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~バズという、不幸な男~

ゆっくり飽きない速度で書く。


 バズは幼い頃から不幸であった。


 母親は娼婦をしていたが、父親は誰かもわからない。

 毎日バズに暴力を振るい、時には食事を抜かす事もあった。

 それでも、まだ幼い子供だったバズが生きてこれたのは、運が良かったのだろう。

 ある日、母親が客と喧嘩をして殺されてしまった。

 

 その日以来、バズの日常は地獄に変わった。


 孤児院に入れられたバズだったが、そこでは更に酷い扱いを受けた。

 他の孤児達は、自分より年下の子達を見下し、いじめの対象にした。

 殴られたり蹴られたりするのは当たり前。

 食事は残飯や虫の死骸を与えられ、服もボロ布しか与えられなかった。

 そんな日々が続いたある時、院長先生に呼び出しを受け、こう告げられる。


――昨日、お前はゴミ箱から残飯を漁ったそうだな、面汚しのゴミめ。


 バズは生きるために必死だった。

 その日は残飯を目の前で捨てられ、物欲しそうな目で見てる。生意気だと殴られて食事をとっていなかった。

 夜に痛む体を引きながら、漁るしかなかったのだ。

 しかし、その言い訳も通用しなかった。

 院長は様々な言葉で罵倒し、殴り、蹴り、最後に唾を吐きかけ、バズに言った。


――明日、ここを出て行け。二度と戻ってくるんじゃないぞ。


 気が付いた時、バズは血に濡れたナイフを握っており、足元には院長の死体があった。



 その日からバズは自由を得た。



 彼はまず、孤児院で自分を虐げていた奴らを殺した。

 次に、孤児院をアジトとして、孤児を手下にして、金を奪って回った。

 奪ったお金を使って、武器を買った。

 殺した相手の持ち物を奪い取った。


 殺して、奪い取って、奪って、また殺す。

 そんな事をしているうちに、彼はスラムで有数の存在になっていた。

 そんなある日、バズの元に一人の男が訪ねてきた。


――私と一緒にある子爵の一家を殺してほしい。


 報酬は莫大だった。

 話を聞けば、その子爵一家は、この国では有名な悪徳貴族らしい。

 その家族を殺すだけで、一生遊んで暮らせるだけの金額を得られるというのだ。

 しかも、殺し方は問わないという。

 数日後、バズは依頼通り男と一緒に侵入し、子爵の家族を殺害した。

 子爵の娘と息子、使用人達、全員まとめて皆殺しにしておいた。

 最後まで抵抗していた騎士は、男と知り合いだったのだろうか、少しの会話は挟んだ後、特に念入りに殺しておいた。

 これで、あの男の望み通りに事が運んだはずだ。

 だが、バズには一つだけ気がかりな事があった。


――あいつは何者なんだ?


 バズは莫大な金に目がくらんで、そんな事も考えていないことに気が付いた。

 それから数日経って、バズの元に再びその人物が現れた。


――よく働いてくれたね。約束の報酬だよ。


 その人物は、バズの前に金貨の入った袋を置いた。


――それと、もう一つ頼みがあるんだが、いいかな。

――あぁ、何なりと言っちゃくれませんか。


 バズが答えると、その人物が言った。


――では、死んでもらおう。


 次の瞬間、アジトに数十人の男が入ってきた。

 騙されたと気が付いた時にはもう遅かった。

 彼は必死に抵抗しながら、片目を失ったもののなんとか命からがら逃げ伸びたのだった。



◆◆◆


 バズは、今黒衣の男の語った話で、過去の行いを思い出してた。


――違う、俺だって騙されたんだ。


 目の前にいる黒衣の男の周りには、無数の揺らめく光。

 その無数の光が明確な意思を持って、歪む。


 一つは苦悶の表情に。 


 一つは憤怒の表情に。


 一つの啼泣の表情に。


 そして、その全ての顔がバズに向かっている。

 知っている顔だった。

 自分が殺してきた者達の顔だった。

 歯の根が合わない。

 足が震える。

 体が震える。

 心が震えている。


――俺は悪くない!悪いはずがない!!


 バズの声に呼応するように、周りの死霊達が一斉に動き出した。

 周りを取り囲むように動く。

 バズは必死の思いで剣を構え、ゆっくりと後ずさっていく。

 額に汗が流れる。


――くそっ、くそくそくそ!!!

――なんでこんな事に……!?

――ちくしょう、くそう、クソォッ!!!


 必死に逃げようともがくが、四方八方から迫りくる死霊に追い詰められていく。

 不意にバズは壁際にぶつかってしまった。

 いよいよ進退が極まった。

 この亡霊どもの群れを突破できるのか?

 少しでも薄いところを抜ければ助かるかもしれない。

 ここは森の中だ。最悪闇に紛れて逃げることもできるだろう。

 そう思いながらもはや荒い呼吸で上下する肩にポンと手を乗せられた。

 バズの心臓は跳ね上がる。


――そうだ、ここは森の中だ。

――なんで森の中で、壁際にぶつかるんだ?

――俺の後ろにいたのは・・・・・・


 ゆっくりと振り向いたバズの目に入り込んできたのは、配下の野盗の死体。

 アンデットとなった、自分の部下達だった。

 バズの周りを囲んでいたはずの死霊達はいつの間にかいなくなっていた。

 バズを囲うのはアンデッドの軍団。

 その数、およそ百体。

 バズの顔は絶望に染まった。

 その軍団の中から出てきた最初に戦った騎士のアンデッド。


――お前だけは許さない。


 騎士の言葉に、バズは恐怖した。


――来るな!こっちに来るなぁあああっ!!!


 バズは恐怖のままに叫びながら、持っていた剣を振り回して襲ってくる騎士の体を切り刻んでいく。

 騎士はそんな攻撃を意に介さず、持っていた剣を両手で天高く掲げると、そのまま一気にバズへと振り下ろした。

 バズの首が宙に舞った。

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