第268話 『王佐の在り方』⑧
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「ただいま戻りました」
模擬戦が行われた高台でルーナとアイナノアとなにやら遊んでいるソルに、フレデリカが代表して声をかける。
すでにスティーヴとガウェインの姿はソルの側に確認することはできない。
「おかえりー」
フレデリカの声に反応して振り返ってソルがそう言って笑い、ルーナとアイナノアはひらひらとフレデリカたちに向かって手を振っている。
そうしていると獣人種と亜人種のとんでもない美少女2人にしか見えない。
だが、その実力をよく知っているフレデリカたちにしてみれば、自分たちが伝説の『邪竜ルーンヴェムト・ナクトフェリア』や『妖精王アイナノア・ラ・アヴァリル』から親しくされる立場である事実は、未だにちょっと非現実的である。
そんな彼女らをただの幼女のようにあやせているソルは、やはりちょっとどこか浮世離れしているとしか思えない。
まあ当の『怪物』たちのソルへのなつきようを見ていれば、それもやむなしかとも思えるのだが。
まだその実力のとんでもなさを目の当たりにしていないルクレツィアやファルラにしてみれば、美幼女2人が『全竜』と『妖精王』だと頭では理解できていても、本当に肚落ちはできていないだろう。
まあそれも今日一日を共に過ごせば、嫌でも彼女らこそが本物の『怪物』なのだと思いしることになるのだが。
「ああ、2人ともらしくていい感じですね」
いつものようにルーナを抱き上げ、そのルーナの頭につかまって浮いているアイナノアと共に、ソルが当面の装備を整えたルクレツィアとファルラに対する感想を述べる。
ルクレツィアは『魔導制御衣』の上に内在魔生成量増加加護のついた鎧ではない薄手の衣装系装備で固められ、手には薙刀のようにも見える長杖を持っている。
頭装備はもともとのロング・ポニーテールを纏めている金属製のアクセサリーのみ。
まあそれとて外在魔力の吸収速度を飛躍的に高める、人造魔導器ではあるのだが。
全体的に本来のオリエンタルな雰囲気を維持しつつ、ソルの言うとおりいかにも「術師」らしい格好に仕上がっていると言えるだろう。
ファルラの方は『魔導制御衣』以外は鎧、衣服系の装備は一切身に着けておらず、胸元や腰回り、靴などに敏捷度等のステータス関連を増加するアクセサリー類を装備しているのみだ。
身体のラインがほぼそのまま出ているので、ソルはちょっと目のやり場に困るが本人はまるで気にしていないらしい。
自身の爪と牙を主武装とする銀虎族の特性を活かすために、手に持っている武器はない。
だが指一本一本を保護する指輪と一体化している金属装甲の本質は防具ではなく、ファルラの周辺に浮遊している10の金属球と連結しており、ファルラの攻撃行動に連動する特殊武器である。
少々身体のラインを強調し過ぎであるとはいえ、フレデリカと同じく自身の身体の躍動そのものを攻撃力とする「体術遣い」として、こちらもまたいかにもらしい姿である。
「……恐縮です」
「……ありがとうございまス」
これらすべての装備を与えてくれた絶対者に褒めてもらえたことは嬉しいのだが、俄かには気の利いた返事を思いつけない2人は無難な回答をすることしかできない。
だがソルにしてみれば、なかなかにバランスの取れている6人パーティーが完成したのでご満悦である。
盾役のリィン、回復役のジュリア、強化・弱体役のエリザを軸に、物理攻撃役としてフレデリカとファルラ、魔法攻撃役としてルクレツィア。
それをソルが『プレイヤー』を以て指揮、支援を行い、必要に応じて『全竜』、『妖精王』、『神獣』といった切り札を使役する。
すでにソルが知る限りにおいては5体の『怪物』のうち、過半数を配下としているからには、万が一残りの『虚ろの魔王』と『呪われた勇者』の2体を同時に相手をせねばならなくなったとしても、そうおいそれと遅れは取らないだろう。
そんなすでにして『怪物』を3体も使役可能となっているソルが、今更人や亜人種、獣人種で構成された、いわば普通のパーティーを育てる意味があるのかという疑問をリィンたちとて持たないわけではない。
だが迷宮の攻略と魔物支配領域の解放に取り憑かれていると言っても決して過言ではないソルがあえて手間暇をかけてまでそうするのだから、そこにはなんらかの理由があるのだろうとも思っている。
実際、ソルは最終的に『怪物』たちという手札抜きでも攻略可能な体制の確立を目指している。
その理由もあわせて、今回1stパーティーが固まったことで説明するつもりでもある。
「スティーヴさんとガウェインさんはガルレージュにお仕事をしに戻ったよ。ああ、それとガウェインさんは『魔導制御衣』を改良するつもりらしい。ファルラさんの『完全獣化』と、ルクレツィアさんの『焔躰廻遷』にも対応可能なようにバージョンアップするつもりだってさ」
仕事熱心な2人がもうすでに職場へ帰還したことを告げると同時、さらりととんでもないことも口にするソル。
まあこれにはソル自身も呆れ気味であり、ガウェインの能力――『魔導鍛錬師』というものに対する認識を改めてもいる。
ソルは今までガウェインの能力を、魔物素材に触れればそれを最も活かせる武器防具の最終形を識ることが可能で、それを具現化するために必要な技術や副資材を把握できるものだと認識していた。
それだけでもすでに、ソルが保護、独占するべきとんでもない能力である。
だがそれはあくまでも能力の一つでしかなく、ガウェイン自身の知見が増えたことによって得た「閃き」を、どうすれば既存の武器防具へ組み込むことが可能かもわかるらしい。
今回は先の模擬戦で『完全獣化』と『焔躰廻遷』を識ったことにより、『魔導制御衣』をそれらの能力に対応可能に改良する方法を閃いたのだろう。
もはやこれは神様から授かった能力と、それを基にガウェイン自身が貪欲に吸収してきた必要な技術、知識の混成のようなものである。




