第107話 『固有№武装』①
「ようソル様。偉そうなこと言っといて、ずいぶん待たせちまって申し訳ねえ」
稀代の魔導鍛錬師、後世に「召喚魔導兵装の祖」と謳われるガウェイン・バッカスが、ソルに対して詫びの言葉を伝えている。
その頬はこけ、身体も随分痩せ細っている。
ここしばらくの無理が祟っていることは間違いないが、そのわりには顔色はとてもよく、肌もつやっつやしている。
やつれたというよりは、若返ったというった方がよほどしっくりくる精悍な空気をその老齢に似合わぬ域で身に纏っているのだ。
「いや今までに無いものをつくってくれているんですから、それは気にしないでください」
ソルが本気でそう答えるとおり、ガウェインは禁忌領域№09の領域主であった九頭龍が狩られたあの日からずっと、まともに休んでいない。
自分で加工できることを大喜びした『大妖バジリスク』どころではない『九頭龍』を、約束通り自由にしてよいとソルから提供されたのだ。
職人としては余計なことやってる場合じゃねえ、となるのは止むを得ないことだろう。
それだけでもガウェインの体がもつ限りフル稼働するに十分な理由であるにも拘らず、あろうことかソルはあっという間に九つの禁忌領域の領域主すべてを張り倒し、ガウェインの工房へ片っ端から送りつけてきたのだ。
かててくわえて、『聖戦』――『エメリア王国侵略戦争』の終結後は、聖教会が秘匿機関として保持していた逸失技術の専門家たちと外在魔力、内在魔力の扱いに長けた魔族が派遣され、あまりの希少魔物素材を前にさすがに停滞していたガウェインの「創作」を、月まで蹴り上げるような勢いで加速させることになった。
もはやガウェインの工房は「魔剣」を鍛えるとかそういう域を遥かに超越し、その知識自体が時代錯誤遺物である逸失技術と魔導技術を以て、高度に機械化された兵器工廠の域に至っている。
「つっても儂が創るのはどこまで行っても武器だからよ。必要な時に間に合わねえんじゃなんの意味もねえ。そういう意味じゃ全員分を揃えられなかったのはホントに申し訳ねえ」
「それでも2人分も仕上げてくれたんですから充分ですよ。それより体は大丈夫なんですか?」
「それこそソル様のおかげでそこは儂自身もびっくりしてらぁ。こんな時代になったからには早死には出来ねえし、調子に乗らずにそこはきちんとしてるから心配いらねぇ」
「それならいいですけど」
もちろん強制されているわけではなく、必要最低限の喰うことと寝ること以外をすべて新たな武器――『固有№武装』の製作にガウェインはつぎ込んでいる。
酔っ払っている場合でもないので酒すら飲んでおらず、ガウェインの人生で苦しまずに酒をこれだけの期間抜いたのは飲み始めてから初めてのことである。
それで身体を壊すどころか、若返ってさえ見えるほどに元気なのはもちろん、ソルの『プレイヤー』による強制強化と各種ステータス、なによりもM.Pの増加によるところが大きい。
魔導鍛錬師として魔物素材を自身の思ったとおりに加工可能なガウェインのスキルは、その素材の希少性に応じて必要とする消費M.Pが膨大な量に跳ね上がる。
それとてとんでもない強化を経ることと、そこへ加えてソルによってバカみたいな数値を増加されたM.P総量によって、領域主たちの素材でも自在に加工可能となっている。
そのガウェインに、『聖教会』が保持していた逸失技術兵器の現物たちとその知識、また外在と内在を自在に使い分ける魔導技術とその知識が与えられたらどうなるか。
知らなかったがゆえに発想も出来なかった超兵器が、既知として創作者の発想を飛躍させるのだ。
現在ガウェインの工房で進められている新兵器――通称『固有№武装』は以下のとおり。
固有№武装Ⅰ:モデル【魔犬】:仕様及び使用者未定。
固有№武装Ⅱ:モデル【魔狼】:仕様及び使用者未定。
固有№武装Ⅲ:モデル【魔栗鼠】:仕様及び使用者未定。
固有№武装Ⅳ:モデル【有翼獅子】:仕様及び使用者未定。
固有№武装Ⅴ:モデル【百腕巨人】:フレデリカ専用。
固有№武装Ⅵ:モデル【単眼巨人】:マクシミリア専用。
固有№武装Ⅶ:モデル【深淵蜘蛛】:エリザ専用。
固有№武装Ⅷ:モデル【不死鳥】:ジュリア専用。
固有№武装Ⅸ:モデル【九頭竜】:リィン専用。
それぞれの領域主が保有していた特殊能力を活かすべく、当然それに最適化されているその領域主の魔物素材と核魔石を使用して、急ピッチで製作が進められている。
今ソルがこのガウェインの工房へ伴って来ているのは、神獣アヴリールの真躰が安置されている迷宮を攻略する際のパーティーメンバーである。
ソルと全竜、妖精王は当然のこととして、そこへリィン、ジュリア、フレデリカ、エリザという、まあ最近は定番化している1stパーティー――冒険者たちから通称『ハーレム・パーティー』と呼ばれている面子。
その中で完成したふたつはリィンとフレデリカの『固有№武装』である。
リィンの盾役としての特性を活かすべく創られた九頭龍系装備と、フレデリカの拳闘士としての特性を活かすべく創られた百碗巨人系装備。
現在地上で確認されている中でも最強級である『禁忌領域』の領域主たちの素材を惜しむことなく使用したその武装は、軍人や冒険者たちが今まで常識として認識していた『武器』とは、明らかにその種を異にしている。
それは自分たち専用の『固有№武装』が完成したと聞かされ、その起動実験を行うと言われ、頭に? を浮かべながら着替えに入ったリィンとフレデリカの出で立ちが証明している。
「あ、あのう……」
「こ、これが私たちの専用装備、なのですか?」
装着が終わって、ソルたちの前に出てきたリィンとフレデリカは、二人ともその頬を真っ赤に染めている。
それも当然、二人は躰の線がそのまま出ている薄着――というよりも裸体に漆黒の塗料を塗りたくっただけのような格好なのだ。
顔だけを残して首から下のすべてが艶やかな漆黒に覆われているとはいえ、これは色が違うだけでほぼ全裸と言っても過言ではない。
輪郭で言うならば全裸でしかない。
両手で隠せる限りは隠してはいるものの、その仕草がより煽情的になってしまうことは仕方がないだろう。
リィンにしてもフレデリカにしても、ソルに言われてのことで無ければ、皆の前に今の自分の姿を晒すのは絶対に拒絶したはずである。




