不屈3 王権行使
ギャグ回です。
広間を出ると、そこに有ったのは長い階段であった。
広間は地下空間にあったようだ。
玉座があったから謁見の間だと思っていたが、もしかたら違うのかも知れない。
階段が長すぎる。幅はちょっとした階段ピラミッド並にあり、一段一段の両側には旗のかけられた石柱があるが、要人を招いたり褒章するには不便で相応しくないように思える。
階段を登り始めるとそれは確信に変わる。
振り向けば、そこには壁のあるパルテノン神殿のような建物が存在した。
俺が召喚された広間だ。
そしてその広間の外には広大な地下空間が存在していた。広間は地下空間の一角に建てられたものでしか無かったのだ。
外観的にも特殊な地理からしてもおそらくここは神殿なのだろう。
階段にはカーペット、石柱には旗と豪華な風にはなっているが、よく見れば全て後付だ。
元々の構造が豪華絢爛な部分は存在しない。
後から飾ってあるだけだ。
五百段近い階段を登ってゆくと、そこには豪華絢爛な金細工や宝石だらけの扉があった。
造りが今までと違う。
開かれた扉の外も扉と似た様式の装飾。
地下がギリシャっぽい造りなら、扉から先は城と言うよりもルネサンスの宮殿と言った雰囲気だ。
どちらも実物を見た事は無いが、ここが地球で地下がギリシャの遺跡だ、上がルネサンス期に建てられた宮殿だと言われても俺なら信じる出来である。
天井には絵画とシャンデリア。
壁にも絵画、そして彫刻。
建物の造り自体が豪華過ぎるが、美術館としても通用しそうな程、美術品に溢れている。
これなら俺の部屋も期待出来そうだ。
しかしここで問題が起きた。
何とか王位継承を乗り越えたとは言え、相当緊張していたようでそれが腹に響いたらしい。
ぎゅるぎゅると唸り始めた。
部屋の前にトイレだ。
だが、臣下達はまだ感動のあまり泣いている。
凄い顔だ。
何とも話しかけ難い。
しかもいつの間にか、左右にはメイドや騎士が勢揃い。
これまた顔をくしゃくしゃにしながら感動の涙を流しながらも見事に整列し、深く頭を下げている。
まだ式典が終わったとは言えない。
新たな王としての、皇帝としての威光を振りまくべき時だ。誰もが新たな皇帝である俺の姿に感動している。
こんな時にトイレに行きたいと言えるはずが無い。
うっ、意識すると波がっ。
早く部屋に行かなければ。
だが、態々整列しているからある程度遅く、堂々と進む必要がある。
どうしてこのタイミングで。
早く、早く着け俺の部屋。
と言うか遠い。
真っ直ぐな廊下は相当長い。
見えてしまうからこそ、より長く感じる。
精神状態を抜きにしても、軽く徒競走ぐらいは出来る長さだ。
その先は広間。
ゴールが見えない。
せめて臣下の列が途切れれば良いのだが、それも途切れる様子が無い。
早く終われ、早く。
廊下の出口が見える。
俺の出口もこんにちはしかけている。
こうなれば、俺を迎える必要など無い、仕事に精を出せとそれらしい事を命じて臣下を解散させるか。
感涙の嵐だが、皇帝としてのポイントを稼ぎつつこの試練を乗り越えられる筈。
そう決めて廊下を出ると、盛大な音楽が鳴り響いて来た。
…………ここまで準備していたのか。
流石にそれを止めさせる訳にはいかない。
保ってくれ! 俺の門!
漏ってくるな! 俺の尊厳!
くっ、楽団が居る広間も広い。
公立の体育館よりも広い。
まだなのか!? ゴールは!?
せめて姿を見せてくれ!
耐えて耐えて耐えて、広間の最後、豪華な扉の前にまでやって来る。
扉は騎士によって開かれ、一層盛大な音楽が流れた。
そして光が差す。
要らん光が……。
そこは外だった。
正確には渡り廊下。
俺が居たのは、離宮的な場所であったのだ。
そして本当の城が見えた。
見えてしまった。
凄くデカい。
日本の城と比べると、石垣の部分までが城になっている。
冗談抜きでちょっとした小山のサイズだ。
日本では、と言うか地球では見た事も無いサイズ。
多分、ファンタジー的な超人パワーや魔法を駆使した結果だろう。
労力的にも普通は造れないし、物理的にも造るのが難しそうな城だ。
建てたと言うよりも、岩山を削って改造したと言われた方が納得出来る。
治める国の城がそこまで巨大なのは喜ぶべき事だが、この瞬間は全く喜べない。
寧ろ絶望だ……。
あの巨大な城の部屋が、おそらくは最上階付近にある部屋がゴールだなんて……。
一体どれだけの時間、我慢したら……。
嗚呼、神よ!
どうか奇跡を!
もはや祈るしか無い。
願うしか無い。
普通に間に合わせるのは、到底無理だ!!
こうなれば皇位などくれてやる!
なんの価値も無い!
皇帝失格と言われようが、俺はトイレに行く!
そう思っていると、視界がホワイトアウトした。
いや、真っ白い空間に居た。
『貴方の覚悟、聞き届けました。トイレの為には皇位だって惜しまない。そんな貴方に感動すら覚えます』
突然現れたのは銀のような光沢のある水色髪の女神。
どう考えても人間では無い。
『私はトイレの女神ウォッシュレーテ。貴方に奇跡を与えましょう』
トイレの女神様が手をかざすと、何時の間にか真っ白い空間にボックスが現れた。
そのボックスの正体に気付いた俺は駆け込む。
「嗚呼神よ!! 感謝します!!」
そして俺は、試練から解放された。
「女神様、何とお礼をすれば」
初めて信仰心と言うものに目覚める。
『お礼は結構です。祈りに応えるのが神と言うもの。私は既に、貴方の祈りを受け取っています』
「しかし!」
人生そのものを救ってくれたと言っても過言では無い恩を返さない訳にはいかない。
困ったような顔をした女神様は答えた。
『では、貴方と同じように苦しんでいる人々を助けてあげてください。貴方なら、きっと出来ます』
「はい! 必ずや!」
『それでは、貴方に【流水教名誉司祭】の称号と私〈ウォッシュレーテの加護〉を授けましょう』
そう言うと女神様は消え、白い空間から元の場所に戻っていた。
《条件を満たしました。
ステータスを更新します。
称号【流水教名誉司祭】を獲得しました。
加護〈ウォッシュレーテの加護〉を獲得しました》
一瞬の出来事のようで、誰も俺が居なくなっていた事に気が付いていない。
しかしステータスの声と消えた便意が現実であったと告げる。
そして俺は皇帝になってから初めて、王権を行使する事にした。
「“国教を“流水教”にする”」
「「「ぎょ、御意」」」
まだ正式には後になるだろうが、臣下達も問題ないらしく了解したし、女神様には良い恩返しが出来そうだ。
次話は元国王サイド視点です。