不屈1 絶対君主誕生?
《倉代昂の異世界転移を確認しました。
これよりステータスを有効化します。
ステータスの有効化が完了しました。
名前の表記をノボル=クラシロに変更します。
転生の女神カナエの介入により、ギフト〈不屈〉を獲得しました。
スキル〈鑑定〉〈アイテムボックス〉を獲得しました。
加護〈転生の女神カナエの加護〉を獲得しました。
称号【異世界召喚者】を獲得しました》
脳内に直接声が届く。
内容と状況からして、ライトノベルによくあるステータスの声と言うやつだろう。
と言うか本当に〈不屈〉しか無い。
〈鑑定〉〈アイテムボックス〉はあるが、これは多分通常特典だろう。
召喚先が魔獣の蔓延る辺境だったりしたら速攻で詰む。
直接戦う手段が何一つとして無い。
〈不屈〉が何の役に立つ? 心が折れなくても物理的に折れる。
大型犬からも戦略的撤退を選択する俺にどうしろと?
多分、この召喚途中でも冷静に考えられているのが〈不屈〉の効果なのだろう。
うん、役に立たない。
そう考えていると、全身が、いや内側まで染み込んで来そうな衝撃波が俺を襲った。
しかし、衝撃を感じるだけだ。
圧倒的物量を感じるのに、長い階段を駆け降るのと変わらない程度の衝撃だ。何とも無い。
《熟練度が条件を満たしました。
ステータスを更新します。
ギフト〈不屈〉のレベルが1から5に上昇しました。
称号【不屈の勇者】を獲得しました。
称号【不屈の勇者】を確認。
称号【異世界召喚者】を確認。
職業“異世界勇者”が開放されました。“異世界勇者”にジョブチェンジします》
そして衝撃は去った。
と思ったらまた衝撃の濁流が同じようにやって来た。
今度は内側まで染み込んでくる。
しかしこれもダメージのようなものは無い。
呑み込まれるような全方向からの濁流なのに、それに酔う事も無い。
寧ろ、何故か気分が良い。
何故かは全く分からなかったが、時と共に調子は良くなる一方であった。
そして光も晴れてきた。
もうじき、召喚が完了するのか?
そう考えれば、調子が良くなるのにも納得がゆく。
調子が良くなったのではなく、本調子に戻ったと考えれば何の不思議も無い。
おっと、完全に光が晴れた。
光の先は、魔術師達に囲まれた大広間だった。
儀式の場と言うには豪華過ぎる空間。
魔術師達の間から玉座が見えた。
どうやら、神殿とか儀式場では無く、所謂謁見の間に召喚されたらしい。
そして想定外の事が一つ。
全員、跪いていた。
俯いているだけにも見えるが、王と思わしき人物も含めて、全員が俯いているので、この世界流の跪きなのだろう。
何これ?
もしかして、王として招かれたパターンとか?
勇者パターンだと、まずは挨拶と状況説明からの願いで始まるように思える。
しかし、俺の場合は誰一人として一言も発する事が無い。
これは、俺の言葉を待っていると考えて間違いないだろう。
こうなれば何かそれらしい事、王らしい事を言わなければ。
出任せにかけては町内一の俺、完璧に熟してやる!
「拝聴せよ! 我は此度この世界を治める事になった勇者である! “我に全身全霊を尽くして仕えよ”! “我が命は絶対である”! “我が盾となり剣となれ”! “我に歯向かう事は許されぬ”! “我に全てを捧げよ”! されば汝らに約束しよう! 汝らの繁栄を! 栄光を!」
フッ、決まった。
「「「「「「「御意」」」」」」」
そしてその返答に、この場のみならず、この国全土としか言いようの無い規模の纏まった声が聞こえた。
一つ一つは小さな声なのに、怒号のように、まるで地響きであるかの様に、世界を揺るがす大きさとなってここまで響いて来る。
俺は確信する。
この国は、世界は俺の登場を、そしてこれからの栄光を待ち望んでいたのだ。
これのどこに〈不屈〉が必要だと言うのであろうか?
最高の異世界召喚じゃないか!?
しかし格好付ける為、内心を抑えて玉座へと向かう。
「“王位の印を我に”」
俺は跪いたままの王にそう命じる。
「御意」
王は跪いたまま玉座を退くと、そこに座った俺に王冠と王笏、そして王印を差し出してくる。
見れば、王は小刻みに震えていた。
跪いて顔は見えないが、その床は濡れている。
そうか、この歴史的瞬間に立ち会えて感動してしまったのだな!
《条件を満たしました。
ステータスを更新します。
称号【皇帝】を獲得しました。
ブルゼニア王国の王権を獲得しました。
国号をブルゼニア王国からブルゼニア帝国に変更します。
称号【皇帝】が称号【ブルゼニア帝国皇帝】に変化します。
称号【絶対君主】を獲得しました》
ステータスからしても、正式に俺は王に即位したようだ。
しかもただ王位継承しただけでなく、国のランクアップまでさせてしまった。
俺が即位しただけで王国から帝国だ。
自分のカリスマ性が怖い。
まさか俺にこれだけのカリスマ性があったとは。
如何にライトノベルと言えど、召喚された瞬間に王国を帝国へと生まれ変わらせた異世界人はいないだろう。
俺は物語の主人公をも召喚直後から超えたのだ。
俺は王国を統べる王では無く、国々を統べる皇帝。
人々の上どころか国々の上に君臨する絶対君主。
まさか与えられたチート能力は使いどころが分からないものなのに、俺自身のカリスマ性がチートだとは思わなった。
どうせ異世界に召喚されたなら、胸踊る冒険もしたかったがここまで王の才能があるのだから内政に邁進しよう。
そしてチートなカリスマ性と知識チートを持つ俺が王になったからには、この帝国は、いや世界は大飛躍の黄金期を迎えるのだ。
俺を讃える声が後世からも既に聞こえてくる。
こうして俺の皇帝ライフは今、始まった。
次話は元王視点になります。