第152話 『出逢い』②
それはマークやアラン、リィンやジュリアもそう変わらないのではあろうが、ロス村の中でとはいえ比較的裕福な家に生まれた彼ら彼女らと違い、孤児であるソルが一番落ち着かないことはもうどうしようもない。
かなり遅い時間まで開放されている談話室には上級性たちもいるだろうから行く気にもなれず、さりとて自室にこもっていても眠れないしやれることもない。
それに最近日課としている「特訓」もしたくて、寮の敷地内で人目につかず、それなりの広さのある場所を見つけて一息ついている状況である。
ソルの夢がすべての迷宮の攻略とすべての魔物支配領域の解放である以上、本当にそれを成せれば歴史に名を刻む英雄となるのは間違いない。
王立学院に入学した程度で気後れしている場合ではないのだが、まだ能力を授かって日が浅いので仕方がないとも言える。
ちなみに人気もなく、警備の巡回からも外れているこの場所を見つけることはソルにとってそう難しいことではなかった。
プレイヤーのスキルの一つである『地図化』と、一度見た対象の現在位置を把握する能力を組み合わせることによって、入寮1日目であってもごく簡単にこの「穴場」を見つけることができたのだ。
だがソルのような能力に頼らずとも、時間をかけさえすれば誰にでも見つけられる程度の場所でもある。
そしてそういう場所を好む人間がソル1人なはずもなく、つまり上級生でこの場所を「自分の場所」だと定めている者がいても不思議ではないということだ。
「げ、「ロス村の奇跡の子供たち」の1人じゃねーか」
「――え?」
突然現れたその上級生は、自分のお気に入りの場所になぜかいる他人がソル――今日入学した有名人たちの1人だと認識して、驚いた表情を浮かべている。
油断していたソルも驚いて、間の抜けた声を出すことしかできない。
武装していてもソルに敵意を持っていない人間は敵性存在とみなされていないため、表示枠を見ている状況でなければさしもの『プレイヤー』であっても反応できなかったのだ。
ソルのことを認識していない強盗などと鉢合わせする可能性を考えれば、意外な『プレイヤー』という能力の穴と言えるかもしれない。
「しかも1番やべー奴じゃねえか。なんだってこんなとこにいんの?」
「す、すみません、1人で特訓? できるところを探していまして……」
「そーゆー才能に恵まれない者が人知れず努力するための場を、神に愛されたとまで言われている天才サマが奪おうとするんじゃありませんよ」
最上級生のわりには気さくな態度でソルに話しかける男子生徒は、弱ったなとでも言いたそうな表情で頭を搔いている。
その言葉の通り、自分が人知れず努力するための場所に他人がいることは困るのだろう。
「僕が天才ですか……」
だがどこか飄々とした上級生にそういわれたソルは、自嘲的に笑って肩を落とした。
12歳になる年の1月1日に自分が授かった「プレイヤー」という能力のとんでもなさは、すでにある程度は理解できてはいる。
本当はただの「村人」でしかないリィンたちを、王立学院においてさえエリートとみなされるような「能力者」に変えてしまえる能力は確かに破格だろう。
だがまだ13歳に過ぎないソルが憧れていたのは、自らの剣や杖で魔物たちを倒す、子供にとってのわかりやすい「冒険者」像であったのだ。
それこそ自らが能力を与えた、マークやアランの様に。
「およ、ない物ねだり? まあ俺も他人のこた言えんけどさ。なによ? 支援系じゃなくて派手に魔物との戦闘で最前線に立てる前衛系になりたかったクチ?」
「……そんなところです」
そんなソルの様子に対して非難めいたことを言うのでもなく、面白そうにしながらほぼ正しく内心を見抜かれたことによって、まだ幼いソルは赤面せざるを得ない。
最近始めている自称「特訓」も、自身の能力である「プレイヤー」を自身には適用できないことから地道に基礎体力を鍛えようなどという、無駄にはならないがちょっとズレた努力というやつである。
本来はまっとうである方法で少々身体を鍛えたところで、レベルアップによる隔絶を覆すことなどできないし、プレイヤーによって現在の上限値まで各種ステータスを増加された上に、各種の技、スキルを備えた幼馴染たちに敵うはずがないことなど、ソルこそが1番理解できている。
それでもどうしても、自分自身の手で魔物と戦いたいという思いは拭えないのだ。




