不屈6 実用的な絵画
「それで、残りの場所は?」
「真ん中に描かれた大樹は【世界樹】、天まで届くとすらされる世界一巨大な木です」
おお、ファンタジーお馴染みの世界樹もしっかりとあるらしい。
一応聞いてみよう。
「一本だけなのか?」
「エルフ族の聖域にある為、確かな情報は得られておりませんが、同規模の大樹は確認されておらず、増やすことに成功したとの情報もありません」
やはり神秘的な特殊な木らしい。
そしてエルフもいるようだ。
是非とも会ってみたいし、世界樹にも行ってみたいものだ。
皇帝という立場だと、軽々しく行けそうに無いのが今回の異世界召喚の欠点かも知れない。
知識無双、内政無双しまくったらハーレム作って後継者産んで旅をするのも良いかも知れない。ついでに正体隠して悪徳代官見つけたら印籠を見せて解決するアレとかもやってみよう。
異世界は楽しみだらけだ。
「その隣の月も世界七大風景なのか?」
世界樹の隣の絵は普通に月を大きく描いた絵だった。
地平線に沈む月を描いた風景。
異様に月が大きく描かれているが、特定の場所や季節に見える絶景なのだろうか。
見事な風景ではあるが、異世界らしさはそこまで強くない。
「はい、こちらは【旧き月】、墜落した月とされる場所です。世界最高峰の山としても知られています」
「ふ~ん、やっぱり月なんだ…って、墜落した月!? 地平線に沈む月じゃなくて!?」
「大地と一体化しております。あまりに大きく球体である為、かつての月とされているだけで、確たる証拠はありませんが地上の地形として存在しております」
月でなかったとしても、地上に存在するとなると凄まじい。
「【旧き月】のあまりの大きさから太陽の光が届かず、かつ常に月光に照らされており、【旧き月】の存在する大陸は【月光大陸】と呼ばれています。【旧き月】の魔力によってその他の環境も特殊であり、最も危険な大陸として知られています」
月のように光るという事は、やはり本当に月なのだろうか。
というか、太陽光が反射しなくても光って見えるんだ。
本当にかつての月であるという保証は無いが、この世界の星は元の世界の星とだいぶ違うのかも知れない。
そもそも月が墜落したとして、墜落した月が砕けていないというのもおかしい気がする。
これも神々が関わっているのかも知れない。
「月が墜ちた神話は無いのか?」
「ございます。広く語られる創世神話によると、世界は破壊の神によって虚空を破壊する事によって誕生しました。同時に創造物を司る万物の神々が誕生しましたが、やがて世界が完成すると、破壊の神とその眷属は更なる創造を行う為に創造物の破壊を目論み、破壊神と万物神の戦争が起きました。
それによって幾柱もの神々が倒れたとされます。その中には【月と正義の神】もおり、神の滅びと共に司っていた月も墜ちたと言われています。
そして万物の神の滅びと同時に破壊の神も滅び、この世界から万物の滅びも消え去った事で神は消えても創造物は残り、今の世界の形になったと言われています」
実際に墜ちた月らしきものがある事からすると、その神話は事実なのかも知れない。
他にも滅びた神の影響と言われている地形もあった。
しかしその地形が有るからこそ、神話が生まれた可能性も有る。
ファンタジー世界でも全て魔法でこうなりましたとはならないようだ。
神秘は残っているらしい。
「その隣は?」
「【ランドールの巨神兵】、【古代都市ランドール】、その残骸を護る巨人、ゴーレムです」
描かれていたのは巨大な紫色の鎧だった。
それが人の軍勢を蹴散らしている。
「そちらの王笏を始めたとしたアーティファクトが発掘された地、ランドールにてかつてアーティファクトを巡る戦争が勃発しました。その際に目覚めたランドールの守護神であり、全ての軍勢は敗れ去りました。以来千年以上、彼の地から戻った者はおりません」
現在の状況が絵の隣に映し出されるが、今は止まっているようだ。
某宇宙から来た光の巨人サイズだが、止まっていると普通の銅像のように見える。
しかし海の上に沈む事なく立っており、外観以外は明らかに異質だ。
その後ろには海に沈む都市。
海に沈んではいる、と言うよりも沈んている筈の位置に存在しているが、水を弾いて球形の空気ドームを作っている。
パッと見ても様々なお宝が眠っていそうだ。
かなり危なそうだが、何れここも冒険してみたい。
「尚、ランドールは現在海に囲まれていますが、これも巨神兵の力によるものです。ランドールが天から墜ちた際、深く巨大なクレーターを生み出しました。一帯を燃やし尽くし、世界を揺らしたとされています。その時は海はありませんでしたが、巨神兵の破滅の炎は離れた海まで破壊し尽くし、海と深いクレーターとを繋げて現在の地形になったと記録では残されています」
やっぱり、危険が勝るかも知れない。
行くかどうかは要検討だ。
「で、最後の場所はこの城か?」
「はい、最後は人類史上最大にして最も美しく巨万の富を惜しげも無く使い建造、増築を続けたこの城です。ルビレッツェはこの城の増築に関わっており、彼の晩年、城に自分の美を込めるだけ込めたルビレッツェが最期の仕上げとしてこの絵を描きました」
最後の絵にはこの城が描かれていた。
確かに規模が大きく美しいだけの城だが、芸術としては他の六つの景色と比べても遜色が無い。
「ルビレッツェはこの国の有名建築を幾つも設計しており、国内の絵は膨大な数存在しています」
そう言うと、次々と街の風景が映し出された。
絵画と今の風景を比べてみると発展が見て取れるが、メインに描かれている建造物は現代でも素晴らしい芸術と理解されているらしく、古くなってはいても壊されずそのまま残っている。
と言うかそんな事より、ただの多機能な国宝級絵画だと思っていたが、普通の風景のみならずこの国中を映し出している。
王笏の力で国中が見れると言っていたが、まさか絵画にもここまでの機能があるとは。
この機能があれば、堅苦しそうな執務室や会議室、謁見の間ではなく落ち着ける寝室であるこの部屋で、ゴロゴロしながら国の現状を見て内政について考えられる。
実に素晴らしい、素晴らし過ぎる絵画だ。
まさか実用性が素晴らしい過ぎる絵画が存在したとは。
そもそも絵画に実用性なんて皆無だし。
さて、休みつつも内政無双の為、じっくり国を見てみるとしよう。
自室で寛ぎながらも国中を見渡し、的確な政策を打ち出す聡明な王に喜ぶ臣民の姿が目に浮かぶ。
後世、タイトルが【恐怖】になりそうな絵画です。