12.愛は全てを許すでしょう!
村に戻った私ことセラと魔王さんは、二人して今、壇上にいた。そして前には……。
ざわざわ。
「結構な人数が集まっておるのじゃ……。300人はおるのではないか?」
「出て来れる村人さんたち全員にお声がけしましたからね。もっといるかもしれませんし、家の中にいて後で伝言で聞く方も数百人いらっしゃるでしょう。あ、もしかしたら緊張されてますか?」
「んなわけないじゃろ。先代魔王じゃぞ」
「さすが魔王さん! ではそろそろ始めますか。ですが、まず私が事の経緯を話しまして、その後魔王さんからお詫びの言葉をお願いしますね」
「え? ああ、うん。でも、許してくれんと思うがのう。まぁ、セラの言うことじゃから聞くけど」
そうだろうか。
案外許してくれる気がするのだが。
とりあえず、私は口を開く。
「ただいま、戻りました、皆さん。遅くなりました~」
「おお、聖女様! よくぞ戻られました! うちで採れた野菜をどうぞ!」
「女神様!! 無事で何よりです!! うちで作った果実汁をどうぞ!!」
「良かった、良かった! あ、うちで造った鞄です! なにとぞお使い下さい!!」
あらあら、皆さん活気がありますね。
「元気になられたようで何よりです」
私は微笑む。
「おお、聖女様が微笑まれた」
「ありがたや、ありがたや」
「おかげ様で腰痛まで治りました!」
「癒しがいがあって何よりでした」
私は頷き、
「すごい人気じゃな」
「村人全員の漏魔病を、こう、いっぺんに治したので、皆さんハイになっているのかもしれませんね」
「は~、いっぺんに。そりゃまぁ、そんな奇跡を見せられたらこうなるかもしれんのじゃ」
「それで聖女様、お話とは?」
誰かの言葉に、私は頷いて、本題に入る。
「漏魔病ですが、その原因を撲滅することに成功しましたので、お知らせします」
「おおー、さすが聖女様だ」
「原因は、人間と魔族の双方にありました」
「え? 魔族、ですか?」
「魔王さん。密猟団さんたちをこちらへ」
「え? ああ、うん」
念入りに縛られた密猟団さんたちが、壇上に上げられて来た。
10人いるのに、さすが魔王さんは怪力でちょちょいのちょいである。
「ここにいる密猟団さんが、こちらにいる一見ただの美少女、でも実は先代魔王さんをかどわかそうとしていたのです!」
「密猟団!? 魔王!? えっ!? どういうことだ!?」
私は微笑みながら続ける。
「先代魔王さんは今見た通り、人智を超えた力の持ち主です。やろうと思えばすべてを灰燼に帰すこともできたでしょう。人類を滅亡させようと暴走しても良い場面です。しかーし!」
ちょっと力強く言う。
「魔王さんは愛の化身でした! ちょっとだけ近くの人族から魔力を吸収することで済ませてくれたのです!! 密猟団さんが人畜無害な少女をかどわかそうとする一方で、魔王さんは愛の力ですべてを丸くおさめようとしてくれたのです!!」
「何言うてるんじゃ!? 愛の化身って何!? 誰が愛の力を使ったってー!?」
魔王さんが何か言っていますが、私は全て本当のことを語っている。
「なんと! 魔族と言えば残虐非道の存在と聞いていたのに!?」
「愛の力で人族を助けようとしていたなんて!?」
「確かに、魔王と言えば人類が束になってかなわない存在のはず。それなのに誰も死んでいない」
「魔王が愛の化身だったとは……」
「えええええええええええええええええ!? なんじゃのこれえ!?!??!?」
うふふ。皆さん魔王さんの愛の大きさを理解してくれたようだ。
「しかし! 漏魔病を蔓延させ、多大な迷惑をおかけしたのは事実だと、魔王さんは言っています。ですので、こうして村人全員にお詫びの場を設けさせて頂いたのです! 魔王さんから皆さんへ謝りたいと!!」
「おおおおおおおおおおお! なんという潔さ! 先代魔王という立場がありながら、村人全員に!!」
「さすが魔王様だ……」
「余りにも格が違う!!」
「はい、では、魔王さん、村人さんたち全員にお詫びをお願いします」
「ええええええええええええ!? こ、この状況で!? 想像してたのと全然違うのじゃが!? えーっと、その、ごめん、なのじゃ」
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
「すごい!! 本当に謝罪をされた!!!!!!!!!!」
「村人全員に魔王様が!! 人族側も悪かったのに、愛の力で全てを許そうというのか!!」
「ぬわああああああああああ!? なんなんじゃこれえええええええええ!?」
よし。ちゃんと謝れましたし、村人さんたちも謝罪を受け入れてくれたようだ。
「魔王さんの愛! そして、魔王さんのお詫びを、村人さんたち全員が受け入れました! 聖女セラが見届け人となり、ここに愛の許しが得られたものとみなします!」
おおー!
パチパチパチパチ!!!
全員から拍手と喝さいが飛ぶ。
「良かったですね、愛の化身、魔王さん!!」
「ぐはっ!!」
私の呼びかけに、魔王さんはなぜか白目を剥いて倒れたのだった。
どうしたのですか!?
ともかく、こうして魔王さんから村人全員へのお詫びは完遂されたのだった!