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王太子と婚約者

「まさか本当に成功するとは……」


アルベール王国の王太子ダグラスは執務室で昨日起きた出来事を反芻していた。

まさか本当にあのヨボヨボ老人の神官たちが伝説とも言える聖女を異世界から召喚できるなどとは露ほども思えなかったのだ。

しかしアルベール王国はそんな老人神官の行いにもすがりたいほどひっ迫していた。

夜になると凶悪な魔獣が村や町を襲うようになっていたのだ。

本来であれば王室騎士隊がその討伐にあたっていたが、最近では魔獣の凶暴化が凄まじく騎士隊だけでは対処できなくなっていた。


伝説の聖女様がいてくれたら、魔獣たちを浄化してくれるのに……


誰かがそんなことを口にし、それが多くの国民の心に植え付けられた。

それは王室の中でも変わらない。

誰かが神官を唆し、異世界から聖女を召喚させた。

まさかそれが本当に成功するなんて思っていなかった。


しかし実際に現れた聖女は見たこともないほどの美しい女性。

麗しい金の髪に白い肌。

その大きな青い瞳は宝石のようで見つめられると心臓が高鳴った。


「聖女……必ず俺と結婚させてやる」


ダグラスがそう言った瞬間、執務室のドアが突然ガバッと開いた。


「そうはいきませんわよ!!」


そう言って現れたのは宰相の娘で王太子ダグラスの婚約者、エカテリーナだった。

エカテリーナはずんずんとダグラスに詰め寄る。


「私という者がありながら、聖女を召喚するなんて!ダグラス様は一体どういうつもりですの?!この国の聖女は私だといつも申しているではありませんか!!」


エカテリーナは執務室にある机をバンと叩き、息巻いている。

ダグラスが呆れたようにため息をついた。


「エカテリーナ……君は聖女と言っても人間ではないか。神力も使えなければ、魔獣だって浄化できない。そんな君が聖女とは名乗ることはできないと思うが」


「確かに私には魔獣を浄化するはできません。しかし!今の私の研究が成功すれば、魔獣の浄化も夢ではありません!!そして私は真の聖女としてこの名を後世に残すことができるのです!!素晴らしいとは思いませんこと?!」


エカテリーナは完全に自分の世界に陶酔しきっていた。


エカテリーナは貴族の娘であったが、薬草や動物の生態系について深い関心があった。

それはもう異常なほどに。

彼女は幼いころから本を読むことが好きで、特に薬草についての本を読み漁り、おかしな研究をしていた。

そのうちの貴族間ではひそかに《マッドサイエンティスト》のあだ名がつくまでになっていたが、宰相の娘なので公にはしていなかったが。


「今の私の研究が成功すれば、凶悪な魔獣を倒すことだっていとも簡単にできますとも!どこのだれとも知れない女を呼び寄せずとも!」


「しかしエカテリーナ、君の研究がいつ成功するかはわからないでは……」


ダグラスが言いかけたところで、また勢いよく執務室のドアが開いた。

今日はやけに来客が多い。

しかし現れたのは来客ではなく近衛兵の一人だった。

近衛兵は慌てふためいて来たため息切れをしていた。


「…っ!でっ、でっ、殿下にご報告致します!聖女様が何者かに連れ去られました!!」


「……っ!!!なんだと!!」


ダグラスは目を丸くした。

昨日現れたあの美しい聖女が何者かに連れ去られた?!

警備の万全なこの王城で?!

そんなことがあり得るものか!


「それで犯人の目星はついているのか!」


「はっ!聖女様の部屋にいた怪しげな黒髪の魔族の男を捕らえました!」


「魔族の男だと?一体どうやって我が城に侵入したというのだ……それで聖女様の行方は?」


「それが未だわからず。城内ならに城下も隅々に捜索中です!」


「すぐに探し出せ!魔族の男にはきつく取り調べを行え!」


「仰せのままに!」


そう言って近衛兵は素早く執務室から姿を消した。

言われてみれば、さきほどから城内があわただしい。

てっきり聖女を迎える準備かと思えば、その聖女が何者かに連れ去られてしまったという。

エカテリーナは訝しげに考えていた。


……この警備が万全な王城で誰にも見つからずに魔族の男が聖女を連れ去るなんてことできるのかしら。


そんなエカテリーナをよそ目にダグラスはいてもたってもいられないようだった。


「すぐに聖女様を助けにいかねば……。エカテリーナ、話はまた今度だ。私も城下を探索しに行ってくる!」


そう言ってダグラスは執務室を飛び出していった。

執務室に一人取り残されたエカテリーナは静かに考えていた。


目障りな聖女を誘拐してくれた、その魔族の男に感謝だわ。

それにどうやってこの城に侵入したのか実に興味深いわね。

聖女のことは死のうが生きようがどうだっていいけど……

捕まった魔族が気になるわね。


エカテリーナはゆっくりと執務室から退出し、王城の地下牢に向かった。


王城の地下牢は城の北側で日の当たらない場所にあった。

カビ臭く昼までの全く日の当たらない、石の壁は触れると夏でも鳥肌が立つほどに冷え切っていた。


数名の近衛兵の監視のもと、捕らえられたという魔族の男は牢屋の中でぐったりとうな垂れていた。何故か女物のネグリジェ姿で。


「エカテリーナ様!このようなところにお1人でどうされたのです!」


牢を守る近衛兵の一人が言った。


「いいから下がって。私はこの者と話がしたいのです」


エカテリーナはゆっくりと石牢に近づいた。

そして目の前にいるネグリジェ姿の男に声をかけた。


「あなた一体何者なの?」


エカテリーナのその声に、牢屋の中の男は顔を上げた。

よく見れば男だが、可愛らしい顔をしている幼い少女にも見えた。

しかし胸のふくらみがないことなどをみれば、やはり男なのだろう。

少年はすがるような瞳でエカテリーナを見つめ、懇願するように言った。


「助けてください!誤解なんです!俺魔族でもないし聖女とかをさらったわけでもないし、こんなことになってて……」


「……あなた魔族ではないの?」


「俺は人間です!お願いです!助けてください」


そう言って助けを懇願する男は本当にただの人間に見えた。

ネグリジェ姿はただの変態にしか見えないが。

とりあえず、何はどうあれ私にとって邪魔な聖女を排除してくれた存在には違いない。

ダグラスは聖女と結婚する気でいるようだがそうはさせない。

ダグラスの婚約者は自分であり、この国の聖女として民衆の支持を受けるのは自分なのだから。


「……助けてあげてもいいわよ」


エカテリーナは牢屋の中のネグリジェの男に笑顔で答えた。


「本当ですか?!」


「ええ。その代わり、異世界からきた女を二度とこの国へ足を踏みいらせないで。……そうね、最悪殺してもいいわ。とにかく私には目障りなの」


エカテリーナの笑顔はとても可愛らしくそして見るものを氷つかせた。


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