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~出会い~

処女作ですので、生温かい目でみてください。

 目の前に広がる暗い森。

 月の明かりさえ届かない漆黒の闇を、必死でわたしは走っていた。


「はっ、はっ、はっ」


 まるで犬か何かのように、勝手に息が早くなる。心臓が早鐘を打ち、苦しくて仕方がない。


「そっちに行ったぞっ!」


「クソっ、すばしっこいっ! 逃がすなよっ!」


 後ろからは男達の怒声と足音が聞こえてくる。

 数は五人……いや六人だろうか? 暗闇の中なのではっきりと分からないけれど、おそらくそれ以上はいないと思う。

 とにかく今は逃げるしかない。逃げて、そして助けを呼ぶんだ。そうすればきっと――。

 しかしいくら走っても、背後から迫る男達の声は徐々に近づいてくるように思えた。このままではいずれ追いつかれてしまうだろう。


「あぁっ!?」


 普段ならつまずくはずもない木の根に足を取られ、まともにバランスを崩したわたしは、毬のように跳ねて転がった。


「ぅっぐっ」


 ざざっと地面を転がり、うつ伏せの状態で止まる。起き上がろうとしたが、手足に力が全く入らない。

 命の危機だというのに、そんな事より休むのが先だと、体が言うことを聞きやしない。


(もうダメだ……)


 後ろからは複数の笑い声と足音が近づいてくる。森から差し込んでくるわずかな月明かりは、醜悪な笑顔を張り付けた男たちの顔を照らした。

 恐怖で歯が鳴る。身体が震える。涙が出てくる。

 こんな所で死ぬなんて絶対に嫌なのに……わたしは何もできないまま、ただ絶望するしかなかった。


「手間取らせやがって」


 眼帯を付けた野獣のようなひげを生やした大男が、巨大な鉈のような剣をわたしの顔の横に突き刺す。

 彼は薄ら笑いを浮かべながら、しゃがみこんでわたしの顎を持ち上げた。


「へぇ、追いかけ回している時から思ったが、結構な上玉じゃねえか」



 品定めするような視線を感じる。気持ち悪い……

 他の四人の男は、下卑た笑みを浮かべてこちらを見ているだけだ。その表情には欲情の色がありありと浮かんでいて、嫌悪感しか感じない。


「こいつぁ高値で売れそうだ」


 舌なめずりしながらそういう彼の言葉を聞いて、全身の血の気が引いていくような感覚を覚えた。

 売り物にする気なのだこの人たちは。わたしのことを商品として見ているのだ。

 あまりのおぞましさに吐きそうになる。

 誰か……誰か助けて!! 心の中で叫ぶけど、当然誰も来てくれるわけもなく、代わりに男の手が乱暴に胸元へと伸びてきた。

 服を引き裂くようにして脱がされ、下着姿になる。

 これから起こるであろう事を想像して、思わず悲鳴を上げそうになったその時だった。


「ぎゃあ!?」


 周りを囲んでいた盗賊の一人が濁った悲鳴を上げた。

 背中をザックリと切られ、倒れた男の後ろには生気のない鎧を着た男が、血濡れの剣を片手に立っている。

 突然現れた乱入者に混乱しかけたものの、すぐにリーダー格の大男が怒鳴るように叫んだ。


「馬鹿野郎っ! 敵襲だっ!」


 仲間を傷つけられた怒りなのか、それとも別の感情によるものなのかはわからないけれど、その顔は明らかに赤くなっている。

 邪魔をする者は皆殺しにしてやるといった様子で、大男は地面に刺さっていた剣を抜き、そのまま無造作に斬りかかった。

 その剣筋は鎧の男の体を捉え、体の半分に食い込むと、骨ごと切り裂いた。

 ドサリと倒れる鎧の男を目で追いながら、わたしは二転三転する状況に混乱していた。

 一瞬の出来事である。あまりにもあっけない幕切れ。

 まるで紙屑みたいに斬られて死んでしまった。

 後に残ったものは、2つの肉塊だけ……


「へへっざまぁねぇな」


 仲間の死に動揺する事も無く、残った男達は嘲笑うように言った。

 しかし次の瞬間、彼らは信じられないものを見たかのように目を大きく見開くことになる。

 死んだはずの男が起き上がったからだ。


「な、なんだこいつぅっ!!」


 右肩から袈裟懸けに切り裂かれた体を無理やり動かして起き上がるその姿は、明らかに人間のそれではない。

 立ち上がる時にゆるんでしまった兜がズレ落ちた瞬間に、男たちは狂ったよう叫び声をあげた。


「し、死体だっ!」


 どう見ても生きているはずがない。だけど確かに目の前にいるそれは動いている。

 男達が恐慌状態に陥る中、わたしはその光景を呆然と見る事しかできなかった。

 (何が起こっているの?)

 死んでいたはずなのに、どうして? そんな疑問が頭に浮かぶと同時に、わたしはある可能性に思い至った。

 もしかしてあれは――

 そう思った時、不意にその場に似つかわしくない、優しい声が聞こえた。


「こんばんは、こんな夜更けにお散歩ですか?」

 場違いに穏やかなその口調に、男達もわたしも同時に振り返る。

 そこには、闇夜に溶けるような黒いローブを身に纏った男が立っていた。




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