不屈5 王の使用人と王の絵画
「では、陛下、使用人のご紹介をさせていただきます。彼女はメイド長のゴールド・メイドです」
「メイド長を務めさせていただきます。ゴールドです。陛下にお仕え出来光栄です」
「ゴールドの隣は副メイド長のシルバー・メイド」
「副メイド長のシルバーです」
金髪のゴールドと銀髪のシルバー。
「メイドが家名なのか?」
「はい、正確には型番名ですが、そう名乗っております」
「型番?」
ただ変わった名前かと思っていたら、思い掛けないワードが飛び出してきた。
「失礼致しました。申し遅れましたが、我々は使用人型ホムンクルス、人の手により生み出されし生命体です。魔法道具の一種、アーティファクトの一種と御認識ください」
……まさかの、人間では無かったらしい。
機械の様に精密で完璧な所作だと思ったら、機械に近い存在だったようだ。
見かけはどう見ても人間にしか見えない。
確かに整い過ぎた顔や動きたが、造られた存在にはとても見えなかった。
異世界の技術、凄い。
王杖よりも凄い気すらする。
「名も髪と瞳の色で割り振られております。メイド型は右からレッド、オレンジ、イエロー、グリーン、ブルー、パープル、インディゴです。古くから虹色メイドと呼ばれております。セバス型はホワイト、グレー、ブラウン、カッパーです。
虹色メイドは家事や身の回りのお世話を中心に行うよう設計されており、私を含めたセバス型とゴールド、シルバーは執務のお手伝いを中心に行うよう設計されております」
「もしかして、外の騎士もホムンクルスだったり?」
「いえ、彼等は近衛騎士団の精鋭の方々です。ホムンクルスではありません。ホムンクルスはこの城には我々だけです。現在、我々以外のホムンクルスの存在は確認されていません」
「じゃあ、最先端なんだな」
「いえ、アーティファクト、現在の技術では再現不可能なロストテクノロジーで造られております。起動時には我々を作製した文明は遥か昔に滅んでおり作製年は不明ですが、起動してから既に千年以上が経過しています」
「そんなに……」
やはり王杖よりも凄い存在な気がする。
加えて、この場なら肩が凝る王の振る舞いをしなくて良さそうだ。
人の使用人相手なら威厳を保ち続けなければいけないが、彼等はホムンクルス、分類的にはロボットみたいなもの。
慣れれば普通の家の様に過ごせそうだ。
「取り敢えず、一休みしたいんだけど?」
「では、こちらに」
案内されたのは、広大な寝室だった。
天蓋付きの豪華なベットに、ソファーにテーブルが数セット、壁と天井には絵画が直接描かれている。
豪華ではあるが、これまで見てきた城内では落ち着いた雰囲気の部屋だ。
「この部屋の絵画は錬金術師にして芸術の巨匠、ルビレッツェの作品です。この作品は一枚で複数の絵画を写し出し、各地の風景も写し出す事が出来る魔法道具です」
ブラックはそう言うと、絵画に描かれたものを実際に変えて見せた。
おそらくこの国の歴史的場面を描かれているのであろう絵画から、神話を描いた宗教画に変わった。
そして宗教画は更に風景画へと変わり、複数の風景画から一つの風景が描かれた風景画まで次々と変わってゆく。
また花の絵だったり、美術館でよく見るような絵が複数写し出されたり、何でもある。
「風景画の風景は全て実在するのか?」
「はい、只今写し出させて風景は全て実在します。時間の経過で多少の変化も有りますが、実在する場所です」
「空を飛んでいる島も?」
「こちらでしょうか?」
ブラックは空に浮かぶ島が描かれた絵画を写し出した。
島の上には城と神殿の中間のような建造物が築かれ、流れ落ちる水は滝を作っている。
「その島だ」
「この島は【雨神の宮殿】と呼ばれている天空島です。現在世界で確認されている天空島は六つありますが、唯一前人未踏の地であり、謎に包まれた天空島になります」
流石はファンタジー世界、実在していたらしい。
しかも一つでは無いようだ。
「何故そこだけ前人未踏なんだ?」
「それは他の天空島が浮いているだけの土地、ワイバーンに乗るなど飛行手段があれば容易に辿り着ける土地であるのに対して、【雨神の宮殿】は強固な結界に守られている為です」
「その島は、名前の通り神の神殿なのか?」
「いえ、常に滝を作り地上に降雨をもたらすのでそう呼ばれています。詳しい記録等は何も残っていません。呼び名も時代や地域によって変異して来ました。少なくとも五千年以上前から存在している事しか分かっておりません」
ファンタジー世界の中でもある種ファンタジーな場所らしい。
この世界の世界七不思議みたいなものか。
せっかくこの世界に来たからには、いつか見てみたいものだ。
「他にこの世界で有名な場所はどんなものがあるんだ?」
「【雨神の宮殿】のように世界七大風景に数えられる場所でしたら、全てこの絵画に含まれております」
絵画が天空島も含めて、七つの絵画に変わった。
「まず端の巨大な波に呑み込まれそうになっている島は【海神の終焉地】と呼ばれる地であり、常に波がこの位置で固定化されています。神話では海神がこの地で敗れ去り、このような地形になったとされています。
その隣、波とは対象的に噴火している火山、こちらもこの状態で止まったままであり、上部は噴き飛んだ岩石が六つの天空島の内の一つとなっている【火神の寝床】です。こちらも神話では神が滅びた地であるされています」
どちらも大津波の瞬間、大噴火の瞬間を切り取った様な絵だが、実在する場所らしい。
その神話の信憑性がどの程度あるのかは分からないが、魔法のある世界でも神々が関わっていなければ成立しない地形に思える。
「尚、これが実際の【海神の終焉地】になります。そしてこちらが【火神の寝床】です」
ブラックがそう言うと、絵画の一部がガラスに変わった。
そこに外の光景が映し出される。
その光景は絵画に描かれた風景と同じものだった。
「これが風景を映し出す機能か?」
「はい、ルビレッツェの選んだ風景を映し出す機能です。記録された座標を空間属性魔法で映し出す機能となっております」
「どこでも映し出せるのか?」
「いえ、映し出せるのはルビレッツェが予め記録させた座標のみです」
どこでも見えたら凄いと思ったが、流石にそこまでの事は出来ないらしい。
「【雨神の宮殿】は?」
「かの天空島は世界中を飛んでいる為、座標が固定化出来なかったそうです」
動くものも対象外のようだ。
しかしそれでも十分に凄い。
ファンタジー世界という事を加味しても、国宝なのではないだろうか。




