表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ポイントグリーダー  作者: ショコラ
2/3

けんがくっ!!

「森町さんとモチモチ、なんと衝撃の事態が判明したっす!!」

先程、先生に呼ばれていた吉田さんが急いで戻ってきた。呼び出しの理由は、荷物を落としたことへの説教ではなかったのか……

「さっき、先生に教えてもらったんすけど、この学校に野球部があるみたいっす!!」

「そうなんだ〜。でも〜部活紹介の時に野球部なんてなかったと思うんだけど〜、ツユリンは覚えてる?」

ふむ……野球部どころか部活紹介の記憶するない。

きっと、私が瞳を閉じ数分後にタイムトラベルをした時にひっそりと行われていたのだろうか。

顔に手を近づけそっと何かを思い出すかのような表情をしながら、私は首を左右に振った。




「そっすよね。部活紹介の時に呼ばれてありませんでしたから。」

「なら、やっぱり野球部なんてないんじゃない。」

「ここだけの話、実は私だけのマル秘情報を持っているんすよ。知りたいっすか?」

「わ〜!!気になる〜。」

そんなことを言いながらモチモチは目を輝かせながら手を叩きはじめた。

なんだその訪問販売マニュアルみたいな掛け合いは。

もしかして私だけ省いて口裏合わせとかしてないよね?

モチモチ……お前だけは信じていたのに……




「これはっすね。私が極秘で仕入れたルートの情報なんすけど、」

いや、あからさまに先生から聞いてきただけでしょ。

「この学校、野球部とはいかないんすけど、野球同好会なるものがあるらしいんすよ。」

うん、まぁ話の流れとしてはそんなもんだよね。

モチモチは「おぉ〜」って言いながら手を叩いてるけど、きっとノリが良くて優しいんだね。

ちっとも表情が驚いてないどころか、さっきの表情から真顔にシフトチェンジして手を叩き続けててシュールだよ。ちょっと怖いよモチモチ。




しかも、そのモチモチをみて吉田さんはドヤ顔を決めてるよ。見てる方が少しばかり虚しくなってきたよ。吉田さん、何でもいいから話し続けて。

「それでですね。先生が先ほどの話を聞いていたみたいで、なんと!!先生がその同好会の顧問だったらしくて放課後に私たちを紹介してくれるらしいです!!」

すごいね。見学するって言っただけで私は動き出そうとしていないのに、水面下で事が進みはじめたよ。

さっさと老後まで勝手に進み続けろ。




「そうなんだね〜。あっ!!じゃあ帰りが遅くなるかもだし、お母さんに連絡するね〜。ツユリンも連絡しておいた方が良いんじゃないかな。」

「いいよ、私は弁当渡されたし。」

まぁ、半ば強制的にだけど……

「やる気十分っすね!!じゃあ、お二人とも放課後にお願いします!!私はもう一人お誘いさせてもらいますので。」

そう言って吉田さんはダッシュで教室の前の方に向かっていった。

「面白い人だね〜。吉田 勝さんか〜、あだ名を考えとかないとなぁ。」

やっぱりあだ名つけるんだねモチモチ。

できれば鋭利で傷つかない、滑らかなあだ名にしてあげてください。



「皆さん、席についてください。配布物を分けますので自己管理を徹底してくださいね。」

そんな先生の一声で少しざわついていた教室もやがて静かになった。

そんな先生はというと、姿が見えない。いや、正確には先生の顔が埋め尽くされて見えないほどのダンボールが教卓に乗っかっている。

あの量を初日からわけるのか。先生って大変なんだな……教師を目指すのはやめておこう。

そっと心にそう思ったのであった。





それから幾らか時が過ぎ、時刻は腹を満たした昼下がり、私は何も言わずにそっと立ち去ろうとすると、

「露利さんとモチモチさん!!そんなこんなで放課後になったっすね!!いつ行きます?」

暖かな温度に誘われて夢うつつになっていたけれど、そういえば机を囲み3人でお昼を食べていたなぁ……

「どうしたんすか?反応ないっすけど?」

「いや、何でもないよ。」

「うーん……吉田 勝さんのあだ名を考えてるんだけど、決まんなくて……」

「あだ名っすか?別に好きなように呼んでくれて良いっすよ。」

ふむ。途中からやけに話しかけてこないと思ったらそんなことを考えていたのか。

おかげで私は静かに眠る事ができた、それだけは感謝します吉田さん。ついでに今日のところは見逃してくれるとあなたに更に感謝をするのですが……





「そっか〜。じゃあヨッシーとかで良いのかな〜。」

でっていう!?

「えっと……流石にそれは嫌っす。目的のために赤い男とかにすぐ乗り捨てられますよ。」

吉田さんはしっかりとプレイしてらっしゃるようで。

フィクションからの憧れでこんな学校にきて野球をやろうとしてるし、案外インドア派なのか?

「そっか〜。嫌ならやめとくね。なら〜苗字と名前からとってヨシマサとかはどうかな?」

征夷大将軍!?

「なんだか強そうな名前でよいっすね。採用っす!!」

それで良いのか吉田さん……確かに権力は強いけども……

「そういえば、そんな話してる場合じゃないよ〜。ヨシマサとツユリンも食べ終わったし、先生のところ行かなきゃだよ〜。」

おい、誰がこの話題始めたよ。




「あっ!!すっかり忘れてたっす!!モチモチ、教えてくれてありがとうっす!!」

あぁ、さっきから薄々気づいてたけど吉田さんって、ポンコツな人なのか。

「じゃあ、二人とも行くっすよ!!」

私は渋々と椅子から腰を上げて、ようやく職員室へと向かい出した。

「ヨシマサって、やっぱり面白い人だね〜。」

そうか、君はそういうやつなんだな。

私の中のモチモチの印象は初対面から右肩下がりだよ……





「失礼します!!静先生いますか?」

吉田さんはドア前で一呼吸をしてからノックをし、大きな声で職員室に向かって先生を呼んだ。

そういえば、うちのクラスの担任って静先生っていうのか。

話なんて耳に入ってこなかったから名前を知れて良かった良かった。

「はーい。」と遠くの方から小さめな声が聞こえ、本日の朝に見かけた先生が歩いてきた。

先程は気にも留めていなかったが、赤縁のメガネをかけていて見た目上の年齢は20代後半くらい、身長は大きくもなく小さくもなくといった何ともメガネ以外の特徴は薄そうな人だなぁ。

それが改めて見た先生の特徴だった。

「えっと、吉田さん、望月さん、森町さん。あなた方3人は野球同好会の見学に来たのであってるわね。」

「はい、そうです!!」「そだね〜。」

私も今はコクッと首を縦に振ることにした。

てか、モチモチは先生に対してもそんな感じなのか、結構なチャレンジャーだな。

ふと、先生の方を見るとやや涙目になっている。

ふむ。確かに他の業務があるだろうこの時間に職員室に伺うのは思慮が足りなかったのだろうか。

すまない先生。一生懸命な先生に迷惑かけたくないから、私だけでも帰ろうかな。




「先生、大丈夫ですか!?涙が出てきてるっすよ!!」

「いえ、気にしないでね。ちょっととある子のことを考えちゃってね。」

ふむ。私たちの言動で何か泣くほどのことを考えさせてしまったのか。

「ツユリン、もしかして〜、先生にはヨシマサみたいな語尾の〜生き別れの妹とかがいたのかも!?」

そっと、モチモチが私に耳打ちをしてきた。

「はいはい。」と、とりあえず適当に返事をしておくことにする。

「心配させてごめんなさい。じゃあ、今から部室に行きましょうか。」

私たちは、そう言って歩き出した先生の後に続いていった。






そう、私たちは続いていったのは良いが、どんどんグラウンドの隅へと歩き続けていた。

私たちの向かう先の対極にあるグラウンドの校舎側には、サッカー部やテニス部などの運動部系部活の部室が見えた。

「モチモチ、本当にこっちであってるの?」

心配になった私はそっとモチモチに声をかけた。

しかし、帰ってきた返答は「そうじゃないかな〜。」と適当なものであった。

そして、ついにはグラウンドの隅の方へとたどり着いた我々。

そしてその目の前にあったのは。

「えっと……先生。私から見てもこれは倉庫に見えるっすけど……」

「そうよ。残念だけど、同好会は正式な部活じゃないから部室は使えないのよ。」

そう言われてもなぁ。てか、この倉庫、シャッターが完全に閉まってるしもしかして、今日は部室の紹介だけで終わるのでは……

「じゃあ、右についている扉から入るから、ついてきてね。」

そんな私が持った淡い期待もたったの10秒で潰えるのだった……





倉庫の中に入ると、床の真ん中には綺麗にビニールテープが引かれていて、扉が付いている右半分にはボールやバットなどの野球をほとんど知らない私でも知っているものや、タイヤのようなものが二つ付いている大きな機械、何に使うのかもよくわからない土台に棒が付いているだけのものなど、様々なものが置いてある。

左半分には、石灰やコーン、大縄などのおなじみ体育祭などでよく見るものが積み重なっていた。




「静先生、何ぞ用なん?」

様々なものが置かれていて倉庫全体は見えないが、倉庫の奥の方にすでに誰かがいるのかな。

「小山ちゃん、今日は体験入学したいって子を連れてきたわよ。」

「ちゃん付けすんなや!!てか、えっ!?ホンマなん?待ってや、ウチまだ何も用意できてへん。お茶とかお菓子とかあった方がええんか?」

奥の物陰からトコトコという足音が似合いそうなほど小柄な子が体育着に身を包み現れた。

身長はぱっと見140cmほどで黄色のボブカットに大きな目をした子がいた。

「せや、とりあえず自己紹介せなあかんか。ウチの名前は小山 終。身長で意外に思われるかもしれへんけど、一応皆の一つ先輩や。よろしゅうな。わからんことがあったら何でも聞いてくれな。」



「小山ちゃん、紹介するわね。今日、体験入部にきてくれた吉田さん、望月さん、森町さんよ。」

あれ、先生?さっきまで見学っていってたよね。

あれ?何でいつの間にか体験しなくちゃいけないことになってるのかな?

そっとモチモチとヨシマサに目を向けても「よろしく。」的なニュアンスのことしか言ってなかった。

もしかして、先生にハメられた!?

「あっ!!でも先生、今日動ける服を持ってくるの忘れたっす!!」

「私も〜。」「同じく。」

ありがとう吉田さん。見直したよ。何も考えてない子かと思ってたけど、新品の服の汚れを気にする素晴らしい心を持っているんだね。





「それなら3人とも気にしなくていいわよ。こういうこともあると思っていろんなサイズの新品の体操服を職員室に置いてあるから今日はそれを使って。」

「流石、先生っす!!用意周到っすね。」

てか、何でこの人そんなに体操服を持っているんだ……

「いや、悪いですよ。先生にそんなに迷惑をかけられません。」

とりあえず、やんわりと遠慮をするジャパニーズ精神で体験は断っておこう。

「別に気にしないで使って。私は代わりに皆の写真を撮らせてもらうから。」

そんな先生の顔はニヤニヤと口元が緩んでいる。

なるほど、そういう癖の人だから大量に体操服を持っているのか。ただのモブかと思っていたが、下手したらそこらの人よりタチが悪い。

先生は嬉々として職員室へと向かっていった。

二人もやるかのようだし、私だけやらないのも気が引けてしまう。まぁ、少しくらいなら付き合ってやるか。





「てか、3人は何でこの部活に来てくれはったん?正式な部活じゃないから、知るきっかけとかもなかった思うんやけどな。」

「そうっすね。私はもともと野球部に入部したいと思ってきましたっす!!二人は部活が決まってなかったようなのでいっしょに見に行かないかって勧誘したっす!!」

「それホンマなん?てかやっぱり3人で来たってことは3人は友達なん?」

「違いますよ〜。今日会ったばかりなんです〜。」

「そうなん!?めっちゃ仲ええから、もともと友達やったのかと思っとったわ。」

ですよね。初対面での一言目がいきなり部活見学に誘われるとは私も思ってなかったですよ。





「じゃあ、3人は野球の経験とかあるん?」

「私は中学の時やってたっす。夏の大会は残念ながら1回戦敗退でしたけど。」

「えっと〜、私は初心者です〜。」

「私も。」

「なら、今日はハードなことはせず、簡単なことをやって切り上げるか。簡単な運動をしてから、キャッチボールであがり。そんでどうや?」

よし!!やるべきことは二つだけでそれやって終わりか。話がわかる先輩で助かった。

「体操服持ってきたから着替えてね。」

背後の扉が勢いよく開き、先生が息を切らして走ってきた。手には何着かの体操服を、首にはカメラを掲げている。




「先生おおきにな。準備しとくから3人は着替えといてや。後、そこの段ボールに古いのやけど、グローブが入っとるから、好きなの選んできてな。」

そう言って先輩は小さな体でボールの入った箱を持ちせっせと外へ運び出した。

扉から出る前に、先輩が箱で前が見えなくなったのか壁にぶつかり、「痛ッ!!」と声を上げた。

なんだか幼い子が頑張っているみたいで微笑ましいなぁ。

「先輩、頑張っててえらいえらい〜。」

モチモチは手を叩きながら小声でそう呟いていた。

この子やっぱり怖いなぁ……

次回から練習へと入っていきます。

大阪弁の先輩を出すと決めていたのですが、マジものの大阪弁を詳しく知らないので、所々変な言葉になってしまうところがあるのですが、寛大な心で許してください。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ