27.お姉様の苦しむ姿とても好き
「ど、どうして私を殺そうだなんて。本当の姉妹なのに」
その言葉に、ミスティカは馬鹿にしたような笑みを浮かべる。
「あははは。面白いことを言うのね、お姉様。そんなの楽しいからに決まってるじゃない」
「た、楽しい?」
悍ましい言葉を当然のように吐きながら、目の前の美しい少女は語る。
「将来の族長の地位が確約されたお姉様。そんなお姉様が落ちぶれていく姿を見たかった。そして、お姉様がいなくなれば、エルフの女王の地位は当然私が継ぐことになる。ね? 気持ちの良いことばかりでしょう? それに、気づいてた?」
彼女は更に笑みを濃くして言う。
「ミューズお姉様が魔法が使えないことで、私やお父様、お母様たちをよく思わないエルフたちが沢山いるっていう話。あれは嘘よ?」
「え?」
意味が分からないと、ミューズはぽかんとする。
その姿を見て、とうとうミスティカはクツクツと笑い出す。
「そうそう。その顔が見たかったのよ。あと、魔法が使えないという理由で私に危害を加える人たちもいたっていう話ね、あれも全部嘘よ」
「そ、そんなわけありません!!」
ミューズさんは反論する。
「わ、私は実際に難癖をつけてくる人達や……。それに、あなたに危害を加えようとする人達の姿も見た! 私だけが馬鹿にされたり暴力を振るわれるなら我慢する。でも、みんなに被害が広がると思ったから私はっ……!」
「あれは私が指示したのよ」
「……え?」
ミューズさんは意外な言葉に呆気にとられる。
「ど、どうして?」
「お姉様の悩み苦しむ姿をもっと見たかったからに決まってるでしょう?」
その笑みは恍惚感を伴ってか、もはや悪魔的ですらある。
「実際、最高だったわ。お姉様が悩み苦しみ、のたうち回る姿は。何日も何日も、徹夜で魔法の練習をして、それでも精霊に逃げられて泣きべそをかいている姿に、どれほど私が喜悦を感じたか。ああ、どう伝えたらいいか分からない」
でも、とミスティカさんは急に表情を消して言った。
「少し遊び過ぎた。お姉様には自殺してもらうか、あるいは断頭台で処刑するか。あるいは森に入ってきた野盗あたりに殺される計画を考えていたのよ? でも、計画を考えているうちに、お姉様は出て行ってしまったの。まったく信じられないわ」
彼女は口元には笑みを浮かべつつも、瞳はさながら氷のように冷たい色をたたえる。
「さあ、最後のフィナーレというところで、道化が舞台から逃げ出してしまったのだから。まあ、でも」
彼女は心から嬉しそうに嗤った。
「こうやって戻って来てくれたんですもの。さあ」
彼女は唇を歪めて、
「最後の、続きを、再開しましょう。お姉様。そして、不運にもお友達も一緒にね」
彼女はそう言って、初めて私たちの方も見た。
「力が入りませんね……」
「聖女でしょうが、魔王でしょうが、身体を動かすことは愚か、魔力を行使することもできない、エルフ族に伝わる秘伝のキノコスープをあれだけ食べたのだから当然ね。大丈夫、出来るだけいい声を上げて、逝ってね?」
彼女はそう言うのと同時に、ジャギンという音とともに、物騒なナイフを取り出す。
「これもエルフ族に伝わる秘伝の毒が塗られているわ。苦しんで苦しんで、死ぬように調合された毒よ」
彼女はそう言うのと同時に、牢屋の中へと入ってきたのだった。
そして、
「あはは」
彼女の笑い声とともに、ナイフは手慣れた挙動で振り下ろされたのだった。