13.憲兵さんといえどもぶっ飛ばしますよ~
さて、本日は密猟団の方々を、王国の憲兵の方達に引き渡す日だ。
魔王さんと村人さんたちの感動的な和解があってから、一週間ほど滞在していた。
この村を管轄している伯爵領の憲兵に、ことの次第を報告しまして、本日引き渡しの日となったわけである。
「聖女様、魔王様、どうやら憲兵の方々が来られたみたいですぜ」
そう言ってハンスさんが呼びに来てくれた。
「ありがとうございます」
「儂も行かんといかんのか?」
「うーん、何か聞かれるかもしれませんからね。まぁ、魔王であることは密猟団の人たちには気絶していて聞かれてませんので、憲兵の方たちにばれることもないと思います」
「なら、見届けに行くか」
そう言って、美少女の魔王さんが立ち上がる。魔王さんは少し鋭い瞳をしてて、少しボサボサとした赤髪のロングヘア。額には一本の角が短くありまして、それがまたキュートだ。
「なんじゃ?」
「いえいえ、行きましょう。すぐに済むと思います」
そう言って、引き渡し現場までやって来た。しかし、そこで、
「うるさい! お前たちは黙って俺たちの言うことを聞いていりゃいいんだ!!」
「賄賂もなしとは、まったくこれだから辺鄙な村になんか来たくなかったんだ。へへ、こうなったら、その辺の奴から巻き上げてやるか」
「おい、お前! なんだその目は! 文句でもあるのか!!」
あらあら。
これは分かりやすい。
憲兵の方々が3人いらっしゃいまして、村人の一人を地面に拘束しているような状況のようだ。
「行きましょう、魔王さん」
「面倒そうじゃなあ」
「お取込み中申し訳ありません。シスター・セラと申します。率直に申し上げるんですが、村人さんをお離し頂けますか?」
「ああ!? なんだお前は!? 俺を伯爵様の使いと分かって言っているのか!!」
恫喝されてしまうが、
「はぁ。まぁ、そう言われましても、第1王子に忌み嫌われていたので、正直、なんとも思いません。すみません」
丁寧にお詫びする。
「で、返す返すも恐縮ですが、村人さんたちを離して下さいませんか? もしかして何か無礼でもありました?」
「ふん! こんな辺鄙な村まで来てやったんだ!! そこの娘に酌をしろと迫ったら、止められてな! ははは、俺の大事な公務を邪魔した罰だ」
「それは公務ではありませんね。その暴力は不当なものです。さあ、その方を放してください」
「さっきからうるさいぞ!」
「そうだ!」
「調子にのっているお前のような女がどうなるか教えてやる!!」
「まぁ、そうですか?」
私は体勢を少し落とすと、
「良かった。では私も心置きなく、正当防衛パンチを繰り出せます」
「はぁ? 女のお前がなにを言ってぐはああああああああああああああああああああああああああああ!??!?!」
ドッゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!
憲兵の方が一人、吹っ飛ばされて、壁にたたきつけられた。
「なにいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!?」
「き、きききききき貴様!?!?! 許さんぞ、うおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
残りの二人もツッコんでくる。
「暴力反対ですよ、えい!」
「ぐはあああああああああああああああああああああああああああああ!??!?!」
「ぐえ!?!?」
一人目を押しつぶすようにして、同じ壁にたたきつけられた。
さて、最後の一人は……。
「なーんで、儂までこんなことせにゃなんのじゃ。ほい」
「んぎゃあああああああああああああああああああああああああああ!??!?!」
「ぐえええええええええ!?!?」
「ぎゅえええええええええええええええええええええ!?!??!」
おおー。三人目も全く同じ場所に、魔王さんが吹っ飛ばした。
ダーツでしたら、高得点ですね!!
と、そんな騒ぎを聞きつけて、他の憲兵の方も集まって来たようだ。
三人だけではなかったようである。
リーダーと思わしき方が、駆けつけると同時に状況を見て、叫ばれた。
「な、なにごとだ!? お前は一体何者だ!? こんなことをしてただで済むと思っているのか!?」
えーっと。
「私は元宮廷聖女のセラです」
「ひえっ!? 宮廷聖女だと……!?」
憲兵たちの態度が一気に変化する。
「も、元とはいえ、王家に相当の人脈があるかもしれん」
「漏魔病を一気に治療した話は、他の村人から聞いた。恐らく本物だろう」
「ここはことを構えたら厄介なことになるかもしれん」
ゴホン! とリーダーの憲兵の方が咳払いして、誤魔化すように、
「我が部下の一部が独断で行動し、ご迷惑をおかけしました。元宮廷聖女様、ど、どうかお許し下さい!!」
そう言って、青白い顔をしてガバッと頭を下げた。
あら、結構聖女の肩書きは権威があるんですね。初めて知った。
「私としてはやるべきことをやってくれれば十分です。それが役目でしょう?」
「は、はは! おい! あの馬鹿どもを回収しろ!! 聖女様、さきほど密猟団どもはしっかりと受け取りました。なので、どうかここは穏便に……」
「役目をはたしているうちは、何もする気はありません」
「ご寛容、感謝致します! よ、よし、引き上げるぞ、お前たち!!」
そう叫ぶと、気絶した三人を抱えるようにして、憲兵たちは去って行ったのだった。
「セラ、お前は真正面からでも十分戦えるんじゃな。二人も吹っ飛ばしたのじゃ」
「密猟団さんの時と同じ呪文ですよ。『活力の火』を使ってパンチ力を上げたんです」
「そうなのか。それにしても、結構セラは偉い聖女だったんじゃな」
「いえいえ。元、第1王子の婚約者というだけですから。大したことないですよ」
「将来、女王になっていたかもしれなかったのか。なんじゃか、凄いなぁ、そなたは……」
ともかく、こうして密猟団さんたちの引き渡しは終わり、ミリゲット村での漏魔病事件は全て終了したのである。
さあ、次の癒し相手を求めて、諸国巡りを再開しましょう!!!!