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【書籍版6巻発売中!】怪物たちを統べるモノ ~能力『プレイヤー』使いは最強パーティーで無双する!~【コミカライズ2巻発売中!】  作者: Sin Guilty
第三章 『死せる神獣』編

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第132話 『君臨』②

 エメリア王国王都マグナメリアの中心にある王城、その会議室。


 そこではここ連日、この大陸に存在するすべての国家の代表が馳せ参じての『世界会議』が執り行われている。


 四大強国筆頭とみなされていたエメリア王国と、世界宗教である『聖教会』の呼びかけによって歴史上はじめて成立したこの『世界会議』には、独裁国家や一部の土地を占有しているにすぎない自称国家の代表たちもすべて参加している。


 建前はどうあれ、ソルの持つ圧倒的武力を背景に持つエメリア王国と現聖教会の呼びかけに対して、応えないわけにはいかないというのが実際のところだ。


 聖教会との『聖戦オラトリオ・タングラム』に加わっていた国家はもちろんのこと、正確な情報を入手できない小国や独裁国家、自称国家の(たぐい)も、()()()たちからの絶対の指示によって渋々ながら参加している。


 エメリア以外の四大強国であるイステカリオ帝国、アムネスフィア皇国、ポセイニア東沿岸都市連盟はもちろん、この会議で提示された内容に異議を唱えるなどという愚かな真似はしていない。


 四大大国だけではなく、それなりの大国もそれは変わらない。

 現時点で提示されている条件で十分な利益は保証されているし、『聖戦オラトリオ・タングラム』において敵として軍旗を立てた罪を問われないのであれば、まずはそれで御の字なのだ。


 イステカリオ帝国は皇帝不在、しかも明確なソルの敵とみなされているので大人しく俎板の上の鯉であることを弁えている。


 だがソルが望み、それを基にエメリア王国首脳部が組み上げたその平和的な再編――言い方を変えれば甘い処遇は、イステカリオ帝国以外の各国の外交巧者気取りたちを図に乗らせる結果となった。


 安全が保障されているのであれば、それを失わない範囲で最大限の利益を求めるのはある意味において当然とも言える。

 そうでなければ外交官など務まらぬし、彼らが仕える王や皇帝たちとていままで見事に外交を回してきた才人たちの意見を受けて、「ぎりぎりまでエメリア王国から譲歩を引き出す」方向を是としたのだ。


 だが今までは正しかったその判断は、すでに決定的に間違ってしまっている。


 神と呼んでも違和のない絶対的な存在が君臨した今の世界において、それまでの常識などクソの役にも立たなくなっているということを、まだ本当の意味で理解できていないのだ。

 それはソルを味方としてこの世界を取り仕切る立ち位置にある、エメリア王国側であっても本質的に変わらない。


 だからこそ会議は踊り、ソルの望むカタチでの決着をいつまでたっても見ないままなのだ。


 そのまったく進捗しない会議場の大扉が、何の前触れもなく大きく開かれる。


 澱んだ大会議室の空気を一新させるとともに入室してきたのは一人の男性。


 クリード・インヴィワース。


 ソルからこの会議の開かぬ埒を開けることを期待された、千年前には魔神とまで呼ばれた魔族である。


 その右目は常に閉じられていて、開いているのは左目片眼だけ。

 頭には魔族であれば必ずあるはずの角はなく、背にも翼もなければ尻尾もない。


 丁寧に撫でつけられた灰銀の髪や呪印一つ刻まれていないすべらかな肌、身に付けている上品な司祭平服(キャソック)も相まって、一見しただけでは美形の神父さんだとしか思えない容貌をしている。


 ただ一つだけ魔族の特徴を示しているのは、左目片眼だけの朱殷の瞳のみである。


 現代を生きる定命の者たちに、クリードの正体を知る者など誰もいはしない。

 朱殷の瞳が魔族を表すことさえ忘れてしまった今を生きる者たちにとって、クリードはただの人間にしか見えていないのだ。


「ああ、お気になさらず。会議を続けてください」


 気楽な口調でそう告げるクリードだが、入室して以降発言をする者はない。

 もちろんどうせ進まない会議を進めようとする者も。


 先触れもなく突然大扉を開けてこの大会議室へ入室する。


 それを王城内の誰も咎めず、大扉へと至る大廊下の左右に控えている兵たちも止めないということは、今にこやかに会議の続行を促したこの男が、ソルの許可を得ていることは誰にでも理解できるからだ。


 迷いなくクリードが歩を進める先を注視し、だれもが固唾をのんで見守っている。


「セプテトリオ帝国のアウル皇太子殿下ですね?」


 そのクリードが遅滞なく末席近くのある席に到着し、供される果実水を退屈そうに飲んでいた派手な格好をした若者に確認を取る。


 独裁国家として悪名高いセプテトリオ帝国の跡取り息子。

 飼い主――ポセイニア東沿岸都市連盟の意向には逆らえず皇太子を出席させてはいるが、さすがに皇帝本人は出てきていない。


「そ、そうだが貴様はぎゃああああああああ」


 クリードの問いを怪訝な表情ながらも肯定した瞬間、その四肢が圧し折られて椅子から転げ落ち、血涙と涎を巻き散らしながらのたうちまわっている。


 クリードの左目が強い赤光を発すると同時、その水揚げされた魚の様に跳ねまわっていた皇太子の肥え太った身体はとぷんとクリードの陰に沈んで消えた。


 戦慄して固まる大会議場に、次の場所へ静かに向かうクリードの足音だけが響く。


 そして同じような確認を逃げようとして腰が抜けた独裁国家や自称国家の代表たちへ繰り返し、そのすべてを己が影の中に呑んでゆく。


 左眼しか魔導器官(オルガナ)が残されていないクリードとはいえ、外在魔力(アウター)が再び世界に満ちたこの状況下では、人など蟻を踏み潰すが如く如何様にでも扱える。


 魔族とは本来、それほどまでに隔絶した人の上位存在なのだ。


「さて、ソル様に任じられた最初の仕事はこれで終わりました。おや? 会議が止まったままですね」


 最後の一人が陰に沈んだタイミングで、にこやかな表情を浮かべて会議室全体へと話しかけるクリード。

 

 もうそんなに残された時間は無いのだから、今のうちに存分に会議を進めればいいのに、というのはクリードの本音でもある。


「エゼルウェルド王陛下、フランツ王太子殿下、しばしお時間をいただいても?」


 だが誰一人として声を発さない状況が続く中、肩をすくめてクリードは主催者であるエメリア王と、議長であるフランツに確認を取る。


「……ソル様の期待を裏切ってしまい、申し訳ない」


 クリードの言動がソルの指示によるものだと理解できているエゼルウェルドの顔色はよろしくない。

 それはフランツもまるで同じだ。


 たかが『世界会議』一つもろくに御せない自分たちに愛想を尽かし、代りとなる苛烈な人材――本来人よりはるかに上位種である魔族を送り込んできたのだと判断してのことだ。


 大国の代表者たちの中には同じ判断を下し、内心ほくそ笑んでいる者もいる。

 ソルの絶対は揺るがないとはいえ、エメリア王国が筆頭の位置から陥落するのは望むところだからだ。


「いえ、ソル様はエメリア王国の尽力に感謝しておられます。ただこの会議にエゼルウェルド王陛下、フランツ王太子殿下、マクシミリア殿下がかかりきりになっているだけではなく、その上スティーヴ冒険者ギルド総長閣下やイシュリー教皇猊下、フレデリカ王女殿下の出席まで求められているとお聞きになられ、私を派遣されたのです」


 だが慌てたようにクリードは笑顔を浮かべ、エゼルウェルドとフランツの誤解、あるいは深読みを否定する。

 そしてその態度からあくまでも自分は『御前会議』のメンバーである二人よりも格下であり、エメリア王国の立ち位置が一切揺らいでいないことを明確にする。


 そして問題視されているのは会議を御せないエメリア王国ではなく、会議を無駄に躍らせている愚か者どもなのだということも同時に明言した。


「私はクリード・インヴィワースと申します。お気づきの方も多いでしょうが、魔族です」


 完璧な作法で優雅に一礼してのクリードの言葉に、大会議室の空気は凍り付く。


 厄介な野犬を追い払ったつもりで、虎狼を招き込んだようなものだからだ。

 『世界会議』を仕切るのが魔族となるくらいであれば、まだ話が通じ同じ人間であるエメリアの王族たちの方が万倍も()()なのだ。


 大国であれば聖教会が飼っていたことを公然の秘密として承知しているが、小国の者たちは魔族が現存していたことに驚いている者さえいる。


「御心配には及びません。聖教会に密かに飼われていた我ら魔族は全員、ソル様の従僕として仕える御赦しをいただいております。ソル様の許可なく力を行使することの一切を禁じられており、それを破ったものは全竜殿に喰らわれることになっておりますので」


「つまり今の所業は、ソル様……の御命令だと?」


 一点の曇りもない晴れやかな笑顔でそう告げるクリードにあえて確認したのは、独裁国家や自称国家の多くを軍事的、経済的に支援し、自分たちに都合のいいように操っていたポセイニア東沿岸都市連盟の外交官主席である。


「当然です。今私が始末――おっと。退場願った方々はいわゆる独裁国家の代表者の方々です。すでに本国の軍と皇族や王族、貴族たちはすべて制圧済みで、民衆に被害が及ぶことはないのでご安心ください。当面はエメリア王国が飛び地として管理致します」


 それに対してにこやかに答えるクリードの内容は、今始末された連中の飼い主たちの心胆を寒からしめるのは充分なものだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 〉 イステカリオ帝国は皇帝不在、鹿も明確なソルの敵とみなされているので 帝国の巻き添えで敵認定されてる、鹿が可哀想wwwww
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