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【書籍版6巻出版決定!】怪物たちを統べるモノ ~能力『プレイヤー』使いは最強パーティーで無双する!~【コミカライズ2巻発売中!】  作者: Sin Guilty
第一章 『封印されし邪竜』編

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第012話 『冒険者ギルド』③

「ソル君、さっき聞いた話なんだけど、ホントなの?」


 スティーヴの執務室から出てきたソルに、最初に声をかけたのは美しい女性だった。


 フィオナ・バニスター。


 冒険者ギルドガルレージュ支部において一番人気の美人受付嬢。

 『黒虎』の担当受付嬢でもある。


 終業時間はとっくに過ぎており、ギルドの女性職員用の制服から私服に着替えを終えている。

 肌の露出も躰のラインを強調している部分も、下品にならない程度に絶妙にエロい服を選んでいるあたり、自分の見せ方というものを熟知している(つわもの)だ。


 美しい金髪に優し気な碧の瞳。

 適度に肉付きが良くバランスの取れた肢体は、男であれば誰でも反応せずにはいられない空気を周囲に振り撒いている。


 『癒しの聖女』ジュリアも美しさだけではなく過剰な色気でも知られているが、年齢とそれに応じて積み重ねられた実戦経験の圧倒的な差で、フィオナの妖艶さにはまだ及ばない。

 映像情報だけで比べれば五分以上にも持っていけるだろうが、ナマモノ対決、しかも「今夜一緒に呑む」程度であればまず男どもの支持では勝てないだろう。


 美しさだけではない毒すら含んだ生の匂いこそが、夜の魅力においては最も有効なのである。


 ただし子供にはあまり効果がない。

 エロセンサーの天井が低すぎるため、そこを突破してしまえばみんな一律で「綺麗でエロいお姉さん」になってしまうからだ。


 ゆえに本人が聞けば憮然とした表情を浮かべはするだろうが、ソルにもあまり効果がない。


「ええ。マークとアランがどうするかはまだはっきりとわかりませんが、俺とリィン、ジュリアが抜けることは間違いないです」


 『黒虎』解散の事実を口外することについては、先刻スティーヴとも話がついているのでよどみなく答える。

 ソルにしてみても、フィオナに答える形でどうせ絡まれて訊かれる内容に答えられるというのはいくらかマシなのだ。


「ソル君はともかく、『鉄壁』と『癒しの聖女』が抜けるのなら事実上解散だね」


「……マークもアランも王都に行くつもりみたいですよ。残念でしたねフィオナさん」


 にこやかにディスられてもソルの表情はとくに変わらない。

 口元が多少引き攣る程度だ。


 だがこの会話が聞こえている冒険者たちから馬鹿にしたような嗤いが漏れるのを聞いては、流石に少々腹立たしい。

 ソル自身としては美人で有能であることは認めても「そこまで夢中になる?」と正直思ってしまうフィオナだが、今嗤った高位冒険者の連中がフィオナに入れあげていることは多くの者が知っている。


 その上でまったく相手にされてないことをソルでも知っていたので、今現在フィオナが「相手にしている」二人の名前を口にしたのだ。

 フィオナに対する、ささやかな反撃でもある。


 フィオナはマークもアランも同時に相手をしているのだ。

 ソルなどにはどうやって破綻させないように立ち回っているものなのか想像もしたくないが、定期的にマークとアランの家にフィオナが朝までいることはだけは間違いない。


 『プレイヤー』のおかげで、要らん情報も得てしまうことがままあるソルである。


「どっちにしてもA級の冒険者サマが、ただの受付嬢をいつまでも相手してくれるとは思ってないわよ」


「いやそこじゃなくてですね」


 わりと爆弾発言をかましたつもりのソルだったが、当のフィオナは一瞬大きな目をぱちくりさせて驚きはしたものの、さして気にもとめていないようだ。


 ソルにしてみれば「残念でしたね」はオマケのようなもので、二人を手玉に取っている? 事を俺は知っているぞ、の部分が本命だったのだが。


 あっさりマークとアラン双方を相手にしていたことを認めた上で、マークやアランではなく、自分の方が「遊び」の相手であることをあっけらかんと認めてしまった。


 爆弾を投げ込んだつもりだったソルの方が言葉に詰まらされるようでは、勝負にすらなっていない。


「これからはソル君が相手してくれるっていうなら嬉しいな。別に遊びでもいいよ?」


「……リィンの前ではそういう話、しないでくださいね」


 その上、魅力的なウィンク付きで微笑まれてしまっては返す言葉も懇願の類になってしまう。

 数秒前にディスった相手にこれができるのだ、百戦錬磨の美女を相手取るにはソルはまだまだおこちゃまだと言われても返す言葉もないだろう。


「正直ソル君のこと、ただ幼馴染ってだけで強者側の利益を搾取している運がいいだけの子って馬鹿にしてたのよね私。やっぱり男を見る目がないのね」


 へこんだソルに邪気のない笑いをこぼしながら、そう告げるフィオナ。


 解散が確実視される今回の情報だけで、たった2年でA級にまで駆け上がった『黒虎』の中核をなしていたのが誰なのかを理解したということだ。

 今日までそれを見抜けなかった自分の愚かさを認めるていることで、上っ面の言葉による謝罪などよりはよほどマシかな、と少なくともソルには思えた。


 ――マークやアランから、俺の戦場での様子を聞いていたんだろうしなあ……


 それは多少の誇張はあったにしても嘘ではないのだ。

 リィンやジュリアであればまだしも、マークやアランから見た戦闘時のソルは手を出しても通じないくせに偉そうに口だけ出してくる輩にしか見えなかっただろう。


「……次に活かしてください」


 失敗は次に活かせばよい。


 迷宮や魔物支配領域での失敗は次の機会を失うことも含まれるが、色恋沙汰においてはいくらでも次がある。

 そもそもフィオナはまだまだ若く、マークやアランが執着していないと決まったわけでもないのだから。


「だからソル君がその次になってよ」


「謹んでお断りします」


「ざーんねん」


 今度は茶化したりせず、真面目な顔でそう告げるフィオナだが即答で袖にするソルである。

 今までの創り上げられたキャラではない、素のフィオナの方が魅力的だというのは否定しないが、さすがに「じゃあよろしくお願いします」という気になどなるはずもない。


 ロス村出身の3人は、幼馴染であり兄弟でもあるとか冗談じゃない。

 

 だがそのやり取りを聞いていた冒険者たちの何人かが、ソルに絡む気満々で自分の席から立ち上がる。

 酒も入っていることも手伝って、フィオナの前でいい格好を見せようという下心が透けて見えている。

 ソルにしてみれば逆効果としか思えないのだが、何度か似たようなパターンでからまれた経験があるということは、少なくとも当人たちは効果があると信じているのだろう。


 ――そんなので惚れてくる女の子なんてやだけどなあ……


「おーう、ここにいる連中だけでもいいから聞いとけ」


 だが立ち上がった冒険者数人も、それを見てはやし立てていた連中も、執務室から出てきたスティーヴの声にみなその動きを止める。


「今お前さんらが酒の肴にしているとおり、A級昇格を決めた当日に『黒虎』は事実上解散が決まった。それを受けてどういう行動を取ろうがお前さんらの勝手だが、これだけは言っておく」


 冒険者ギルドに所属している以上、その総責任者の言葉を無視できる者などめったにはいない。

 しかも今回は一番聞きたい情報を提供してくれそうとあっては、騒いで邪魔をした者は仲間内からも疎まれることになるのは間違いない。

 だからこそ一瞬で静まり返った冒険者ギルドの広い一階全体に、スティーヴの声がそう大きくもなくても言葉は届く。


 A級パーティーの解散という事実を受けて、上位の冒険者たちはそれぞれの思惑を巡らせ始めている。

 だがその事実を伝えただけでは終わらない総責任者の声に、今はまだ静かに耳を傾けている状況だ。


「理由なくそこのソルにどんなカタチであれ害を与えたと判断した場合、冒険者ギルドはその加害者を敵性存在だと認定する。それはここガルレージュ支部だけじゃねえ、本部も含めた冒険者ギルド全支部がだ。すぐに正式な告知も出すが、そうなりたくない奴は自分の仲間たちにも徹底して伝えてくれ。例外はない」


 だが続いた言葉は、この場にいる冒険者の誰も予想しえなかったものだった。


 そもそも『敵性存在』認定というのが穏やかではない。

 それは魔物と同じ扱いであり、つまりは冒険者ギルドという組織にとっての討伐対象と看做すぞ。という宣言だからだ。

 依頼ではなく任務として、冒険者たちに『討伐』の指示が出されるということだ。


 その言葉の意味するところは、事実上冒険者ギルドという巨大組織が『ソル・ロック』という一冒険者を全冒険者の中で最優先するという宣言だ。

 そしてその言葉を発したのがこの支部の総責任者であり、首脳部の一人であるスティーヴである以上、それは戯言で済ませられるものではない。


 フィオナが小声で「ホントに見る目なかったなあ、私」などとつぶやいているとおり、高位冒険者ほどこの言葉の重みを理解している。


 今後ソルを敵に回した者は、例外なく冒険者ではいられなくなる。

 そしてその判断はソル本人ではなく、冒険者ギルドが直々に行うのだ。

 つまりそんなことをこの短時間で決定できるほど、冒険者ギルドにとってソルが特別な存在だということくらい、よほどのバカでなければ理解できる。

 

 冒険者ギルドは人間の社会貢献のために生まれた組織であり、それを最優先としている。

 そしてその意義を遂行する組織であり続けるために、利潤追求の姿勢も徹底している。


 その組織がここまで言い切るソルという存在は、全冒険者の中で最も人間社会に貢献できるだけの力を持ち、また利益を生むことも出来ると看做されているということになるのだ。


 ソルが少々の煩わしさと引き換えにしてでも期待したのは、スティーヴがこの発言をしてくれることだった。

 直接的な戦闘能力に秀でていないソルとしては、人にとっての安全圏の中で実力行使をしてくる潜在的な敵の妄動を抑えることが喫緊の課題だったのだ。


 ――想定していたよりも、かなり大事になってしまったことは否定できないが。


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