25.素敵な微笑み
さて、見張りのエルフさんたちに案内をされて、私たちは里の中へと入ることが出来た。
そして、早速エルフの族長との謁見となったのである。
「で、どういうおもむきで、本日はお越しになられたのかな、魔王殿」
そう言ったのは、現在の族長であるザーザさんという男性だ。
見た目は青年のように見えるが、エルフは年齢不詳なので、もしかしたら数百歳は生きている可能性もある。
「わざわざ、我が不肖の娘などを連れて……」
ビクリ、とミューズさんが肩を震わせた。さすがにフードをしていてもばれていたか。というわけで、彼女はフードを外す。
とすると、この方がミューズさんの父親に当たるわけか。
「儂はただの付き添いじゃよ。今日はこの聖女セラとそなたの娘が、用事があって足を運んだのじゃ」
「ほう、それはどういう?」
ザーザ族長がこちらを見て聞く。
実は……と私が話し始めようとした時であった。
「お姉様!! 会いたかった!!」
バーン!! と扉を大きな音を立てて、美しい少女が入ってきた。
ミューズさんよりももう一回りほど小さい。
「こら! ミスティカ!! 今は大事な話をしているのだぞ!!」
そうザーザ族長が叱責するが、
「ご、ごめんなさい。だって、久しぶりにお姉様に会えてうれしかったんだもん!」
そう甘えるような声で言った。
その声はどこか砂糖のように甘美な響きをもっていて、聞く者の心を蕩かすような不思議な抑揚を持っている。
そのせいだろうか。
ザーザ族長もそれ以上はあまり強くは言わず、
「仕方ない奴だ」
と笑みさえ浮かべる。
ミスティカという少女もやはり、いとけない表情で、
「今度から気を付けます。それに私も次期族長として、こういう会談には同席すべきかと思って」
そう言うと、姉であるミューズさんの方を見た。
もちろん、その表情には何の意思も感じられない。しかし、
「っ……!」
「あら、どうされたの、お姉様……? ご気分が悪いの? そうだわ、私、最近美味しい果実汁を作っているの。もって来るわね!」
「え、ええ。ありがとう」
風のように現れて、また風のように去って行くミスティカという少女の天真爛漫な仕草に、そこにいる誰もが朗らかな気持ちになる。
「すみません、皆さん。あれはいつもあんな風なのです。ですが、風の精霊に愛され、才能は豊かであり、次期族長としても大変期待をしているのです。残念ながら、精霊に愛されることのなかった、出来損ないとは違って」
「そなた! そのように自分の娘を!」
「い、いえ、いいんです」
族長の言葉を肯定したのは、ほかならぬミューズさんだった。
「私に才能がなくて魔法が使えないのに、最後まで励ましてくれたのは彼女だけだったんです。他のエルフたちから陰口を叩かれている時も守ってくれたりして。でも、私がいるせいで、父さんやミスティカにまで迷惑がかかりそうになる事件があって……。それで里を出ることにしたんです」
「なるほど、そういった事情じゃったか。じゃがまぁ、それも解決じゃな」
「魔王殿? それはどういう意味ですかな?」
その言葉に、リリちゃんが答える。
「ここにいるのは宮廷聖女も務めたセラという女性じゃが、この者がミューズの魔法陣にかかっておった呪いを解呪した。よって、もはやミューズはかつてのミューズではない」
「そ、そんなことが!? 何をやっても精霊召喚が出来なかったミューズですぞ? そんな簡単に魔法が使えるようになったなどと、なんの冗談ですか!? ふん、どうせ何かの間違いに決まっています。もし出来るならば、ここで初級魔法でもなんでもいい。使ってみてください」
「あー、えーと。それはやめたほうが……」
私は止める。しかし、
「なんだ、やはり嘘なんじゃないか!」
あちゃー。これは魔法を使わないと余計にもめるパターンだ。仕方ない。
「えーと、恨みっこなしですよ、ザーザ族長」
「ふん。どうせ嘘に決まっている。それにこの家は丈夫な千年樹の木材を用いた特別製だ。そう簡単に破壊されたりはせん」
あー、じゃあまぁいっか。
「では、やっちゃいましょうか、ミューズさん。言質は取りました」
「は、はい~」
ミューズさんは初級魔法の『風の弓』の詠唱を始める。
「ふん。初級魔法程度では傷一つつかんぞ、ははは」
「風の精霊シルフよ。その大気を司る権能においてこの地を撫でる風韻を起こせ『風の弓』」
かなり手加減をしているのが分かる一撃だった。
しかし。
ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
「う、うわあああああああああああああああああああああああ!? 私の家があああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」
族長の悲鳴が轟いた。
「て、手加減はしたんですが……」
「はい、ミューズさんは悪くないですよ。まぁ、全部の壁がなくなって、視界が開けて良かったじゃないですか」
「相変わらず凄まじいのう」
「う、ううううあああああああああああああああ」
三者三様の反応を示す。
しかし、その時。
ガシャン!!!!!
大きな音を立てて、コップの割れる音がした。
「あ、ミスティカさん。果実汁を持ってきてくれたんですね。驚かせてしまったのですね」
私は近寄って、棒立ちになっている彼女に言う。
「す、すごい。お姉様。でも、どうしていきなり魔法陣が正常に動くようになったのかしら?」
ああ、案外落ち着いていますね。
私も微笑みながら伝えます。
「魔法陣の精霊言語に隠蔽されていた呪いの言葉を書き換えたのですよ。それで、ミューズさん本来の力を発揮できるようになったのです」
「まぁ、すごい! じゃあ、もうミューズお姉様はどんな魔法でも使えるようになったということなのですね! それもセラ様が?」
「はい。そうですよ」
「ありがとうございます。お姉様を助けて頂いて言葉もありません! 今日はぜひ私の家に泊まって行って下さい! 色々とお礼がしたいわ!!」
「ありがとうございます。実はミューズさんに呪いをかけた犯人探しもしようとしていたところなので、そう言って頂けると助かります」
「そうですね。まさか呪いだなんて。きっと犯人を見つけてくださいね。そして、相応の償いをさせないと、いけませんね」
彼女はそう言うと、三日月のように唇をたわめて微笑んだ。
その容姿は先ほどまでの稚いものとは違って、妖艶さを感じる微笑であった。
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「聖女セラ、先代魔王リリ、エルフ族ミューズ達はこの後一体どうなるのっ……!?」
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