第263話 『王佐の在り方』③
「優先したい人がいるのであれば先に教えてください。その人たちは確定とします」
その上なんでもないことにそう言うソルの発言はとても重い。
ソルにとってルクレツィアとファルラはお飾りなどではなく、本当に両種族の代表者だと見做しているということだからだ。
本人たちがそうと望めば、お飾りでいることも可能だろう。
だが誰もが望まずにはいられまい『強者』へ選択権をソルがルクレツィアとファルラに与えるということは、その集団において2人を蔑にできる者などいなくなる。
つまりそれは2人をきちんと代表者として扱えという、ソルからの宣言に他ならない。
そして与えられるということは、取り上げることもできるのは当然とみるべきだ。
一度は与えられた飴――実益を伴う絶対的な力を取り上げられることは、この上ない恐怖となって信者たちを縛るだろう。
そんな絶対者の側に仕えることを赦されたルクレツィアとファルラはお飾りなどになっている場合ではなく、種族と一族、なによりも自分自身のためにソルをして代表者に相応しいと思わせられるだけの行動と実績が求められるのだ。
「それとスティーヴさんとガウェインさんをガルレージュに送ったら活動開始しますので、それまでに適当な装備をしておいてください。みんなで見繕ってあげてくれるかな?」
受け身になってる場合じゃねえ! と覚悟を新たにした2人に、ソルが少々赤面しながら装備を更新しておくようにと伝える。
確かにファルラははだけ気味に袍を纏っているだけだし、ルクレツィアに至っては全裸にフレデリカのサマーニットを羽織っているだけなのである。
そんな姿の美女2人を傅かせたままというのは、ソルにとっては落ち着かないのだろう。
だがたった今していた話のあまりといえばあまりな重要さに反して、それを可能とするだけの能力者が、自分たち程度のあられもない姿に本当に動揺していることがちょっと面白いと思ってしまう2人である。
そんなルクレツィアとファルラの表情を、ジュリアだけが「ホント、ソルはこういうところがさあ……」といわんばかりの半目で眺めている。
教祖様が自分だけに()時折見せる無防備さ、素っぽさというのは信者をこの上なく魅了するものなのである。
「お任せください」
内心ではジュリアと同じような感想を持ちつつ、ソルの要望に対して秘書ポジションであるフレデリカが答え、傅いていたままの2人に立つように促す。
装備類を置いている建物へ移動し、ソルの指示通り2人の当面の装備を整える為である。
だがまだ今はルクレツィアもファルラも理解していない。
その間に合わせの装備ですら、世の冒険者たちのトップクラスのものを遥かに凌駕する域にある事を。
「彼女たちの『固有№武装』はどうするよ?」
女性が自分のものでなくとも、その格好を自由にコーディネートするのが好きだというのは事実らしい。
もちろんソルの指示によるものでもあるし、実際に迷宮で肩を並べる仲間となることが決定したルクレツィアとファルラの装備を整えるのは重要なことでもある。
だがうれしそうに女性陣全員が連れ立って歩いてゆくその様は、装備を整えるというよりも、お洒落着に着替えに行っていると言った方がしっくりくる光景だろう。
その様子を横目で見ながら、ガウェインがソルに確認する。
ガウェインにしてみれば、これから彼女らが整える間に合わせの装備にもはやさほど興味はない。
新たな素材が手に入れば手直しをしたり新たに鍛えたりもするが、あくまでもそれは予備装備のようなものにすぎないからだ。
だがルクレツィアとファルラがソル直属パーティーの一員となったからには、彼女らにも現時点における最強装備である『固有№武装』が用意されることは確定している。
となれば今からガルレージュに戻る前に、ソルの意向を確認しておくことは当然だろう。
「迷宮でもう少し戦闘特性を見てからみんなで意見を出し合った上で、最終的には彼女たちに選んでもらうつもりです」
「承知した。いつでも組み上げられるように準備しておく」
「よろしくお願いします」
当然、ついさっき2人の戦闘特性をある程度確認できたソルに腹案はある。
だが焦る必要も今のところはないし、今日からの攻略過程を確認した上で決定する心積もりらしい。
となればガウェインとしては万全を期すだけである。
今のところ倉庫の肥やしとなっているモノが多い『固有№武装』たちの遣い手が顕れてくれることは、ガウェインにとっては嬉しいことでしかないのだ。
「まあ、ソルもあんまり根を詰め過ぎんようにな。たまにゃあガルレージュにも顔を出してくれるとありがたい」
仕事に戻れることにうきうきしているガウェイン爺様を横目で見ながら、やらねばならぬことだと理解しつつもそこまで楽しみもできないスティーヴが、ため息交じりにソルにそう伝える。
この数日間の強制休暇は、正直にいえば意外と楽しかったのだ。
特に夜、ソルとガウェインと共にゆっくり呑めたことが。
だがその間にたまった仕事と、それまでにすでに溜まっていた仕事、またつい先刻増えた仕事のことを思えば頭が痛い。
それでも仕事中毒のケがあるスティーヴは自分の執務机に座ったが最後、ソルに心配されてしまうほどのオーバー・ワークになってしまうのではあるが。




