第265話 『王佐の在り方』⑤
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「あ、あの……」
「これって……」
装備用倉庫というには少々瀟洒がすぎる小ぶりな白亜の建物の中で、もう本日何度目か自分たちでもわからない、「絶句するしかない状況」というやつにルクレツィアとファルラは再び置かれている。
模擬戦の内容から判断して主としてフレデリカとジュリアの2人が、攻撃系魔法攻撃役としてのルクレツィア用、特殊物理攻撃役としてのファルラ用の装備を見繕ったものを目にした結果である。
ルクレツィアもファルラも、つい最近までは被差別種族として生きてきていたのだ。
もちろん己が内在魔力を使った鍛錬は積んではいたが、外在魔力が枯渇した状況ではいわば『型』の訓練を積んでいるようなものに過ぎず、それが実戦で通用するかどうかなどわかるはずもなかった。
当然冒険者ギルドに登録して攻略することなどできるはずもなく、魔物に襲われればなすすべもなく蹂躙されるしかない、明確な弱者側であったのだ。
外在魔力が再び世に満ちてからは、地道に鍛錬してきた『型』がとんでもない戦闘能力を発揮することを、身をもって確認できてはいる。
だが実戦経験としてはまだほとんどないに等しく、自分たちが地道に鍛え上げてきた能力を十全に使いこなせているとはまだまだ言い難い状況でもある。
そんな実戦においては素人に毛が生えた程度でしかない2人でも、今目の前に並べられている装備群がとんでもないものだということくらいは理解できるほどの特級品ばかりなのだ。
事実、無造作に並べられたガウェインお手製のそれらに比肩する装備を有しているのは、冒険者の等級で言えばA級でなんとかといったところだろう。
その事実上最上位等級である彼らでさえ剣や盾、鎧のどれか一つでも相当品であれば大したもので、頭の天辺から足のつま先までこの域で揃えられている者の数は全冒険者中でも三桁には届くまい。
「すごくお気持ちはわかります。でもこれでも「繋ぎ装備」に過ぎないんです。ソル様直属パーティーになった以上は、もう慣れてもらうしかないんです」
今までなにもその手に持っていなかった者が、無造作にこんなとんでもないものを与えられる際に否応なく経験する精神的重圧。
それをこの中では一番理解しているエリザが、今まさに当時の自分と同じ気持ちになっているであろう2人に対して、慈悲なく諦めろと伝えている。
エリザもまた城塞都市ガルレージュでソルが自分たちスラム出身3人の装備を揃えてくれた際には、目の前の2人となにも変わらない状況に陥った経験がある。
いや実際にいろんな店を連れ歩かれたことで、彼女たち以上に妙な汗をかきっぱなしだったのがほんの数カ月前の話なのである。
しかも今のルクレツィアやファルラのように「役に立つ」ところを見せた上でのことですらなく、ただ一方的に厚遇を受けたのだ。
それもそうしてくれる恩人を殺しに行った翌日にである。
そう考えればルクレツィアとファルラはまだ、きちんとした理由を伴ってソルの仲間になれていると言える。
エリザなど、元ガフス組であった配下たちから「どうして殺されなかったの?」と問われる始末であり、自分自身ですらも未だ正しい答えを持ち合わせてはいないのだ。
当時は醜い火傷の痕もあり痩せぎすであった自分を覚えている上、今の自分にすら自信を持てないエリザなのである。
ソルに見る目があったのだと開き直ることも、少々難易度が高いのである。
「……ハイ」
「……承知致しました」
とりあえずそう答えることしかできない2人を見て、「恐ろしいことに、ある程度はどうしたって慣れてしまうんですよ……」と内心で独り言ちるエリザである。
元より幼馴染であったリィンやジュリア、大国であるエメリア王国のお姫様であるフレデリカ専用だと思っていたら、あっさり自分にも専用装備である『固有№武装』を与えられた際の衝撃は今なお褪せてはいない。
まあそれ以前に、年端もいかない小娘でしかない自分を、裏社会の頂点に据えてしまったこと自体が無茶苦茶なのだが。
今のところそれを当然のこととして増長し、ソルに対する感謝と服従の意志を忘れるようなことが自分に起こるとは考え難いエリザではある。
だが見方を変えれば、一年前の自分であれば到底信じられないであろうことを、当然としている最近の自分がいることもまた事実である。
あるいは定期的に今のルクレツィアやファルラのような新人が入ってきてくれることは、ソルの側にいる自分たちにとっては「初心を思い出す」という点において、とても大事なのかもしれないと思うエリザなのである。
「でもルクレツィアさんもファルラさんも、すっごいスタイルですよね……正直羨ましい」
ルクレツィアとファルラに与えられる『固有№武装』がどれになるのかはソルが決めることであって、現時点ではリィンもフレデリカも知っているはずもない。
だが基礎装備として『魔導制御衣』はとても優れている。
そう時を置かずして彼女たちにも専用の『固有№武装』が与えられるのは間違いないし、通常装備をいちいち着脱しなくても『異相空間』に収納できるという点だけでもマスト装備と言えるだろう。
幸いにして? ほぼ全裸状態だったルクレツィアとファルラに、まずは予備の『魔導制御衣』を身に付けてもらった姿を見てのリィンの感想である。




