不屈4 王の部屋
き、気が付いたら前回投稿から一年以上……。
人生最大とも言える危機を乗り切った後は、身も心も羽のように軽くなった。
大勢の人に囲まれる緊張も何処かへと消えた。
素直にいきなりではあったが国を手に入れたと喜べる。
トイレへの果てしない距離を示す絶望の象徴であった巨大な城も、今では頼もしい限りだ。
加えて余裕を持って見ると、より城の凄さを実感できる。
小山のような大きさだと、その規模しか見ていなかったが改めて見ると城としても、国の象徴としても世界遺産認定当然の完成度だ。
塗った白では無く大理石のような石そのものの白き美しさに、それを強調させるおそらく純金の金縁、加えて宝石に近い緑や青の石が潤沢に使われ、広大な城にも関わらず微細な細工まで施されている。
城だけでなく庭園も隅々まで整備されており、少し整え過ぎている感もあるが、見事な作品と言える出来栄えだ。
そして外が凄ければ中も当然凄い。
離宮も装飾だらけだったが、ここはそれを軽く超える。
国家予算の大半をここに注ぎ込んでいるのではないかと思う程、金銀宝石でキラキラしているし、彫刻や絵画が床から天井まで溢れかえっている。
しかも凄いのは装飾だけじゃない。
宙に浮かぶシャンデリアや、階段へと姿を変える絨毯、頭を下げる彫像。
魔法だ、魔法がある。
今までは異世界と言っても異国情緒の範囲内であったが、ここに来て異世界情緒溢れる魔法の登場だ。
異世界に本当に召喚されたのだと実感が湧いてくる。
王として召喚されたが後で魔法を教えてもらおう。
必要ないとしても、是非とも使ってみたい。
「あの様な魔法の設備はこの世界では一般的なのか?」
「い、いえ、この城には世界中からマジックアイテムや古代魔法が集められています。世界でもここほど魔法道具が集まる場所は無いでしょう」
「お、お望みでしたら、それぞれの魔法道具についてご説明させていただきます」
「そうか。では聞かせてもらおう」
気の利く大臣達だ。
「あ、あちらの中央に位置するシャンデリアは、“ランドールの天空城”と呼ばれるアーティファクト、でございます。五千年程前に存在したと言われる古代国家ランドールで作製されたと伝わります」
俺の視線から気になっているものを的確に読み取った宰相モリガンが解説を始める。
そこに補足していく大臣達。
「ラ、ランドールは伝説によると空にまで版図を広げ、そ、そこで、天空竜ベリスの怒りを買い戦闘に発展するも、英雄王ゼルマドールが打ち倒しました」
「あのシャンデリアは、その天空竜ベリスの魔石から作られたとされるランドールの至宝です」
「シャンデリアは、ベ、ベリスの力を宿し、空を支配する力を有するとされます」
「具体的には、ランドールの首都となった天空都市を、浮かす動力源になったと伝説にあります。し、しかし、使い方は失われてしまいました。つ、墜落した天空都市で発見された為、効力が失われた可能性が高いです」
「ただ、全ての効力が喪われた訳ではなく、周囲の無機物の位置を相対的に固定化する能力を有しており、この城を補強しています」
豪華で浮かんでいるだけのシャンデリアかと思っていたが、経緯までファンタジーでロマンがある凄いお宝だったらしい。
聞かないと分からない事もあるものだ。
飾りとして使っているシャンデリアすら凄い所以があるのだから、宝物庫とかに保管されている秘宝はきっと更に価値のあるものなのだろう。
「この城で一番価値が高い魔法道具は?」
「そ、それは、て、“天空王の王杖”、です」
元国王がそう答えた。
考える間を置かなかったから、さぞ素晴らしいものなのだろう。
「それはどこに?」
「い、いま、陛下がお持ちの、王笏が、“天空王の王杖”に、なります」
「ああ、これか」
まさかの既に手にしていたものだった。
王の証拠的な飾りでは無く、魔法の力が込められた杖であったらしい。
「どんな力が?」
「王国の支配領域全ての魔力を扱えます」
「お、王国中の魔力を集め、支配する事が可能、です」
「陛下を召喚する為に用いた術式の発動にも、王杖の力を使いました」
「ま、また、りょ、領域支配に関する、様々な、ち、力を、有して、います」
「た、例えば、“王の耳”、“王の目”と言う機能では、お、王国中が、み、見聞き出来ます」
「そんな事まで可能なのか……」
想像以上に凄かった。
何千何万もの人々の魔力を扱える杖。
チート以外の何ものでもない。
加えて王国中が見聞き出来る。
この国、世界について殆ど知らない俺でもすぐに現状を知り内政に取りかかれそうだ。
「他にも、王国中に声を届ける事も可能ですし、霊脈が繋がっている土地であれば常設結界などを設置する事も、その土地の天候を操作する事も可能です」
「ま、また、霊脈の魔力と繋がった魔法道具を遠隔で使う事が、可能です」
「ただ、操作が非常に難しく、通常は補助の魔法陣や魔法道具を使い、各機能を使用しております」
「王の目などを使う場合、専用の部屋がございますので、使用する場合はご案内いたします」
強力な分、扱いは難しいようだが対策は色々と考えられているらしい。
「王杖は毎日公務で使うのか?」
「いえ、陛下の御心のままに」
「陛下に御足労を願う様な公務は存在しません」
専用の部屋があっても使い熟せるか心配だったが、無くて困る様なものでも無いらしい。
切り札的なもののようだ。
しかし使い熟せる様、練習はしておくべきだろう。
そんな話をしている内に、一際豪華な扉の前に到着した。
「こ、この先が、へ、陛下の御部屋と、なっ、なっており、ます」
元国王がそう語る。
門の前には二十人以上の騎士。
扉の先にも十人以上の騎士が控え、更に豪華かつ頑丈そうな扉。
その先には大勢のメイドを始めとした使用人がおり、整列して俺を待っていた。
「御初にお目にかかります。私は陛下の身の回りのお世話をさせていただきます執事のブラック・セバスと申します。何なりとお申し付けください」
「「「何なりとお申し付けください」」」
一切ぶれずに揃った完璧なお辞儀。
この部屋の外にいた使用人達よりも優秀そうだ。
「うむ、よろしく頼む」
「それでは陛下。本日はお休みください」
「公務は良いのか?」
「いえいえ! 初日から働いていただく訳には!」
「そ、そうです! こちらでごゆっくりと!」
「陛下もなれない場所に召喚されお疲れでしょうから!」
「では、我等はこの辺りで失礼いたします!」
気の利く大臣達は、まるで逃げるように素早く退室して行く。
確かに慣れない王の行動をして少し疲れたし、今日はのんびりさせてもらおう。




