聖女として異世界へ
「これは成功だな」
「まさしくこれは成功だ」
「流石だ!これは成功だ」
ゆっくり目を覚ますと、白装束のサンタクロース髭集団の老人が俺を取り囲んでいた。
俺は驚き、勢いよく飛び起きた。
あれ……苦しくない。生きてる?
体中ずぶ濡れだが間違いなく生きているようだ。
それにしてもこの老人集団は一体何なんだ?
どう見ても日本の老人ではなく、色素の薄い外国の老人……
でも日本語でしゃべってるし……
白装束だがよく見ればお腹のあたりに赤十字みたいなマークがついてる。
もしかして病院の人?お医者さん?
「あの……助けていただいてありがとうございました。」
お辞儀をしたときに、何故か濡れた長い髪が顔の横に滴り落ちた。
あれ?誰の髪の毛?このブロンドの髪。
その髪に触れて引っ張ると痛いのは自分の頭皮だった。
え?このブロンドは俺の髪?
「そんな滅相もない聖女様!助けていただきたいのはこちらの方です!」
「そうです!そうです!聖女様!」
「助けてください!聖女様!」
異国の老人集団は口々に俺に向かって言う。
何言ってるんてるんだ?この爺さんたち。
「あの助けるって一体……それに俺、女じゃなくて男なんですけど……」
聖女、聖女って。
女顔ではあるけど生まれてこの方実際に女に間違われたことはない。
この爺さんたち大丈夫か?
恐る恐る俺は爺さんたちの顔を見る。
赤い服を着て袋担いでいればサンタクロースの集団にしかみえないけれど。
「そんなバカな!こんな見目麗しい男などこの世に存在致しません!あなた様はまさしく我が国が乞い願った真の聖女様そのものです――!」
見目麗しい?
「誰か!早く!聖女様のお体が水浸しだ!早く拭くものと湯の用意を!」
爺さんたちが誰かに向かってそう叫んだ。
そして俺はずぶ濡れの自分の体を見た。
手はいつも通り自分のものに見える。
しかし髪は腰まではある長いブロンド。
そして胸には今まで存在しえなかったもの。
そう。OPPAI。
俺の胸に二つの頂。
そして漢の象徴が全くもって姿を消していた。
「これ、まじかよ……」
女の体になってる……。そんな漫画みたいな話あるのかよ……。
それに一体ここはどこなんだ。
見れば天井は遥かに高く、どこか外国の大聖堂のようなステンドグラス。
外は既に暗いのか、周囲は何本ものロウソクの明かりだけ。
まるで呪いの儀式でも行われるかのような空間。
俺がこの状況に困惑していると、奥の扉から突然一人の男が入ってきた。
「まさか本当に成功するとは……!」
その男は真っすぐに俺の前に駆け寄ってきた。
男の風貌はいうなれば、ザ・王子様。そうおとぎ話に出てきそうな優しそうな爽やかイケメン。しかも背が高い。
大学だったら女子が常にキャッキャッ言ってるような奴。
くっそー!完全に俺の敵!
キッ!とその王子様野郎に睨みつけるが、王子はにっこりと笑みを浮かべ俺の前に跪いた。
「なんと美しい聖女様。お目にかかれて光栄です」
王子はそう言って俺の手を取り、手の甲にキスをした。
おおおおおおおおおおおおおおおおい!!!
全身に鳥肌が走る。
何勝手に人の手のチューしてくれてんだよ?!
イケメンなら何したっていいのかよ?!
俺は素早く自分の手を引っ込める。
「これは失礼をしました。聖女様は震えていらっしゃる。誰か!急いで湯の支度を!聖女様、今日はもう夜も遅い。我々の話はまた明日にしましょう。本日はしっかりと温まりゆっくりとお休みください」
震えてるんじゃなくて、アンタのチューに鳥肌立っただけだわ!
そう思ったが、今は何も言わない方が良さそうだ。
俺はメイドらしき女の人に案内され別の建物へと移動した。
てゆーか、ここどこよ?
俺、大学のキャンパスにいたんじゃなかったっけ?
大聖堂のような建物をでてしばらく歩くとそこには、中世ヨーロッパ風のお城がそびえていた。
周りの景色や雰囲気は明らかに今まで俺がいた日本じゃない。
それだけは一目でわかった。
「あの……すみません。ここって一体どこなんですか?」
俺は案内してくれている可愛いメイドさんに恐る恐る聞いた。
このそばかす顔の可愛いメイドさんだって明らかに日本人ではない。
でも何故か日本語が通じる。
「そんな滅相もありません!聖女様!私に敬語など使わず、どうぞベラとお呼びください」
「え、あ、じゃあ。ベラさん。ここってどの辺…ですか」
「ベラで結構ですよ、聖女様。ここは人間の地、アルベール王国です。アルベール王国の首都・エアリアの王城です」
アルベール王国?エアリア?
知らねーーーー!!!
全く持って知らない!
日本じゃないのは薄々気が付いていたけど、もしやここは地球でもなく、全く別の世界なのか?!
なんで大学のキャンパスから全く知らない異世界に移動してるんだよ!
しかも女になってるし!!
俺がぐるぐると考えを巡らせているうちに、気づくと大浴場のようなところまで案内されていた。
「さぁ、聖女様。お召し物を脱ぎますね」
そう言ってベラさんは俺のTシャツとジーンズを脱がしにかかってくる。
「え?!ちょっと、そんな!いきなり……!」
ハタチの今までドーテイを守り抜いている俺にはいきなり刺激が強すぎる!
「恥ずかしがらなくても大丈夫です。聖女様。いつまでも濡れていた服を着ていては風邪をひかれてしまいますよ」
「え?あっちょっ!ああーー!」
そう言って俺は生まれて初めて女の子に服を脱がされ、体を隅々まで洗われた。
思ってのとは違うけど……。
全身エステ最高!ヘッドスパまじ極上!
いつのまにか眠っていて、気がついたらネグリジェまで着せられていた。
「さぁ聖女様、本日はこちらのお部屋でお休みください」
そういって通されたのは、まるでホテルのスイートルームかそれ以上の豪華な部屋。
そして少女漫画であるような天蓋付きのキングサイズベッド。
ベラさんがいなくなったのを確認し俺はベッドにダイブした。
「気持ちいいい~」
硬さもちょうどいいマットレスだ。
俺の安アパートの煎餅布団とはわけが違う。
そして俺はふと起き上がり、部屋にあった鏡台の前に立った。
「!!」
初めてこの世界に来てしっかりと自分の顔を見た。
鏡に映っていたのは、腰まであるブロンドの髪の美少女。
瞳の色は青く、肌は雪のように白く、頬と唇は淡い桃色。
黒髪チビの冴えない大学生の姿などそこにはなかった。
「誰だよ、これ……。美少女すぎだろうが」
俺は自分の顔を何度も触り確認した。
本当にこの美少女は俺なのか?
しかし鏡の中の美少女も全く俺と同じ動きをする。
なんならちょっとマヌケな顔はいつもの俺だ。
「本当に女になっちゃったのかぁ……」
俺はまたキングサイズベッドに横になった。
もう難しいことは考えられない。
何が何だか全然わからない。
ここはどこで、俺はなんで女なんかになったんだ。
しかもこんな美少女に……
目を瞑った。
もういいや。明日。難しいことは明日考えよう。
今はこの状況を楽しもう……
その夜、俺は初めて女の子のOPPAIを揉んで寝た。
自分のだけど。
翌日、目を覚ましたのは起こしに来てくれたベラさんに声だった。
「聖女様、ベラです。入ってもよろしいでしょうか?」
「……あ、はーい。ふわぁ……今起きました」
俺が大きく伸びをすると、お辞儀をして軽食を運んできてくれたベラさんと他のメイドさん2人が部屋に入ってきた。
「聖女様、昨夜はよく眠れました、か……?キャー!!!!」
俺の顔を見ると突然メイドたちが悲鳴を上げた。
「え?ちょっと一体どうしたんです?!」
「どうしたも何も!何故あなたのような者がここにいるのですか!!聖女様をどこにやったのです?!!」
「どこにやったって……俺はここに」
「キャー!!誰か!!早く!近衛兵を!!聖女様の部屋に黒髪の魔族の男が侵入していますー!!誰か!早く男を捕まえてー!!」
黒髪の男?
俺はベッドから飛び起き、鏡台の鏡を覗き込んだ。
そこに映っていたのは昨日のブロンド美少女ではなく、スケスケネグリジェを着たハタチの黒髪チビドーテイだった。
あ、いつもの俺に戻った!よかった!
男に戻ったのはよかったがネグリジェ姿は明らかに変態だし、それにメイドたちが大声で悲鳴をあげ、昨日は優しくしてくれたベラさんまで俺に敵意の眼差しを抜けている。
この状況、かなりまずい感じが……
俺がネグリジェ裸足のまま部屋から逃走しようとした瞬間。
「近衛兵だ!聖女様誘拐の罪でお前を連行する!!」
俺はあっさりとゴリゴリマッチョの兵隊さんに捕まり、豪華なスイートルームとは対照的な冷たい石の牢屋に放り込まれた。ネグリジェ姿のまま。