17.一方その頃、第1王子とイゾルテは重大な思い違いに気づく
前回からの続きとなります。まだの方は前話からお読みください。
※少し短めとなっております。ご了承ください。
~第1王子視点~
「近衛騎士団長のカイロックです。この度は第1王子までお越し下さり光栄です」
カイロックは紫色のロングソバージュの男で、筋骨隆々とした男だ。
「うむ。余の病が特に重篤だったため、イゾルテにはその治癒に専念してもらっていたのだ。そのために、近衛騎士団の兵士たちの治癒が後回しになったことは申し訳なかった」
「そうでしたか。王子の病魔が特別に深刻だったために、イゾルテ様は王子の治癒に専念されていたのですね」
「ああ。だが見事にその病魔もイゾルテが退けてくれた。元聖女のセラであれば不可能なほどの困難な治療をだ。今回の近衛騎士団のけが人たちもすぐに治療できる」
おお! とカイロックから感謝や尊敬の念が僕に注がれた。
くくく。
やはり、こうでなくてはな。
そして、今回の治癒行為によって、僕とイゾルテの関係は決定的なものになる!
イゾルテの聖女の力を見せつけて、婚姻を確固たるものにする。
そうすれば僕が王になる日もグッと近づくはずだ!
まさに栄光への階が目の前にある状態だと確信した。
「では、早速けが人を連れて参ります」
「ああ、早く済ませよう」
「ふふふ、殿下ったら。そんなに慌てなくてもすぐに済みますわ」
確かにそうだな。
もう成功は確定しているんだ。どっしりと構えるのも、未来の王としての役割か。
そんなことを思っていると、5人のけが人が連れてこられた。
それぞれが手や足にケガを負っている。
「よし、楽勝だろう。やれ、イゾルテ」
「ええ、殿下」
彼女はそう言うと、その美しくも蠱惑的な唇で詠唱をつむぐ。
「風の精霊シルフよ。その癒しの力によって、彼の者たちの傷を癒したまえ。≪癒しの風≫!」
緑色の風の精霊が舞う。
そして、その風の精霊たちが舞い終えると、5人のけが人たちの傷はほぼ治癒されていた。
「さすがだな! もう治療が終わってしまった!」
「はぁはぁはぁ……。は、はい、殿下。これくらいたやすいものです」
少しつらそうだが、治癒任務は無事果たせたんだ。
これで、僕の地位も安泰で将来も……。
「では、次の5人を連れて参りますね」
「……は?」
「……え?」
カイロックの言葉に、僕とイゾルテは聞き間違いかと、思わず動きを止めたのだった。