11.演技の指摘はやめるのじゃ! ~魔王視点~
~魔王 視点~
聖女セラ。
魔王の儂を助けるほどのお人よし。
ただ、だからこそ騙すことなどお手のもの。
そう思って、散々、儂の悪事を話したのじゃ。
が……――――――――――――――――――
「魔王さんは良いヒトです」
そう言うと、目の前の聖女セラは言った。まさに聖女の鑑のような微笑みを浮かべて。
一方の儂は、
(はえ~????????????????????????????????)
と、思考が完全停止してしまうばかりであった。
な、なんじゃて?
どうしてなのじゃ?
これでもかってくらい、論理的に説明したのじゃ。
自らの悪事を。
しかも魔王が悪事をばらしてるんじゃから、そこは信用するじゃろ?
魔王じゃぞ? いや、あくまで先代じゃけど!
「ど、どうして……」
儂の口からは自然とそんな言葉が漏れた。すると、
「勘ですね~」
そ、そんなもんに儂の演技がばれたのじゃ!?
「というのは冗談です。あはは、怒らないでくださいね」
なんなのじゃ、この娘。
だって、魔王なんじゃよ?
しかも信じてるのに、この場面でそもそも冗談言うか?
と、呆気に取られる一方で、何だかこの人間に興味がわいてきたのじゃ。
う、うむ。
儂が他者に興味を持つなんて、初めてではなかろうか?
なんじゃか、ドキドキもするし。
なんじゃか、さっきまで死のうと思っていた気持ちが急速になくなっていくのを感じたのじゃ。
「まあ漏魔病の原因自体は魔王さんとも言えますし、魔王さんを追い詰めた人間側とも言えます。そこは、私にはなんとも言えません。しかし、魔王さんの魔力貯蔵量からすれば、恐らく魔力を吸収した量とは非常に微々たるもの。必要最小限だと推定できます。密猟団さんたちを倒すためにもっと吸収すれば良い所を、必要最小限の被害で食い止める様に、魔王さんが人間側を慮ってくれたからですよね。ゆえに、実は漏魔病自体は蔓延しているのですが、死者は出ていないのです」
「めちゃくちゃ説明は論理的なのじゃ!!!???」
「それなのに自分にまるで全ての罪があるように演技をするなんて。なかなか出来るものではありません。魔王さんは本当に良い人ですね。あと、まるで舞台女優さんのようですね!」
「も、もうやめてー! バレバレだったのに、あんな演技をしてたかと思うと、恥ずかしい! そしてそれを眼前で説明されることほど恥ずかしいことはないのじゃ! ううううう、どうしてあっさり分かってしまったのじゃ。せ、聖女だからか?」
儂の顔は赤くなったり、青くなったりしていたに違いない。
もはや居たたまれなくなってきた。
魔王が逃げ出すなんて言語道断じゃが、もう限界!
「ううう、もはやこれまで。迷惑をかけたのじゃ、セラ。いつかきっと恩返しをしよう。で、ではサラバっ……」
そう言って逃げ出そうとした時じゃった。
「あっ、待ってください!」
呼び止められた。しかし、儂の答えはもちろん、
「い、嫌じゃ」
即答する。居たたまれなくて。しかし、
「おっと、魔王さん。私に逆らえると思っているんですか?」
「な、なにい!?」
儂は驚く。だって、
「わ、儂は先代魔王じゃぞお!?」
例え人間の国王であろうとも儂に命令など出来ないはず!
「私は『命の恩人』ですよ!」
ガーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!
た、確かに!
魔王とか、国王とか、勇者とか、貴族とか。
そんなんなーんも関係なかった。
セラは命の恩人なのじゃ。
ま、まあ襲ってきたのも人間じゃけど……。じゃが逆に同胞を打倒してでも、命を賭して儂を助けてくれたのじゃ。
「い、命の恩人……か……。ぐぬぬっ……!」
「ふっふっふ、そうですよ~。親兄弟の次くらいには強いつながりと言って良いのではないですか? ふふふ、悪いですね~」
悪い顔をしておる!
こやつ、もしや儂《元魔王》よりよほどの悪では!?
が、次の瞬間には、元の聖女の顔に戻って、儂に言いおった。
「はい。じゃあ言うことを聞いてもらいましょうね。ミリゲット村へ行きましょう、魔王さん」
ん?
儂は合点が行かずに、頭の上にハテナマークを浮かべる。
しかし、そんなことお構いなしにセラは言った。
「そして謝りましょうね。悪いことをしたらごめんなさいしないといけませんからね♪ 命の恩人からの、お・ね・が・い・ですよ~♪」
「(パクパクパク)」
な。
な。
なんという権力の使い方をしよるんじゃこいつ!?
命の恩人であることを、魔王相手に、こんなことに使う奴おる~!?
じゃが、儂は命の恩人セラの言うことには逆らえず、一緒にミリゲット村へ向かうことになったのじゃった。
ちなみに、密猟団どもは儂が魔力の糸でしばって、転がすようにして一緒に連れ帰った。