第154話 『無限剣閃』①
『無限剣閃』
それは王立学院生徒会会長でもあるラルフ・ヴェルナーの通り名にして、彼を千年前の『勇者』の再誕とまで言わしめる「必殺技」の名でもある。
ラルフの視界に捉えられ、敵とみなされた者には不可避の剣閃が叩き込まれる。
それは距離も数も上限なく必中。
しかもその剣閃はただの物理攻撃ではなく、魔力を帯びた能力による斬撃。
その上、同時攻撃する対象が少なければ、かなりの精度でラルフの思い通りの場所に当てることが可能とまで来ている。
つまり一桁程度の人数相手であれば、対人戦においては事実上無敵。
正確な狙いを維持できなくなる二桁以上の人数になったところで、その一閃を受けながらも死を免れるためには、かなりの重装の装備で全身を鎧っていなければならない。
しかもそれでも死を免れることができるというだけであり、戦闘不能になることから逃れることは出来ないのだ。
事実ラルフは百名からなる王立軍重装歩兵群を、一瞬で無力化してみせたこともある。
では人であれば一撃必殺であるその剣閃を必中させても仕留めきれない、強力な魔物の場合はどうなるのか。
その場合は『無限』と冠されているとおり、その魔物が持つ不可視の障壁――H.Pを削りきり、倒しきるまで無数の剣閃が叩き込まれ続けることになるのだ。
対人、対魔物双方において隙の見つけられぬ圧倒的な飽和攻撃。
それこそが『無限剣閃』
ラルフが軍に進もうが冒険者になろうが、エメリア王国が誇る絶対的な「剣」となることを期待されるのも当然の強力な唯一能力なのである。
とくにエメリア王家の血継能力である『絶対障壁』と合わせて、大陸に覇を唱えることを夢見ている軍関係者は決して少ない数ではない。
一部では、すでに王家直々に近衛へスカウトされているという噂もあるくらいなのだ。
「はっは、すまないな。ま、俺の能力が派手なことを認めるのは吝かではないけどね」
そう言って屈託なく笑うラルフはすでに、歴戦の強者の風格を纏っている。
確かにラルフの持つ唯一能力『無限剣閃』は誰もが憧れる力であり、無敵といってすら過言ではないかもしれない。
今日の入学式、ソルたち「ロス村の奇跡の子供たち」による大型魔物撃破よりも注目を集め、沸かせたのはアランの『無限剣閃』によって複数の魔物を瞬殺するデモンストレーションだったのだ。
謙遜も過ぎれば嫌味にしか聞こえない。
ラルフのような能力を夢見ていたソルにしてみればなおのことだろう。
「――しかし君から見て、俺は本当に強いかね?」
だがどこか寂しそうにそうつぶやくラルフの表情から、謙遜や嫌味を感じることがソルにはできなかった。
「……なぜ僕にそんなことを聞くんですか?」
確かにラルフは一見しただけでは何もしていないようにしか見えないはずのソルのことをやべー奴、天才などと呼び、自分のことはこの場で努力を重ねる才能なき凡人と称していた。
現在、すでに軍人や冒険者として一線で活躍しているすべての能力者たちを含めてすら最強と目されている者の言葉としては、不似合いなどというレベルではない。
しかも勘違いで持ち上げられているわけでも、ハッタリでごまかしているわけではないともなればなおのことだ。
『無限剣閃』は強い。
ラルフには王立学院入学後に頭角を現し始めて以降に積み上げた、揺ぎ無い実績がある。
今日のデモンストレーションひとつをとっても余人にはけして真似のできない、ラルフが間違いなく強者であることの証明としては十分すぎるだろう。
だがそのラルフ本人は謙遜や嫌味ではなく、己を本当に強者だとは思っていないらしい。
「俺の能力を正確に把握できそうだから……かな? 今日の模擬戦、指揮官は君だろ? 他の4人がとんでもない力を持っていることも確かだけど、俺には君の指揮こそがもっともとんでもなく見えたんだよ。仲間たちの能力、行動どころか、敵である巨大魔物の挙動すら完全に掌握しているようにしか見えなかった」
真面目な顔で応えるラルフに、ソルは二の句が継げなくなった。
おそらくは勘も含めての判断なのであろうが、ラルフの見立ては完全に今日の模擬戦の本質を射抜いているからだ。
『プレイヤー』にしか見えない表示枠で魔物の行動を先読みし、それを仲間に伝える。
連続使用など本来できないはずの技や魔法の再使用可能待機時間を強制的にキャンセルして、常に必要なタイミングで行使可能にする。
そうやって多用すればすぐに枯渇するはずのみんなの魔力――M.Pを幾度も完全に回復させる。
攻撃面だけではない。
掠っただけで戦闘継続など不能になるはずの通常攻撃は付与されたそれぞれのH.Pが防ぎ、特殊攻撃はタイミングを合わせて敵意を取らせたリィンの防御技で凌ぎ、戦闘継続で減少したH.Pは随時ジュリアに回復させる。
傍目にはなにもせずに後方に控えていたソルがそれらすべてをこなしていなければ、「ロス村の奇跡の子供たち」がやってのけた偉業はとてもではないが成立しなかったのだ。




