22.追放聖女は拾ったエルフの魔法の才能を開花させる
「の、呪いですか!?」
「多分ですが。さっきチラっと見た時、ちょっとそんな表記があったように見えたので」
「あの一瞬でよく見えたのなぁ、なのじゃ」
リリちゃんが感心してくれる。
「大したことないですよ。覚えちゃえば簡単です」
「儂にも覚えられるのか?」
あー、と私は軽々しく簡単です、なんて言ったことを後悔する。
「実は精霊言語って、凄くルールが難しいんですよね。表意的な文字もあれば、表音的な文字もあったりしまして。しかも、字面が複雑なものから単純なものまでしっちゃかめっちゃかでして。3年ほど時間をもらえれば何とか教えて差し上げられないこともないかと……。でも、それで読めるようになるかは分かりませんね……」
「うん、まぁ先代魔王の儂ですら無理そうなことが分かったのじゃ」
「うーん、コツさえつかめばいけそうなんですけどね。ま、ともかくもう一度詠唱をお願いします。その際に魔法陣を出来るだけ維持できるように、詠唱を途中で止めてください」
私はミューズさんに頼みます。
「りょ、了解です。師匠。い、行きます!」
彼女はもう一度、呪文を唱える。
「風の精霊シルフよ。その大気を司る権能においてこの地を撫でる風韻を……」
「はい、そこで止めてください」
ピタリ、とミューズさんの詠唱が止まる。
私は周囲に円形に展開されている魔法陣をつぶさに見ていく。
一語に意味が込められているケースもあれば、何語かを組み合わせて意味を生成しているものもある。
風の象徴である緑。エルフの緑と同じさわやかな緑を思わせる色。
魔法陣に浮かぶ精霊言語も奇麗な緑にて描かれている。
「うーんと、ここを直せばいけそうですね」
「ええっ!?」
「もう分かったのじゃ!?」
「まぁ、そんなところです」
私はそこへ手を伸ばして、
「ここの精霊言語を、この精霊言語に入れ替えて、と」
「すごいです、師匠。普通、伝承された魔法陣をいじったら動作不良になって魔法が不発になるものなのに」
「そうなんですか? 私、自分の魔法陣結構いじってますよ?」
「す、すごすぎです」
なぜか絶句されつつも、該当箇所の言語を書き換えた。
「はい! これで大丈夫になったはず。もう一度魔法を使ってみてくれますか? 今度は最後まで詠唱してもらっていいですよ」
「わ、わかり、ました……」
緊張した面持ちでミューズさんが改めて魔法を詠唱する。
「風の精霊シルフよ。その大気を司る権能においてこの地を撫でる風韻を起こせ『風の弓』!!」
その瞬間。
ドォォッォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!
轟音を立てて、魔法による風の刃が発動され、その先の大木を大量になぎ倒して行った。
あら?
私は首を少し傾げた。
ミューズさんってもしかして、凄い魔法使いなんじゃないか? と思ったからだ。
なぜなら、彼女が使用したのは、初級魔法。
対象範囲も狭く、人ひとりを狙う程度のものだ。
確かに貫通能力を多少備えはしている魔法だが、今のように大木を何十本もなぎ倒して地形を変化させるような、中級、いや上級魔法に匹敵する威力は常人には出ない。
エルフ、ということを差し引いても。
もしかして、
「すごい才能を目覚めさせてしまったのでしょうか?」
私はひそかに困惑するのだった。
一方のミューズさんは初めての魔法だったのだろう。
信じられないという表情ではあるが、明らかに頬を上気させて、自分の行った奇跡を感動の面持ちでいつまでも見つめていたのだった。