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牢屋からの脱出

何故いきなりこんなことになってるんだ?!


地下の冷たい石の牢屋に閉じ込められ、おまけに兵士のような怖そうなゴリマッチョに「聖女様をどこにやった?!!!」と詰め寄られるが、俺は返答できなかった。


「その聖女とかいうのは多分、俺のことです!」


とか言って誰が信じるだろうか。

そもそも俺自身が信じていない。

昨日、自分が女だと思って過ごしていたのは全部夢だったんじゃないかと思っている。

そんな漫画かアニメみたいなこと自分の身に起こってたまるか。

そうは思うが……俺は今何故か女物のスケスケネグリジェ姿で石の牢屋に捕まっている。

なんつーマヌケな姿。


「このまま黙っているつもりか!白状しろ!魔族の男!」


何も言えない俺に対してゴリマッチョはさらに俺に詰め寄る。

そうは言われても誤解だし、大体マゾクってなんだよ。みんなして俺をマゾクとか言いやがって。どう見たって俺は正真正銘・純日本人だろ!


「いやいや!誤解ですって。第一、俺マゾクとかじゃないですし!聖女様って言われても」



牢屋の格子に前のめり気味で無実を訴え続けるがゴリマッチョの睨みは止まらない。

そんなやり取りを何往復も続けていた時、一人の女の子が現れた。


「私はこの者と話がしたいのです」


宝石があしらわれた美しい青いドレスに身を纏った少女。

たぶんハタチの俺よりは年下に見えた。

茶色の髪はきっちりとまとめられ、腰ほどまである一本のポニーテールで結わえていた。

服装や雰囲気からして、いい所のお嬢さんなのだろうと直感的に思った。

もしかして、この子なら俺を助けてくれるかも!!

俺は身を乗り出さんばかりにそのお嬢様に懇願した。


「助けてください!誤解なんです!俺マゾクでもないし聖女とかをさらったわけでもないし、こんなことになっていて……!!」


本当に!

本当にお願いします!助けてください!!

俺、このままじゃよくわからない世界でドーテイのままネグリジェ姿で死ぬことになりそうなんです!!!

俺はとにかく必死にお願いした。

もうこの状況を助けてくれる人なら誰だっていい!

すると目の前のお嬢様は少し笑って言った。


「助けてあげてもいいわよ」

「本当ですか?!」


え?!嘘!本当?

まじで?!よっしゃあああああ!!



「ええ。その代わり条件があるわ。その異世界からきた女を二度とこの国へ足を踏みいらせないで。……そうね、最悪殺してもいいわ。とにかく私には目障りなの」



そう言ってそのお嬢様は飛び切り素敵な笑顔で俺に笑ってみせた。

うわっ!

このお嬢様、可愛いけど怖っ!!!

俺がそのお嬢様に抱いた第一印象だった。


「あなた少なからずその女の居所知っているのよね?」


恐らくお嬢様の言ってる異世界からきた女って……、昨日の俺のことだよな?

え?俺ってそんな初対面の人から嫌われる感じなの?

てか、最悪殺せって笑って言ってるけど……大丈夫か……?俺。


少しの時間考えたが、答えは明白だった。


「わっかりましたぁ!!お任せください!」


俺は従順な犬のように、勢いよく返事をした。

とにかく今はこの状況を打破しなければ、とうしようもない!

つまりは俺がこの城に近くに寄り付かなければきっと万事解決するだろうし、今はここから逃がしてもらわなければ!



「そう。じゃあ話は早いわ。善は急げね。そういうわけで、はい。あなたもこれつけて」


そう言ってお嬢様は俺に何か渡した。

え?

何これ?ガスマスク?

俺が不思議に思っていると、そのお嬢様すでにナウシカばりのマスクを装着して、ドレスの中から何やら美しい装飾の陶器を取り出した。両側に注ぎ口がある急須のような形。

何だこれ?

「ほら早くして」


そう言ってお嬢様は俺の口に無理矢理ガスマスクを当てた。

え?何?何が起こるの?ここ風の谷?腐海なの?

俺が困惑しているとお嬢様の持つ陶器から何やら怪しい紫色の煙がモクモクとあふれ出していた。


「エカテリーナ様!一体何を……!」


そう言ってお嬢様を止めようとしたゴリマッチョはそのままバッタリと倒れた。


えええええ?!!!死んだ?!!!

俺は急いでガスマスクをしっかりと付け直した。

その間にお嬢様は倒れたゴリマッチョの懐から牢屋のカギを奪い取った。

異変に気付いた他の兵士たちが駆け付けたが、紫の煙を吸い込んだ瞬間に皆次々と卒倒した。

ひえええええええ!!何なんだよ。この紫の煙!!


俺が煙に怖気ずいている内にお嬢様は牢屋のカギをすでに開けていた。


「何をしているの?早くなさい。みんなただ寝ているだけなんだから」


ガスマスクを装着したお嬢様はそう言って俺を手招いた。

言われてみれば、倒れたゴリマッチョ兵士は息をしているようだった。

こんな強力な眠り薬があるなんて……

俺はゴリマッチョたちが横たわるのを、恐る恐る避けて歩きながらお嬢様に連れられ地上をへと繋がる階段を上った。



「城の裏門から逃がしてやるわ。首都の外れまで連れて行ってやるけれど、そのあとは自分でなんとかなさい。」


お嬢様はそう言って、再びドレスの中から何か取り出した。

このお嬢様のドレスどうなってるんだよ?四次元ポケットなの?


俺が不思議そうに見ていると、お嬢様は取り出した小さな笛を軽く吹いた。

するとどこからともなく黒ずくめの男が現れた。


「お嬢様、お呼びでしょうか」

「悪いわね。急ぎこの者を首都から逃がし、アノ森まで」

「アノ森?!でございますか?」

「ええそうよ。誰にも見つからないように。よろしくね」


お嬢様は男に命令してから俺を馬に乗せた。

もちろん俺は一人で馬になんか乗れるわけないので、お嬢様が用意してくれた黒ずくめのお供の人の背中にしがみついた状態だが。

ネグリジェ姿も目立つからと頭まですっぽりと覆えるマントまで用意してくれた。


「あ、あのすみません。助けていただいて本当にありがとうございました」


俺は馬にまたがった状態でお嬢様に言った。



「別にいいのよ、私は。約束さえ守って頂ければ」

「あの!お嬢様!名前!名前教えてください!俺は高梨蓮です!」

「レン?私はエカテリーナ・クランベル」

「エカテリーナ様!本当にありがとうございました!」

「レン。そうだわ。これを持っていって」



エカテリーナ様はそう言って俺に何か粒のような玉のような物が入った小袋を渡した。

何だこれ?


「それは私の最新作ですの。もし魔獣に遭遇するようなことがあれば試してみてくださいね」


彼女がそう言って笑った瞬間。俺を乗せた馬は勢いよく走りだした。

俺は振り落とされないように、しがみつくので必死だった。

とりあえず、牢屋での囚人生活は免れた……

でもこの先、俺は一体どこへ行ったらいいのだろう……


俺がそんなことを考えながら、見知らぬ男にしがみついている時。

エカテリーナは馬が見えなくなるまで、ずっとその方角を見つめていた。


「レン……もし私との約束を違えたらその時は死んでもらいますからね。まぁアノ森で生き残ることができたらの話ですけれど」


エカテリーナ様がそんなことを口にしていたとは俺は露ほどにも思っていなかった。


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