そんな私を
三題噺もどき―ひゃくななじゅうなな。
お題:教壇・空中・演じる
「……」
退屈で暇夏休みが終わり。
窮屈でつまらない学校生活が再開した。
まだ暑さの残る九月。二学期が始まって、一、二週間程しかたっていないが、すでに校内では様々な行事に向けて動き始めている。
「……」
体育祭に文化祭。私の学年は修学旅行まである。学業面でも色々始まりつつあるが、それはまぁどうでもいいだろう。学生にとっては。学業より祭りごと、だ。
「……」
―まぁ、私みたいに気持ち半分で参加しているやつは別だろうが。
どうにも、こういう祭りごととかが、苦手で仕方がないのだ。乗り切れないというか、なんというか。単にひねくれているだけかもしれないし、そうでもないのかもしれないし。
「……」
それでも、それは大抵内心に、心の底に留めておいて。おくびにもださないが。
私とて、周りに合わせるぐらいはできるし。
あの人の目を引くために、それ以上のことだってして見せるし。
今頑張っているのは、あの人あってこそだ。
「……」
多分あの人が。
―先生が、このクラスの担任でなければ。こんなにしていない。
「……」
あの人の授業ぐらいは、しゃんとするだろうが。そういう風に演じて見せるが。それ以外は、なぁなぁで、適当にしていそうだ。―でもきっとそんなのすぐにばれるだろうし、最悪あの人に伝わりでもしたら嫌だ。ホントに。
だから、心の底から。
あの人が、担任でよかったと思っている。
「……」
大好きな。
―先生。
「……」
その担任はいま、教壇に立ち、今後の行事や、それに追従するあれこれを説明している。
先に大まかな流れを各生徒押さえておいて、それに沿って各自動いてくれとのことだ。
『――で、次が―』
少し低めの、優しい声が耳に届く。
柔らかな、その声は、くすぐるように。鼓膜を震わす。
言い聞かせるように。
あの人の、声が、響く。
『じゃ、次が――、』
緑の黒板に、白のチョークで次々に文字を書き。日付を書き。矢印を書き。
次は赤に持ち替えて、締め切り日や、重要な日に印をつける。
チョークに添えられた指は、細く、節々はしっかりとしている・
羨ましいぐらいに細い指だが、どこか男らしくはあるのだ。
それに続く手のひらも。手の甲も。
パッと開いた手の大きさに、いつも驚かされたりして。
『――、』
今日は珍しく眼鏡をかけていた。
普段見ない姿だから、良いなぁ。眼鏡にあうなぁ。
「……」
そんなことばっかり。
教壇に立つあの人の背を追って。
そのしぐさ一つに、魅せられて。
ついほぅと、息が漏れるのを我慢して。
「……」
少し暑いのか、広げられた襟元とか。
首に流れる汗とか。
無意識にその汗をぬぐう掌とか。
時たま楽し気に、他の生徒と話す表情とか。
「……」
あの人を見ているだけで。
声を聞いているだけで。
ふわふわと、空中を踊るシャボン玉みたいな。
飛んでは消えて、飛んでは弾けて。せわしなく気持ちがぐるぐるとかき回されて。
「……」
一番後ろの席から。
じぃと、見つめて。
すっと、目を閉じて、その声に耳をそばだてて。
また目を開いて、目を奪われて。
「……」
―あぁ、すきだなぁ。
「……」
そんなこと、一生家やしないけど。
思うぐらいなら。
想うぐらいなら。
そう、ただひたすらに。彼を思い。
彼の背を追い。
「……」
今日も学校は、窮屈で退屈で暇でつまらないなぁ、と、ぼやいてみる。