表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/12

王1 跪く王

ブルゼニア王アドルフ視点です。

 


 余は立てなかった。


 全身が重い。

 身体が言う事を聞かない。

 声の一つ発する事も叶わなかった。


 まるで巨大な見えぬ手で押さえつけられているかのようだ。


 徐々に回復しているのも感じるが、気休め程度。


 一体何が起きたのだ!?


 余は異世界から奴隷を召喚した。


 だがそれはいつもの事。

 ハズレを引いた時は脱力もするし苛立ちもするが、これは心情でどうこうなる状態では無い。


 まさか下賤な異世界人に攻撃されたのか!?


 いや、何の為に隷属術式があるのだ。あり得ん。


 では一体何が?


 その前に魔術師共は何をしておる!?

 貴様等の王が倒れたのだぞ!?

 治療に来ずに何をしておる!?


 まさか、魔術師共の反乱か!?


 そこでようやく犯人の目星がついた。


 やっと動く様になった眼球を動かし、下手人共を睨む。


 しかしそこには、余と同様に倒れ込む魔術師共の姿があった。

 どういう事だ?

 奴等が犯人では無いのか!?


 では一体他に誰が?


 そう思っていると召喚陣の光が消えた。


 異世界人が無事に召喚されたようだ。


 取り敢えず、この者に余を助けさせよう。


 だが、まだ声は一向にだせそうも無い。

 口を動かす事すらままならない。


 おい! 早く余を助けんか!

 この余が倒れているのだぞ! 他でもない王たる余が!

 命令しなければ貴様は動けぬのか! 愚鈍な異世界人め!

 貴様、こうなれば最前線に送り込んでやる! いや、ダンジョンに送り込んで一生地上に上がれないようにしてやる!


 しかし立っている異世界人には、怒りの一つも届かない。


 そして異世界人は口を開いた。


「拝聴せよ! 我は此度この世界を治める事になった勇者である!」


 何を偉そうに! 奴隷たる異世界人如きが!


 しかし次の瞬間、怒る余裕すらも失った。


「“我に全身全霊を尽くして仕えよ”!」


 まるで魂を鷲掴みにされたようだ。

 心すらも、感情すらも動けない。

 比喩でもなんでもなく、本当に魂を鷲掴みにされている。


 怒りが恐怖に変わると、自然と魂を掴んでいた何かは消えた。


 しかし圧迫感は消えなかった。

 余の魂は何かに縛られている。

 動けばまた確実に摑まれる。


 そんな確信めいた予感がある


「“我が命は絶対である”!」


 何と小癪な!

 王たる余を差し置いて何たる傲慢!


 ぐがぁあ!!


 魂が、鷲掴みに!


 おのれ異世界人!!


 ぐがぁ――――あぁぁ!!?

 た、魂が、潰れる!?


 ……魂が、掴む何かが異世界人に逆らう、いや悪意を向ける事さえ許さない……。


 何も考えられぬ程の痛みを覚えれば魂は解放され、余裕を取り戻し悪意を異世界人に向ければ魂が潰される。

 ほんの数秒の間に、そんな事を芯の底から思い知らされた。

 何の証拠も無いが余はそう確信した。


「“我が盾となり剣となれ”!」


 何を! 王たる余を盾にだと!?


 ぐぎゃあぁあああ!!


 ま、間違いない。

 異世界人に逆らおうとすれば、魂が潰される。


「“我に歯向かう事は許されぬ”!」


 この力で余を支配する気か!?

 異世界奴隷風情が、この程度で余を―――ブゥゥゥヒィヤァアアアガガゴエアァアドベバァドゥヘホォォォアアアーーーーーーーーーーーーーーッッッ!!!!!!


 た、魂が消えっ!!

 否定される!! 全てが!! 存在自体が!! この世から!! あの世からすらも消される!!


 さっきの比ではない!!


「“我に全てを捧げよ”!」


 くっ、貴様が余に全てを―――ドゥヘホォォォアアアビビビォルドゥホッペーーーーーーーンッッッ!!!!


 ま、間違いました、余です。

 全てを捧げるのは余です!

 だからご勘弁を!!


「されば汝らに約束しよう! 汝らの繁栄を! 栄光を!」


 もう反対などせん。

 そんな思いは一欠片も湧かない。

 余に許された言葉はただ一つ。


「「「「「「「御意」」」」」」」


 余は、人生で初めてその言葉を述べ、初めて他者に服従した。

 そして我が臣下達も言葉を一つにした。

 城の外からも聞こえてくる。臣民も全てが異世界人にこたえている。

 余への忠誠など、欠片も感じられない。


 余は、自由どころか臣下までも奪われたのだ……。



 しかし異世界人はそれで満足しなかった。


「“王位の印を我に”」


 王位すらも余から簒うつもりらしい。


 まだ、まだ余から奪うつもりなのか!?


 そもブルゼニア王国とは余そのもの。

 ブルゼニア王家こそが王国なのだ!! 余と言う王なくしてブルゼニア王国は存在しない!!

 余から王位簒奪すると言う事は、ブルゼニア王国を滅ぼす事を意味する。

 この世界の中心たるブルゼニアを!!


 例え臣民が離れようとも余はブルゼニア王国たる国王。

 栄光たるブルゼニア王国の歴史をここで終わらせる訳にはいかん!!

 実権なくしても、王位だけは渡さん!!


 だが、余の意思に反して余の身体は動く。

 いや、余の意思に反して余の意思は動く。


 余は、完全にこやつに屈していた。


「御意」


 余の身体は玉座から離れてゆく。


 何と情けない!!

 余は、ブルゼニア王は、ブルゼニア王国とはこの程度のものだったのか!?

 異世界の奴隷如きに!!


 イギョォォォォボバアァァァァアッッゥッ!!!!


 光栄です!! 光栄であります!! 

 偉大なる陛下に王位をお譲り出来て、余は幸せです!!


 異世界人は当たり前の様にどかりと玉座に座る。

 歴史ある、世界の王たるブルゼニアの玉座に、何の感慨も無く、ただの椅子に座るかのように……。


 そんな異世界人に、余は王冠と王笏、そして王印を差し出した。


 余の視界は、数十年ぶりに歪み、塵一つ無い玉座のカーペットにシミを作っていた。



次話は主人公視点に戻ります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
設定集
〈モブ達の物語〉あるいは〈真性の英雄譚〉もしくは〈世界解説〉
【ユートピアの記憶】シリーズ共通の設定集です。一部登場人物紹介も存在します。

本編
〈田舎者の嫁探し〉あるいは〈超越者の創世〉~種族的に嫁が見つからなかったので産んでもらいます~
【ユートピアの記憶】シリーズ全作における本編です。他世界の物語を観測し、その舞台は全世界に及びます。基本的に本編以外の物語の主人公は本編におけるモブです。

兄弟作
クリスマス転生~俺のチートは〈リア充爆発〉でした~
主人公と同じ部活の部長が主人公です。

本作
孤高の世界最強~ボッチすぎて【世界最強】(称号だけ)を手に入れた俺は余計ボッチを極める~
本作です。

本作
不屈の勇者の奴隷帝国〜知らずの内に呪い返しで召喚国全体を奴隷化していた勇者は、自在に人を動かすカリスマであると自称する〜
これです。

兄弟作(短編)
魔女の魔女狩り〜異端者による異端審問は大虐殺〜
主人公と同じ学園の風紀委員(主人公達の敵対組織)の一人が主人公です。

英雄譚(短編)
怠惰な召喚士〜従魔がテイムできないからと冤罪を着せられ婚約破棄された私は騎士と追放先で無双する。恋愛? ざまぁ? いえ、英雄譚です〜
シリーズにおける史実、英雄になった人物が主人公の英雄譚《ライトサーガ》です。

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ