっただけでも良しとしよう」
「そうだな! ありがとうございました、聖女様!!」
あ~。
「いえ、あの。すいません、まだ始まってないのですが。というか、これから魔法を使って完全に呪いを解呪するので、まだ終わってもらうと困るんですが」
「……え?」
「し、しかし。超強力な呪いだとさっき」
「はい。なので、少し協力してもらったんです。儀式で祝福のフィールドを展開しておいてもらえると、解呪がすごく効率的ですからね。なくても大丈夫なんですけど、時間的に待ち時間が少なくなります」
「ええええええええええええ!? わ、我々のま、待ち時間を気にされてさっきの儀式をされたのですか!?」
「あ、はい。そうですよ?」
私は当然とばかりに頷く。
「あんまり長く待たされると、嫌がって帰っちゃう患者さんがいるかもしれませんからね」
「そ、そんな不敬な輩はおりません! ご安心ください」
「あ、そうだったんですか? 宮廷だとそういう貴族さんたちが一杯いたんで、てっきりそれが普通だと思ってました」
「それはまた、とんでもない職場だったのですね……」
「いえいえ。すぐに治癒してしまえば済むだけでしたから。ただ、たくさん癒せないのだけが不満でしたけど。でも、今はこうしてエルフの皆さんを癒せてハッピーです!」
「そ、そうですか!? もう色々規格外すぎますよ、聖女様は!!」
私が満面の笑みを浮かべるのと同時に、若干、エルフさんたちが引いているような気がしたが、どうしてだろう。
ともかく、
「では始めますね」
そう言って、呪いを解く魔法の詠唱を始めたのだった。
「聖なる一角獣ユニコーン。悪魔の穢せし呪いと不浄の地を癒し、遍く白へと還したまえ。『呪の中和 』」
美しき一角獣ユニコーンが召喚され、里の上空を疾駆する。その幻想的な光景に皆目を奪われた。
ユニコーンが走った場所からは、呪いによる不浄が消え去り、蝕まれて不調だった体調もたちまち回復する。憔悴していた者や動物たちも今後十分な休養と食事をとればたちまち回復するだろう。
「信じられない。あれは伝説の聖獣ユニコーンじゃないか?」
「すごすぎる。まさに聖女様だ。ありがたやありがたや! 里を救ってくださった!」
何だか祈られてしまったけれど、
「い、いやいやいやいや。私が凄いんじゃなくて、凄いのはユニコーンさん自体ですから!」
私はそう言って、彼らの勘違いを否定しようとしたのだが、結局、里の呪いの全てが祓われる最後まで、彼らから信仰されてしまったのだった。
いや、まぁ、たくさん癒せて私としては満足ではあったのですが。
ちょっと、あまり人に傅かれるのは、そんな大層なことをしたわけでもないから、困るなぁと、正直困惑するのだった。
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