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第008話 『過去現在未来』②

「で、話しを戻しますけどもう無理ですよね……私たちじゃ」


 だからこそマークやアランとは全く別の意味で、自身も含めた『黒虎』というパーティーが限界を迎えていることを、ソル以外ではリィンだけが気付けたのだ。


「……そうは言いきれないと思うけど」


「正直に言うと私は恐いです。B級に上がってからずっと怖かったです。これからA級として戦っていけるという自信なんて持てないです。それはソル君がいてくれてもです」


 この期に及んで言葉を濁すソルに、率直な意見をリィンが伝える。

 

 パーティーの『盾役』として魔物からのほぼすべての攻撃――大技や瀕死時のいわゆる超必殺技を受け、躱し、あるいは阻止してきたリィンだからこそ、実際の彼我の戦力差を肌で感じることができていたのだ。

 ソルが――『プレイヤー』が持つ戦いの(コトワリ)を覆す奇跡の介入がなければ、自分たちの自力ではC級がせいぜいだという厳然たる事実を。


「……さっきはああ言ったけど、アタシも同じかなー。C級あたりの獲物を冒険者ギルドから頼りにされながら狩るんだったらいくらでも付き合えるけど、ソルが目指している夢ってそんなんじゃないよね?」


 『盾役』の率直な意見を受けて、『回復役』であるジュリアも本音を話す。

 ソルが子供の頃からの夢を諦めきれずにいることも理解した上で、自分たちがついて行けるのはここらが限界なのだとぶっちゃけた。


 リィンもジュリアも、迷宮の第9階層に挑んだ時の恐怖と絶望は鮮明に魂と記憶に刻まれているのだ。


 物の見方、捉え方はまるで違っても、真実はいつも一つ。

 たとえ稀代の能力『プレイヤー』を持ったソルと共に戦ってさえ、これ以上は無理だという事実は揺らがない。


「……全迷宮の攻略」


 そしてソルは、やはりそこだけは譲れない。


 たしかにリィンとジュリア二人とともにもう一度A級パーティーに上り詰め、この時代の最強パーティーとして歴史に刻まれる暮らしをするのも悪くはないとも思う。

 その程度でいいのであれば、極端な話なにもマークとアランの代わりのメンバーを補充しなくてもこの三人で充分にやっていける。


 ハーレム・パーティーなどと呼ばれながら迷宮攻略とそれによって得る収入を以って、人々に感謝されながら適度な緊張感と贅沢な暮らしを老いて戦えなくなるまで続ける。

 それはもう、一つの英雄譚の完成形とさえいえるだろう。

 事実、マークやアランは自分の実力をある意味においては冷静に判断し、そういう将来を思い描いたからこそ『黒虎』は解散することになったのだ。


 ――だけど。


 それはもう冒険者――危険を冒し、それにこそ最高の興奮と知的充足感を覚える度し難い存在――ではなくなってしまう。


 ソルは死ぬまで『冒険者』でありたい。

 『プレイヤー』などと言うとんでもない能力を得たにもかかわらず、ありふれた裕福な暮らしに満足して終わるなんてまっぴらなのだ。


「だったらこれからはそのために必要な人たちとパーティーを組むべきです。じゃないと……」


 そしてどうしても夢を諦められないのであれば、除名される側になろうが除名する側になろうが、これから先をソルは別の仲間と共に歩むしかない。

 各役割に必要なスキルを付与しようが、ステータスを増加させようが、軸となるリィンとジュリアがただの『村人』ではここが限界なのだ。


 リィンの言う必要な人たち、すなわちもともと魔物と戦えるだけの『能力』に恵まれた人材たちを、『プレイヤー』の力でさらに強化して人の限界を超える。

そうして初めて、本来人の手には負えないはずの迷宮深部の攻略が可能になるだろう。


 それにリィンが畏れているのはなにも自分が死んでしまうことだけではない。

 なんとなればそれは二の次とさえいえる。


 自分たちのせいでソルが夢を諦めてしまうことと、ソルが自分たちとの攻略に拘ったせいで死んでしまう――『盾役』の自分が守り切れなくてソルを死なせてしまうことがなによりも怖いのだ。


 リィン自身が常にソルと共にいたいと思ってしまう想いは強くても、それをも上回ってしまうくらいに。

 だからこそリィンは本来ならしたくもない、自ら身を引くようなこんな話をしているのだから。


「――ごめん。わかった」


 リィンが言い澱んだ部分をある程度は理解して、ソルは心を決めた。

 幼馴染を切り捨ててでも、自分の夢をもう一度追いかけることを。


 どんな形であれソル・ロックという存在が見た夢に決着がつく時、その結果を幼馴染たちの()()にしてしまうことだけはないように。


「私はへっちゃらです! 今日までに貯めたお金はちょっとやそっとの無駄使いでなくなる額じゃないですし、ロス村も私の実家もすごく豊かになってます。だから私は田舎に戻って、ちょっと贅沢に暮らそうと思ってます」


 ソルに真面目な表情で謝られたリィンは慌てて笑顔を浮かべ、その前で手をぱたぱたさせながら気にすることはないと告げる。


 実際リィンが諦めるのはソルの仲間――冒険者として迷宮攻略を続けることであって、別の意味でソルの隣にいることを諦めるつもりなどさらさらない。


 まだ十代でもあるし、ソルの夢に届くパーティーを再構築できるまでは『盾役』として付き合うことも厭うつもりはない。

 ここで必要以上に「重い」発言をして、別の意味でソルの足を引っ張るようなことになれば本末転倒だということも弁えている。


 今はソルがもう一度、きちんと自分の夢を追いかけることができるようになることが一番大事なのだ。

 その上で、結果がどうなっても自分たちの故郷で待っている女がいることを頭の片隅にでも置いてもらえればそれで充分。


 どうしても隣にいたい人がいてそれを諦められないのであれば、他人から「都合のいい女」だの「矜持がない」などと好き勝手に言われようが、自分にできる最善手を打ち続けるしか手段はない。


 リィンはリィンで、自分の夢を叶えるためにできることはすべてするつもりなのだ。

 

 だが『黒虎』よりもずっと強いパーティーを組めたからと言って、ソルが無事に夢を果たして帰って来られる保証などどこにもない。

 そんなことはリィンも十分理解しているが、自分の女としての魅力がソルの夢を凌駕できない以上、それは覚悟するしかないのだ。


 ――いなくなってしまうかもしれない人だからという理由で、嫌いになれたら楽なんですけどね……


 そうはなれない以上、茨の道だと知りつつも歩むしかないリィンなのである。

 ソルはそっち方面はかなりポンコツなことは長い付き合いでわかっているので、ぽっと出の女性に引っかかってしまう可能性が低いことがせめてもの救いかもしれない。


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[良い点] ええ娘やん
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