~神様~
短いです。
その場に残されたのは、わたしと黒衣の青年、そして剣に貫かれた騎士の死体。
黒衣の死霊術師はしばらく黙っていたが、やがて口を開いた。
その声音はとても優しく、慈愛に満ちたものだった。
「神はきっと、君の願いを聞き入れてくれるだろう」
――だから安心して眠っていいんだよ。
そう言うと、彼は騎士に向かって祈り始めた。
すると、今まで何もなかった空間が歪み始め、そこから白い光が溢れ出してきた。
――これは?
わたしが驚いていると、彼は言った。
「彼は、これから生まれ変わるんだ。」
そして、青年は続けた。
――神よ。私の力では、彼らを救うことはできませんでした。
――けれど、あなたならば彼らを救えるはずです。
――どうか、私の代わりに、彼らに救済を与えてください。
――私は、ここで見守り続けましょう。
――彼らが再び、人として生きられるように。
そう言って彼は、目を閉じた。
騎士の亡骸は光に包まれていき、その体が徐々に透けていく。
そして、その姿が完全に消えた時、森の中に静寂が戻った。
後に残ったものは、騎士の剣。
黒衣の青年は、その剣を持ち上げて言った。
「君の復讐はまだ半ばだったはずだけど、その選択を選んでくれたのはとても嬉しいよ。」
――だから、安心して帰って。
わたしはその光景を見て、ただ呆然としていた。
何が起きたのか、よくわからなかったのだ。
ただ、一つだけわかったことがあるとすれば、それは……
――神様がいる。
わたしには、そう思えた。
目の前にいる彼が、本当にそうなのかはわからない。
でも、少なくともわたしにとっては、彼は神様のように映ったんだ。
――これが、わたしの出会い。
柔らかな風が吹き、彼の頭を覆っていたフードが、めくれ上がる。
木々の間から差し込んでくる月明かりが白い髪を月の明かりを柔らかに照らした。
少しだけ目の細められた蒼い瞳は湖畔に写る青空のようで、何処までも広がる優しさが広がっていた。
「さて」
――わたしが彼について知っていることなんて、ほとんどない。
「自己紹介がまだだったね」
――知っているのは、この人がわたしを助けてくれた。
「僕の名前はゼフィド」
――そしてこの黒衣の青年が、
「君の名前を教えてくれるかな?」
――死者に手を伸ばすほどに、優しいということだけだった。