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第007話 『過去現在未来』①

「というか三人残るならこっちが『黒虎』じゃない? アタシはソルとリィンが揃っていてくれるのなら、このまま続けても問題ないけど」


 想像の斜め上を行く急展開にソルが茫然としていると、苦笑いを浮かべながらジュリアが口を開く。

 

 ――いや確かに、ジュリアの言うこともわかるけど……


「いやほら、リーダーとサブリーダーが抜けたのに『黒虎』を名乗るのは流石に……それに黒髪黒目の僕をイメージしてくれたのはありがたかったんだけど、なんというかほら……」


「海老みたいなパーティー名なんてどうでもいいですよ」


 ソルが自分でも歯切れが悪いと自覚しつつ、せっかくならパーティー名は変えたいことを伝えようと頑張っていると、冷え切った声でリィンがぶった切った。

 パーティーを立ち上げた時から実はソルも思っていた容赦ない感想に思わず笑ってしまい、殺伐としていた空気が僅かにとはいえ弛緩する。


 それはリィンとジュリアも同じだったようで、なんとなくいつものように笑い合う。


「というか二人ともいいの? 付き合ってくれるのなら僕は助かるけど……」


 これは嘘だ。


 確かにソルにしてみればジュリアの言うとおり、女性陣二人が自分と一緒にパーティーを続けてくれるというのであればそれを断る理由はない。

 1人でパーティーから追い出されるところだったのを、2人がついてきてくれたカタチになっているのだ、それを拒否するなどどんな恩知らずだという話である。

 それに最低等級からの新パーティーになるのは止むを得ないが、優秀な攻撃役を『プレイヤー』の仲間に加えれば、A級に返り咲くのにもそんなにはかからないだろう。


 少なくとも今回のように2年もかかるということは絶対に無い。


 だがそうなるとついさっき自覚したとおり、ソルの夢はあきらめざるを得なくなる。

 それは「幼馴染5人で」という部分だけではなく、「冒険者としてすべての迷宮を攻略する」という根幹部分についてもだ。


「ソル君」


「は、はい」


 こうなってしまった以上、それもまあいいかと思ってしまいそうなソルに、リィンが真面目な声と表情で問いかける。


「いい機会ですから聞いちゃいますけど、ソル君の方()限界を感じているよね?」


「――え? そうなの?」


 子供の頃のような口調でのその問いは、ソルが思っていた以上にリィンが『プレイヤー』という能力を正確に把握できていることを意味している。

 そこまではわかっていなかったジュリアが驚いているのと同じくらい、ソルも内心ではびっくりしている


「というか、二人ともいつから気付いていたのか聞いてもいい?」


 だが程度の差こそあれリィンとジュリアの女性陣二人が、ソルこそが自分たちに魔物と戦う力を与えてくれていることを大前提としているらしいことくらいは理解できた。


 リィンはともかく、ジュリアはソルを異性として慕っているわけではないのだ。

 それでも躊躇なくマークとアランを切り捨て、ソルと共であればパーティーを続けることを問題視しないということはそういうことだ。


 となれば能力に目覚めてから今に至るまでの5年間、曲がりなりにも隠せていたつもりだったソルとしてはこの質問を投げかけないわけにはいかい。


「え? 最初からですけど……」


「アリエナイから奇跡っていうんだよねー」


 その問いに対して一瞬だけ驚いたように顔を見合わせたリィンとジュリアが、二人とも笑いながら即答する。

 ソルにしてみれば『プレイヤー』のスキルを行使することが多い二人だからこそ、どこかのタイミングで気付かれたのかと思っていたのだが、意外過ぎる返答に返す言葉を失っている。


「だってあの日、ものすごく慌てていましたよねソル君」


 なんでオトコ共二人は気付かないのかなーなどと言って笑い合っている二人を茫然と見ることしかできないソルに対して、ちょっと困り顔でリィンが「どうして気付けたのか」というネタバラシをしてくれるらしい。


「あー……」


 あの日――5年前に『プレイヤー』という能力をソルが授かった日。


 幸いにして自分が特殊な能力を得たのだと理解したソルは、他の仲間4人は魔物と戦えるような能力を授けられなかったことを、己が能力によって即座に理解した。

 『プレイヤー』の初期スキルのひとつに、他人が授かった能力を可視化するものがあったからだ。


 マークもアランも、リィンもジュリアも、なんのスキルを得ることも出来ずステータスに僅かな付与を得ることができるだけの、ありふれた『村人』でしかなかったのだ。


 魔物と戦えるような『能力』を授かった者は、すぐに自身が行使可能な『スキル』を自覚できる。


 そのことを大人たちから何度も聞かされていた子供たちのほとんどが、自分には冒険譚の舞台へ登るチケットが与えられなかったことを知って絶望し、以降は厳しい現実を生きていかなければならない大人になる。

 それがこの世界における幼年期の終わりチャイルドフッズ・エンド――12歳を迎える年の元日なのだ。


 冒険者になることを誓い合った仲間たちが、今まさにそうなろうとしている。

 だからまだ12歳だったソルは慌てた。


 自分だけが恵まれた立場になることによる「仲間はずれ」を恐れたことも確かだ。

 だがそれ以上に自分の夢を諦めたくなくて、奇跡のように与えられた『プレイヤー』の力を使って子供でい(夢をみ)られる時間を延長したのだ。


 秘密基地でさんざん語り合った、将来各々がなりたい冒険者像に必要な力。


 マークには『物理攻撃役』として必要なスキルを。

 アランには『魔法攻撃役』として必要なスキルを。

 ジュリアには『回復役』として必要なスキルを。


 そしてリィンにはみんなを守る『盾役』として必要なスキルを、強制的に『プレイヤー』の仲間とすることで付与したのだ。


 絶望に支配されかけていたマーク、アランの順でスキルを自覚して驚喜の声をあげた。

 それを見て「あーあ、あたしはダメかぁ」と思っていたジュリアも、突然自分に宿ったスキルを自覚した。

 驚いてリィンの方を見ると、自分のことよりもソルを心配して見つめていたリィンが驚愕の表情を浮かべており、一瞬遅れて自分にも『盾役』として必要なスキルが宿ったことを自覚したように見えた。


 涙まで浮かべて自分の身に起こった奇跡を喜んでいるマークとアランを横目に、リィンとジュリアは別の意味で驚愕の表情を浮かべて見つめ合わずにはいられなかった。


 そんな中、虚空を睨むようにして慌てていたソルがそんなみんなの様子を確認して安堵の表情を浮かべ、5人の中では最後に自分も支援系の能力を授かったことを控えめに報告したのだ。


 当事者の5人も、どうやらそれが嘘ではないことを確認した村の大人たちも熱狂する中。


 リィンとジュリアの2人は、『奇跡』と呼ばれるべきは同時に5人もの子供に魔物と戦える力を授かったことではなく、たった1人にそんなことが可能な『能力』が与えられたことだとひそかに理解したのだ。


 ソルにしてもそんな風にあの時の様子を客観的に説明されれば、リィンとジュリアが初めからある程度は気付いていたことにも納得せざるを得ない。


 現実はなにも変わらなくても、知っているかいないかで物の見え方はまるで変るのだという実例の極みと言えるだろう。


 マークとアランが弱者だと蔑みつつも心配して除名しようとしたソルと、リィンとジュリアがA級パーティーをあっさり抜けてでも共にいることを優先するソルが、この5年でしてきたことはなに一つ変わらないのだから。


 また事実をある程度知っていたからこそ、二人はマークとアランに比べてソルの指示に忠実でいてくれたのだろう。

 リィンの淡い恋心程度だったものが、王立学院での3年間と冒険者としての2年間を経て確固たる想いへと成長したのも、それを知っていたが故なのかもしれない。


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