16.一方その頃、王子と宮廷聖女は近衛騎士団の治癒におもむく
~一方その頃。第1王子カイル視点~
一か月ほどかかったものの、僕の風邪は無事に治った。
「はーっはっはっは! やはり僕の采配に間違いはなかったな! 平民のあの女を追放しても何ら問題ないじゃないか!」
「その通りです、殿下。うふふふふ」
平民のセラは追放した僕の判断はやはり正解だった。
平民の下賤な臭いもなくなり風通しも良くなった。
「追放した時あいつは王城をすぐに去って行ったが、きっと悔し紛れだったに違いあるまい」
「ええ、そうです。あの平民に代わり、今後もこの愛しのイゾルテが傍におりますわ、殿下」
「ああ、そうだな。ははははは! やはり俺にはお前しかいない」
「まぁ、殿下ったら」
病気も治り、イゾルテという最愛の聖女も手中にある。
これから僕の一層の栄光の道がひらけるのだと確信し、思わず笑い出すのだった。
と、その時である。コンコンと私室の扉がノックされた。
「お取込み中申し訳ありません。近衛騎士団長のカイロック様が緊急に謁見されたいとの申し出がございました」
執事から用件が伝えられる。
「はぁ? 急ぎだと?」
何の用件だ? これから俺はイゾルテと愛おしい時間を過ごそうとしていたというのに。大した用事じゃなかったらぶっ飛ばしてやろう。
「はい。この1か月間、近衛騎士団のけが人の宮廷聖女による治療が行われておりません。王子の病も治癒したことですし、ぜひ治療をお願いしたいとのことです」
「ふむ」
僕は思考を巡らせる。
これはチャンスだ。
セラを追放したことで、偶然だがその途端、病が蔓延した。
また、僕の病気が特に重かったせいで、宮廷聖女のイゾルテを一か月間独占していたのだ。
その挽回の機会にはちょうどいい。
「よし、イゾルテ! お前の力を近衛騎士団に見せつけるチャンスだ! お前の聖女としての力を示すことで、僕の地位と君の宮廷聖女の地位を確たるものとしようじゃないか!」
「それは素晴らしいアイデアです、殿下!」
「そうだろう! 僕の病気が特に重病だったせいで、1か月間力を見せる機会を作れなかったが、近衛騎士団のケガ人たちを治療してやれば誰も文句を言わなくなるだろう」
いや。
「むしろ、いつもよりも早く治療が完了してしまって、セラのことなど誰も思い出せなくなるかもしれないな。ははははは!」
「まぁ、殿下ったら。私の前で他の女の話なんてしないでください。あのような下賤な者と比べられるなんて不愉快ですわ」
「わははははは! そうだったな。よし、宮廷聖女イゾルテよ! 近衛騎士団の治癒行為をすみやかに遂行せよ! まぁ、張り切りすぎてはすぐに終わってしまって、逆に見ごたえがないかもしれないがな!」
「うふふ、そうですね」
こうして僕たちは、近衛騎士団の集まる宿舎へと赴いたのであった。
普段ならば僕が随行することなどないが、僕と聖女……すなわち将来の国王と王妃の輝かしい第一歩だ。
この治癒行為はその象徴の場となるはず。
だからこそ、同行することにしたのである。
しかし―――――




