プレハブを抜けるとそこは異世界だった
酪農実体験のある私が、その体験を無駄にしたく無くて書いた小説です。
時々やけにリアルなところがある場所は察してください。
俺の人生は、会社の歯車になる為にあるんじゃない!
そう考えて、彼は一大決心をする。
動物と触れ合い、自然とともに生きていこう!
こうして彼は3年勤めた会社を辞め、歯車としてしての自分に決別した。
そして、農家の歯車になった。
「こんなはずじゃなかった」
1日の仕事を終えた、真野勇矢は大きな溜息をついた。
会社を辞め、農家専門の求人サイトで見つけた憧れの北海道、しかも1番端っこの道東地区の素晴らしい思想の酪農家に勤めた。
ハズだった。
しかし実際行ってみれば、寮とは大きめのプレハブで、農器具置き場と薄い壁1枚仕切られただけの元倉庫
粗大ゴミと間違えそうなベッドに、ギリギリ凍死するかもくらいしか暖まらないストーブ。
近くのコンビニは片道自動車で25分。
移動手段はマニュアルの壊れかけの軽トラック。
その上、亭主と息子はほとんど仕事に出て来ず、嫁さんは自分の仕事しかしない。
実質4人分の仕事のうち3人分を1人でやる羽目になっている。
他の農家が半自動の仕事もほぼ手動。
機械化されているところも古くて手間がかかる。
彼の1日はだいたいこんな感じである
AM 3:30起床
4:00牛舎内清掃
4:30飼料やり
5:00機械殺菌、清掃
5:30搾乳
8:00機械殺菌、清掃
8:30牧草やり
9:00育成舎作業
9:30糞尿処理
11:00牛舎内清掃
12:00昼飯、休憩
13:00牛舎内清掃(飼層)
14:30飼料やり
15:00機械殺菌、清掃
15:30搾乳
18:00機械殺菌、清掃
18:30牧草やり
19:00育成舎作業
19:30牛舎内清掃
20:00牧草やり
21:00翌朝準備
22:00夕飯、風呂、就寝
午前8時間半、午後9時間、1日17時間労働、休日なしである。
彼は日本の酪農業界でも最も職場環境が悪い農家を引き当てた、ある意味強運な男である。
特に冬場が大変である。
この地域は最低気温マイナス30℃になる事もある極寒の地域なのである。
雇い主の家で風呂に入らせてもらい、身体が冷えきらないうちに全力でプレハブに戻る。
暖房だけじゃ凍え死ぬ危険があるので服を何枚も重ね着して、その上からダウンジャケットを着て震えながら寝る。
「早く寝ないと明日がまた来る」
そう言い聞かせて、無理矢理寝る。
そして、日の出の3時間前くらいには起きて作業を始める。
吹雪の日には真っ暗の中遭難しそうになりながら作業を行う。
そんな毎日がまた始まる予定であった。
「う、眩しい」
もう忘れてしまった日の光を浴びて起きると言う感覚を受ける。
「しまったぁ!」
日が昇っていると言うことは寝坊していると言うことである。
慌てて時計を見る。
AM2:45
「え?」
時計を見る。
外を見る。
もう1度時計を見る。
もう1度外を見る。
1度目をつぶる。
時計を見る。
何がなんだか分からない。
寝坊はしてない。
日は昇っている。
起きることのないはずの事が起きている。
とりあえず外に出てみる事にしてみた。
「…え?」
右を見る。
草原とかなり先に林らしき樹木が見える。
左を見る。
草原と少し先に林らしき樹木が見える。
後ろ見る。
プレハブとその後ろに林らしき樹木が見える。
正面は草原に獣道のような道があり、それが林が切りひらかれた様に見える隙間に続いている。
「俺…死んだのかな?」
その割には頬に当たる風も草木の匂いもやたらリアルだ。
しばらくどうして良いか分からずに茫然としていると獣道の方から10騎程騎士らしき人達がこちらにやって来るのが見えた。
「私はクロムナート国の宰相オーレンと申します。」
先頭に居た1番高齢で1番豪華な服を着ている男が馬から降りて、彼にこう語りかけた。
日本語と違う言葉のはずなのに何故か普通に日本語として聞き取れる。
「あ、俺は真野勇矢です」
ペコッとお辞儀しながら自己紹介をする。
「真の勇者ですと!おお!勇者召喚は成功した!」
「えええ!いや、名前です!僕の名前です!」
明らかに勘違いしていると感じ取った彼は慌てて訂正する。
「ん?名前が勇者なのですかな?」
「ゆうやです!ゆ・う・や」
「おぉ、これは失礼した」
オーレンもやっと勘違いを理解した。
「申し訳ないがステータスを見せて頂いても宜しいですか?」
「どうやって?」
オーレンが当たり前の様に言ってきた言葉がユウヤには理解できない。
「あぁ、そうですな、あちらの世界の方は知らないんでした」
「あちら?」
オーレンが、ちょいちょい分からない言葉を挟んでくる。
とりあえず、一通り説明してもらう事にした。
この大陸には大きく分けて、4つの勢力がある。
クロムナート、セチルア、トリステン、ナウワーズ
ほぼ全ての国はこの4大国どこかに従属している。
この4国互いに争ったり、手を結んだりしながらずっと現状維持な状態で続いている。
お互いの勢力は拮抗しており、何処かが何処かを攻めると、他がそれに協力するなどして全く現状を変える方法が無い。
各国がこの状況の打開策として研究をしているのが、勇者召喚である。
クロムナートはそれをどこよりも先に実用化して今回、めでたく第1号の召喚者となったのが、ユウヤである。
ただ、時間軸と座標にズレがあったようで、実際の儀式より10日遅れ、王都に呼ぶはずが辺境の森の中になってしまった。
と言うのが、今回の顛末らしい。
「ささっ、ステータスオープンと唱えてくだされ、あなたのステータスには勇者の2文字があるはずですので」
そうオーレンに促されて
「ステータスオープン!」
と、唱えてみた。
「どうです?勇者の2文字ありますな?ありますな?」
オーレンがぐいぐい来る。
「…無い…ですね」
「そんなはずは!称号は?称号はどうなってますか?」
「ええッと、農業に従事する者…ですね」
「なん…ですと…リバースと唱えてくだされ、そうすれば我々に見えるようになりますので」
「あ、はい、リバース」
ステータス
ユウヤ レベル1
種族 人間
強さ 12 物理的攻撃力
器用 12 命中率
素早さ 12 回避率、移動速度
知性 12 魔法的攻撃力
耐久力 12 HP基準値
賢さ 12 MP基準値
HP 25
MP 25
職業 農者
スキル 酪農 レベル1
家畜化 条件を満たした生物を家畜化出来る。
搾乳 乳を搾る事ができる。
称号 農業に従事する者
特典・農業に関する事全てにプラス修正
「…何だこれは!」
オーレンが唖然とする。
「農者?勇者じゃなく農者?聞いた事ないぞ?」
「なんか、すいません」
ユウヤが思わず謝る。
「能力も平均より少し低い、称号も意味が分からぬ」
「平均っていくらなんですか?」
ユウヤが気になって質問する。
「15です」
ユウヤの言葉を完全に無視するオーレンに代わって隣の騎士が教えてくれた。
「あのー、元の世界に返して貰えるとかは出来ないんですか」
どうしたものか?と頭を抱えているオーレンに話しかける。
「申し訳無いがそれは出来ない」
「あーそうですか」
なんとなく予想はしていたが、確認の為に聞いただけであった。
「そもそも、元の世界に未練の無いものでなければ召喚はされないはずなので、返す事は考える必要がないはずなのだ」
「あー、そこだけちゃんと機能してますね」
ユウヤも別に帰りたいわけでは無かった。
帰っても極寒の中での作業が待ってるだけである。
「まぁ仕方がない、今回は失敗だった」
またユウヤの言葉を無視してオーレンは独り言を呟く。
そして、そのまま馬に乗って帰ろうとする。
「え、え、え、ちょっと待ってください!僕はどうしたら!」
ユウヤは慌てて、オーレンにしがみついた。
「あー、この辺一体は全てお前にくれてやる、農業でもなんでも好きにやれ」
オーレンは吐き捨てるようにユウヤに向かってそう言った。
「いや、でもお金もないですし!街とか知らないですし!」
ユウヤも必死だ。
このまま保護してくれると思ってたのが、見捨てられるなんて思ってもいなかった。
現代人の甘さである。
「あぁ!この道を進めばすぐ側に町はある!この金をくれてやるから、あとは好きにせい!」
そう言って、オーレンは金貨を数枚投げ捨てた。
そして、そのまま元来た道を戻って行く。
残されたユウヤは金貨を必死に探して、5枚ほど見つけまた茫然とした。
「とにかく、町に行かなきゃ」
うわ言のように呟いて、ユウヤはとぼとばと歩き出した。
どうやら、現代人のユウヤとこの世界のオーレンでは、すぐ側の認識が違っていたようである。
かれこれ2時間ほど歩いているが、町の気配すら無い。
「疲れたぁ…」
体力にはそれなりに自身のあったユウヤだが
すぐ側という言葉を信じてペース配分を間違えてしまった。
木影で休憩する。
既に林は抜けて草原地帯なのだが、人の手が加わった形跡がない。
かろうじて道はあるから、全く人が来ないと言うわけでも無さそうだ。
少し休憩して、また歩き出す。
なんとか陽が沈むまでには町に着きたいと思ったからだ。
しばらく歩くと十字路に出た。
看板があった、不思議な事に何故か日本語として理解できた。
自分が来た道には、魔獣の草原と書いてある。
そして、横に伸びる道には魔獣の森、魔獣の山、そして進行方向はドレスと書いてあった。
これを読んで、ユウヤの足取りが少し早足になる。
ドレスと言うおそらく街の名前が見つかったので、急ぎたくなった。
と、言うよりは魔獣と書かれた部分に反応したのだ。
よく分からないが、魔獣が友好的な物とは到底思えなかった。
元の世界でも、熊になんか絶対勝てない。
動物じゃなくて魔獣である。
会ったら人生終わる未来しか思いつかない。
希望よりも恐怖の方が人は必死になるものである。
陽が沈みかけた頃やっと町に着いた。
体感的には6時間くらいかかったが、時計を持って来なかったのでよくわからない
前に働いていたところは携帯の電波も光回線もなく、WiFiも存在しない辺境と言って差し支え無い場所だったせいでスマホもない。
時間を確認する手段が無かった。
町に辿り着くと、出入り口に一応見張りらしき人が立ってる。
その人に話しかける事にした。
「あのーすいません」
「おぉ君か?失敗作の廃棄人って」
「え?」
いきなり見張り人に酷いことを言われた。
どうも話を聞くと、勇者招来と派手に触れ回っていたらしく、それを取り消す為に失敗作の廃棄人と新たなお触れが出ていたらしい。
王国は今後一切関わりを持たないと。
わざわざ、人相書きまで添えて。
「はぁぁ、勝手に呼んでおいてそれかよ」
「お前も気の毒にな、とりあえずあそこに冒険者ギルドあるから相談してきな、面倒見がいいので有名だから」
そう言って、大き目の酒場のような所を教えてくれた。
冒険者ギルドの中はどう見ても酒場だった。
普通の酒場と違うのは、雑貨屋らしき売り場があるくらいで、後は広めの居酒屋か何かみたいな雰囲気であった。
お客もそれなりにいる。
「あのーすいません」
カウンターにいる、髭の生やした中年のおっさんに話しかけた。
店員らしき人は他に見えない。
「おぉ!お前廃棄人だろ?人相書きすげぇ似てるじゃねぇか!」
そう言って豪快に笑って、人相書きを見せてくれた。
まるで写真のようにそっくりな顔が書かれている。
「こんなとこに無駄に魔法使うとか、相変わらずお偉いさんは感覚ズレてるよな」
そう言って笑いながら話しかけてくれた。
「はぁ」
ユウヤはどう反応して良いか分からないので、曖昧にちょっとニヤけた感じで対応した。
「で?お前はこれからどうするんだ?」
カウンターの親爺がそう質問してくる。
「それを相談したくてぇ」
ユウヤはしたを向きながら自信のない声でボソボソッと話す。
「そうかぁ、とりあえずステータス見せてみろ」
「はい…ステータスオープン、リバース」
ステータス
ユウヤ レベル1
種族 人間
強さ 12 物理的攻撃力
器用 12 命中率
素早さ 12 回避率、移動速度
知性 12 魔法的攻撃力
耐久力 12 HP基準値
賢さ 12 MP基準値
HP 25
MP 25
職業 農者
スキル 酪農 レベル1
家畜化 条件を満たした生物を家畜化出来る。
搾乳 乳を搾る事ができる。
称号 農業に従事する者
特典・農業に関する事全てにプラス修正
「なんじゃコリャ?農者?聞いたことねぇな?ステータスに乗るくらいだから戦闘職の1つではあるはずなんだが…どう見ても戦えるスキルじゃねぇな」
ギルドの親爺も首を傾げる。
「あ、そうそう、俺の名前はゴドルよろしくな」
「あ、僕の名前は…」」
「ユウヤだろ、ステータス見てるから分かってるよ」
「あ、はい」
「そんなしょげるなよ!怒ってるんじゃねぇからよ!口が悪いだけだ気にするな!」
ゴドルが豪快に笑う。
「この家畜化ってどんな能力だ?」
「分かりません」
「搾乳は?」
「書いてある通りかと」
「なんもわかんねぇんだな!」
ゴドルも頭を抱えた。
「うーん、お前しばらくここ泊まれ、今回だけ俺のおごりで依頼出してやる」
「え、そんな事してもらって良いんですか?」
「まだ何の依頼か言ってねぇだろ」
ゴドルが豪快に笑う。
「ホーンラビットのメスを生捕りにしてきてもらう」
「ホーンラビット?」
ユウヤはイマイチピンと来てない。
「魔獣の草原ってとこに居るんだけどな、ツノ生えてるだけで普通のウサギと大した変わらん」
「はぁ」
ユウヤはまだピンと来てない。
「こいつを使ってお前のスキルの実験してみようじゃねぇか!スキルってのは特別な物だ、効果が分かればとんでもねぇものかもしれねぇ」
「なんか、すいません、色々してもらって」
「なぁに気にするな!俺がお前のスキルに興味深々なんだよ!」
ゴドルが豪快に笑う。
そしてギルド内を見渡すと、大声で冒険者達を呼んだ。
「ヘレナ!ラリーサ!リリア!ちょっと来い!」
まだかなり若い女の子たち3人を呼びつけた。
見た感じでは、戦士、盗賊、魔法使いといった風貌だ。
戦士風の女の子はショートボブの赤い髪にはつらつとした雰囲気で、意外にメリハリのある姿をしてる。
背は年頃の女子の平均と言った感じだ。
盗賊風はふた回りほど小柄でストレートの黒い髪の毛が肩より少し長めで、スリムな体型であった。
魔術師風は金髪を上手く巻き上げてピンで留めており、実際よりボリュームがあるように見える。
体型は何とは言わないがとても大きいサイズで、身長は2人のちょうど間くらいといった感じだ。
「なーにー?」
戦士らしき女の子が近づいてくる。
「お前らに依頼だ!報酬は…1匹につき金貨1枚、最大3匹でどうだ?」
そう言って、何やらゴツい紙に依頼を殴り書きして渡す。
「悪くないわね」
戦士風の女の子が言う。
「悪くないじゃねぇよ、破格だろ?たかがホーンラビットに」
ゴドルがそう言い返す。
「生捕りにって言うのが難しいのよー」
女の子も負けじと言い返す。
「リリアならすぐ見つけるだろう、あとはラリーサの魔法で眠らせれば良い、お前は荷物持ちくらいにしか役に立たないけどな!」
ゴドルが豪快に笑う。
消去法でヘレナと思われる女の子が膨れっ面で依頼書を持ち帰る
「意地悪ジジィ!バーカバーカ!」
きっちり捨て台詞は吐いていくスタイルのようだ。
「あのぉ」
ユウヤが控えめに話しかける。
「どうした?」
「依頼ってこんな感じでやり取りするんですか?貼り紙とかして募集とかじゃなく」
ユウヤが元の世界で見ていた、ゲームや漫画などとやり方が違うので、少し疑問に思った。
「あーお前、都会のやり方知ってるのか?人の多いところじゃそう言うやり方だがな、ここは田舎で依頼も少ない、冒険者も少ない、俺はここの冒険者の実力は全部把握してるからな!出来そうな奴に出来そうな事を頼むんだよ!その方が安全だろ?」
もしかしてゴドルさんは凄い出来る人なんじゃないかとユウヤは思い始めた。
色々話をしていて、貨幣の価値もだいたい把握した。
金貨1枚で日本円で1万くらいだ、冒険者への依頼はだいたい金貨の10分の1の貨幣の銀貨が多く、銀貨3枚が最低相場。
金貨1枚は金額として高い方らしい。
なので、最大で金貨3枚というのはかなり高額な報酬になるはずなのだが
「ホーンラビットは臆病ですぐ逃げるんだよ、普通なら捕まえるのは結構面倒くさいから、こんな事言われても嫌がる冒険者も多いんだけどな」
ラリーサという魔法使いが結構優秀らしい、元々数の少ない魔法使いの中でも状態異常を中心に彼女は習得しているそうである。
「普通は状態異常とかいうより、火に玉でドッカーンってやっちまった方が手っ取り早いんだけどな」
そう言ってゴドルは豪快に笑う。
その日はそのままギルドの2階の宿泊施設に泊まらせて貰った。
翌朝、何もしないのも悪いのでギルドの手伝いをする事にした。
朝、昼、夕に1時間程度手伝いの人がやってくるが、基本はゴドル1人で切り盛りしているそうだ。
とはいえ、来てる冒険者も常連らしく、勝手に酒を注いだり、何処からか食べ物を持ち込んだり、いかにも田舎という感じなので思ってたほど忙しく無い。
1つ分かったのは、依頼をこなすより狩りに行って取ってきた魔獣を買い取ることの方が主な業務という事だ。
依頼の掲示板が必要ないのも必然な事と思えた。
お昼を過ぎてそろそろ陽が傾き始めるという頃に3人組が大きな籠を抱えて入ってきた。
「おっちゃーん、捕ってきたよ」
ヘレナが元気に声をかける。
「ちゃんと全部メスだろうなぁ」
「抜かりなし!」
ゴドルの言葉にリリアがドヤ顔で応じる。
「ところで、こんなウサギ何に使いますの?」
ラリーサが質問をする。
「あぁ実験の為だ、おう、ユウヤお前のステータスこいつ等に見せてやれ」
ゴドルがニヤニヤしながら、そう指示を出す。
「あ、はいステータスオープン、リバース」
ステータス
ユウヤ レベル1
種族 人間
強さ 12 物理的攻撃力
器用 12 命中率
素早さ 12 回避率、移動速度
知性 12 魔法的攻撃力
耐久力 12 HP基準値
賢さ 12 MP基準値
HP 25
MP 25
職業 農者
スキル 酪農 レベル1
家畜化 条件を満たした生物を家畜化出来る。
搾乳 乳を搾る事ができる。
称号 農業に従事する者
特典・農業に関する事全てにプラス修正
「えぇぇ!なんなんですか、この農者って?このスキルも聞いた事ないですわ!」
ラリーサの目が好奇心で爛々と輝いてくる。
ゴドルの肩が笑いを堪えて揺れている。
「あぁぁ!クッソジジィ!わざとだな!わざとだろ!もう、こうなったらラリーサ止まらないの知ってるだろ!」
ヘレナがゴドルの思惑に気付いて怒鳴り散らす。
「俺1人じゃ大変だしな、何よりラリーサの頭は借りたいしな」
ゴドルがニヤニヤしながらヘレナに言う。
「えーっと、どう言う事なんですか?」
ユウヤだけさっぱり分からない。
「この子はね天才なの!王都の魔術学院を主席で卒業したエリートで、名誉子爵の称号も頂くほどの凄い子なの!」
「うむ」
ヘレナの言葉にリリアがドヤ街で頷く。
「はぁ」
ユウヤは気のない返事をする。
「あなた分かってる?この子はこんな寂れた田舎でうだつの上がらない冒険者なんてしてていい子じゃないの!宮廷魔術師にだってなれるほどの逸材なのよ!」
ヘレナにとってラリーサは自慢の友人らしい。
自分の事のように誇らしげに話している。
「おいおい、寂れた田舎でうだつの上がらないってひでぇ言いようだな」
ゴドルが苦笑いしている。
「じゃあ、なんでこんな所に?」
ユウヤが思ったことを素直に尋ねる。
「この子が天才になれたのもこのおかげなんだろうけど…病的に好奇心が旺盛なのよ…知りたいって思ったらもうダメ、止めても聞かないの…」
大きなため息をついた後にそう説明して、チラッとラリーサの方を見る。
彼女はユウヤのステータスに夢中だった。
時々何かぶつぶつ言いながら何度も何度もステータス画面を見直してる。
「好奇心を満たしたいと言って冒険者になるほどに」
リリアが補足する。
「この町に来たのも、魔獣に興味持ったからだったな!」
ゴドルが豪快に笑う。
「魔獣なんて王都には居ないしね」
ヘレナが半ば諦めてラリーサを眺める。
「早速検証を始めますわ!」
ラリーサの目が光って見えた。
「こうなったら、もう、ラリーサが納得するまで付き合ってもらうからね!覚悟してね、恨むならあのクソジジイ恨む事ね」
ヘレナはユウヤの肩を叩きながらそう言った。
冒険者ギルドの片隅で実験が始まる。
「よし!まずは周り囲ってやるから、ユウヤ!ホーンラビットに勝て!」
ゴドルから無茶ブリが来た。
「えぇぇぇ!無理ですよ、小さくても魔獣でしょ?そんなの勝てないですって!」
「家畜化のスキルが、魔獣使いのテイマースキルに近いんじゃないかって話になったんだよ!テイマーはモンスター屈服させてテイムするんだ、ほらっ、このフライパン貸してやるからこれで引っ叩け」
ゴドルがそう言って、料理用のフライパンを貸してくれた。
「え、ちょっと、これ武器でもなんでもないじゃないですか!」
「どうせスキルねぇんだから、武器持ったって大した事出来ねぇよ、良いから戦え!」
ゴドルに囲いの中に突き飛ばされる。
ホーンラビットがその中に解き放たれる。
どんなに臆病でも逃げ場がないなら必死に抵抗する。
弱いと言うだけあってダメージもそれほどでもないが、こっちの攻撃も当たらない。
不毛な時間が30分ほど続いた。
「す、すいません、もう無理です」
肩で息を切らしながらユウヤはゴドルに訴える。
「もう情けない!リリア手伝って!」
ヘレナがそういうと、リリアと一緒にホーンラビットを捕まえて動けないように抑えつける。
「ほら、早く頭殴って!」
その後も間違ってヘレナの手を叩くなどを繰り返しながら、なんとかホーンラビットを屈服させた。
「早くステータスを見せていたただけます?」
ラリーサがヘトヘトでへばっているユウヤを促す。
「あ、はい、ステータスオープン、リバース」
ステータス
ユウヤ レベル1
種族 人間
強さ 12 物理的攻撃力
器用 12 命中率
素早さ 12 回避率、移動速度
知性 12 魔法的攻撃力
耐久力 12 HP基準値
賢さ 12 MP基準値
HP 25
MP 25
職業 農者
スキル 酪農 レベル1
家畜化 条件を満たした生物を家畜化出来る。
搾乳 乳を搾る事ができる。
称号 農業に従事する者
特典・農業に関する事全てにプラス修正
家畜リスト
ホーンラビット 1
「成功です!次は搾乳のスキルの実験ですわ!」
キラッキラの目でラリーサがユウヤを見つめる。
「え?でも、このホーンラビットどう見てもお乳張って無いですよ?」
そんな事を言ってるユウヤの手をラリーサは握る。
「スキルとは特別な力ですの、搾乳をする事と、搾乳スキルを使うことは全く違う事ですのよ」
「え、でもスキルなんて使い方分かりませんよ?」
「心の中で念じれば使えますわ、ご自身のスキルなんですから」
こうしてマリーナに促されるままにスキルを使うことになった。
『搾乳スキル発動』
とりあえず、ユウヤは心の中で念じてみる。
ホーンラビットの乳に触るとみるみる張ってきた。
「おお!凄い!本当にお乳出てきたぞ!これはなんだ、魔獣の乳だから、魔乳だな!」
ゴドルが感心する。
「早速飲んでみましょう」
ラリーサがなんの躊躇も無く口に含む
「ちょっとちょっと!何してんの、吐きなさい!ダメよ!なにあるか分からないのに!」
ヘレナが慌てて吐き出させようとする。
もちろん手遅れで、ゴクンとラリーサが飲み込む。
「もう…あんたの好奇心は病気よね…」
ヘレナが呆れ顔で文句を言う。
「ステータスオープン!あ!やっぱり!見てくださいまし!リバース!」
ラリーサ、馬耳東風という言葉がこれほど似合う人もいない。
ステータス
ラリーサ レベル6
種族 人間
強さ 11 物理的攻撃力
器用 10 命中率
素早さ 12+1 回避率、移動速度
知性 24 魔法的攻撃力
耐久力 11 HP基準値
賢さ 22 MP基準値
HP 28
MP 50
職業 魔法使い
スキル 火魔法 レベル1
ティンダー 着火できる
ファイアアロー 火の矢を放てる
風魔法 レベル1
ブロアー 突風を起こせる
エアカッター 風の刃を放てる
状態異常魔法 レベル4
スリープ 眠らせる
パラライズ 痺れさせる
フィアー 恐怖させる
パッション 高揚させる
称号 好奇心で身を滅ぼす者
特典・知識に関する行為にプラス修正
好奇心を我慢する行為に大幅なマイナス修正
「魔物のミルクにステータスを上げるなどの副次効果があるって説を唱えている方がいて、見事その通りだったんですわ!ほら!素早さが上がってる!」
ラリーサがニコニコしながら説明している。
「そういう事は先に言って」
ヘレナが頭を抱えていた。
「さて、次の実験ですわ!」
「えぇ!まだ何かやるんですか」
ユウヤはラリーサが笑う鬼に見えてきた。
「何いってるんですか?ここからが本当の実験ですよ」
とても楽しそうな笑顔である。
「はい…何をすればよろしいでしょうか」
ユウヤは観念した。
「あちらのホーンラビットの搾乳をお願いします」
家畜化されていないホーンラビットを指さした。
「え?家畜化されて無いですよ?」
そのユウヤの言葉に
「あなたの搾乳スキルをよく読んでください、家畜の乳を搾ると書いてありますか?」
「…書いて無いです」
「スキルの傾向として、説明の少ないスキルの方が優秀な傾向にあります、制限がそれだけ少ないという事です」
「はぁ」
ユウヤが間の抜けた返事をする。
「出来ないと書いてないなら出来るかもしれません!やってみてください」
「家畜化してないって事は攻撃してきますよね?」
「そうですね」
ユウヤの質問に優しくラリーサは答える。
「さっきの見てましたよね?」
「はい」
ユウヤの質問に優しく答える。
「無理です」
「ヘレナ、リリア、抑えて差し上げて」
ユウヤの結論を優しく無視する。
「いや〜でも〜」
「私、知識の探求にはどんな犠牲も必要だと思うのですの」
渋っているユウヤに向かってラリーサが
「パッション」
いきなり呪文を唱えた。
気分を高揚させ、恐怖心を麻痺させる呪文である。
「さ、早く」
ラリーサが強くユウヤを押す。
「お前、いきなり呪文かけるのは反則だぞ」
ゴドルがドスの効いた声でラリーサに忠告する。
「次から気をつけますわ」
ニコリとゴドルに微笑む。
そんな事で怯むラリーサじゃない。
『搾乳スキル発動』
ユウヤが先程と同じようにスキル発動させ、家畜化していないホーンラビットの乳に触れる。
ラリーサの予測通り乳が搾れた。
「あれ?大人しくなったよ、この子」
ヘレナが途中で変化に気づく。
「くぅぅ、来ましたわ!来ましたわよ!早くステータスを見せてください!」
「え!あ、はい、ステータスオープン、リバース」
ステータス
ユウヤ レベル1
種族 人間
強さ 12 物理的攻撃力
器用 12 命中率
素早さ 12 回避率、移動速度
知性 12 魔法的攻撃力
耐久力 12 HP基準値
賢さ 12 MP基準値
HP 25
MP 25
職業 農者
スキル 酪農 レベル1
家畜化 条件を満たした生物を家畜化出来る。
搾乳 乳を搾る事ができる。
称号 農業に従事する者
特典・農業に関する事全てにプラス修正
家畜リスト
ホーンラビット 2
「あ!ホーンラビットが増えてる!」
ユウヤが驚きの声を上げる。
「魔獣使いのテイミングも、戦闘で屈服させるのが一般的ですが、他の方法も存在してると文献で読みましたの!家督化も屈服させたではなく、条件を満たしたですから、他の方法もあると思っていましたの!」
ラリーサが自分の推論が当たった事に狂喜乱舞している。
「さて、次ですわ!」
そう言うと、いそいそと自分の装備を脱ぎ始めた。
「ちょっとちょっとちょっと!何してんのあんた!流石にそれはダメよ、絶対ダメ!」
慌ててヘレナがラリーサを羽交い締めにする。
リリアも無言でラリーサを抑えつける。
「知識の!探求には!どんな犠牲も!ひ…つ…よ…う!ですのーーー!パラライズ!」
ラリーサがヘレナにパラライズをかける。
「仲間にパラライズかける奴があるか!」
ゴンッと物凄い音をさせて、ゴドルが全力でラリーサの頭を殴った。
相当痛かったんだろう、その場で頭を抱えてうずくまる。
痛すぎて声も出ないらしい。
そして数分後、ヘレナのパラライズとラリーサの頭の痛みが治まってから、ずっと言い合いをする事になった。
「ヘレナ!私が分からない事を分からないままにしておけると思って?」
ラリーサがだいぶワガママな主張を始める。
「あんたねぇ、もしスキルが人間にも効果あったら家畜になっちゃうんだよ!どう考えたって、奴隷みたいな者じゃない!正気?」
ヘレナの方が間違いなく正論である。
「それを含めて検証するんでしょ!分からない事を分からないまま放っておくなんて、私には耐えられない!」
好奇心で身を滅ぼす者の面目躍如である。
しばらく睨み合いが続く。
「はぁぁ、もう!わかったわよ、好きにしなさい!」
結局ヘレナが折れる。
このPTのいつものパターンである。
リリアがヘレナの服をクイックイッと引っ張る。
「大丈夫よ、いざとなったらあの男バッサリやっちゃえば、効果解けるだろうし」
ユウヤは自分の預かり知らない所で命の危険に晒されていた。
と、言う事で検証再開なのだが、ヘレナの強い要望で、ユウヤは目隠しをすることとなった。
これはこれで興奮すると言う話もあるのだが。
『搾乳スキル発動』
スキル発動したユウヤがラリーサの、たわわなものを触るとみるみる張っていく、そしてミルクが出てきた。
「人にも効くのね」
ヘレナが諦めた口調でそういう。
「感覚的には既に理解しているのですけど、確認の為ステータス見せてくださる?」
ラリーサがそうユウヤに言う。
「あ、はい、ステータスオープン、リバース」
ステータス
ユウヤ レベル2
種族 人間
強さ 12 物理的攻撃力
器用 12 命中率
素早さ 12 回避率、移動速度
知性 12 魔法的攻撃力
耐久力 12 HP基準値
賢さ 12 MP基準値
HP 26
MP 26
職業 農者
スキル 酪農 レベル2
家畜化 条件を満たした生物を家畜化出来る。
搾乳 乳を搾る事ができる。
牧柵 囲った場所が家畜の住処になり出て行かなくなる。
農具装備 農具を装備出来る。
称号 農業に従事する者
特典・農業に関する事全てにプラス修正
家畜リスト
ホーンラビット 2
牧童リスト
ラリーサ 1
「レベル上がっているし…あら?牧童ってのになってるわね?従業員的な?」
セレナが小首を傾げてる。
「ユウヤさん、ちょっとこっちに来てくださる?」
ラリーサがユウヤを改めて近くに呼ぶ。
「あ、はい」
素直に従うユウヤ。
近づくと、いきなりパァーンとラリーサがユウヤを引っ叩く。
「痛った!痛った!僕が何したんですか!」
「胸揉んだじゃん」
セレナの冷たいツッコミが入る。
「う…」
ユウヤは反論出来ない。
「あぁ違いますの、これも実験でしてよ」
ラリーサがニコニコしながらそういう。
「私自身の感情として、ユウヤさんにとても親近感が湧いていますし、言うこと聞いてあげたいって感情がありますの」
「それとビンタが全然意味わからないんですけど!」
ユウヤは精一杯抗議した。
「ああ、強制力の確認ですわ、強い意志を持って反抗しようと思うと出来てしまいますの、それを証明したのですわ」
「じゃあ、思ったほど強制され無いのね、奴隷契約とかと違うって事ね」
セレナが確認する。
「言う事はきいてあげたくなるんですのよ、そうですね?貴女方と同じくらいの関係を強要されている感覚かしら?」
「じゃあ、平気ね、いきなりパラライズ打つくらいには反抗できるんだもんね」
ヘレナはまぁまぁさっきの事を根に持っていた。
「新たなスキルは検証するほどでも無いですわね」
ラリーサは興味ない事には一切労力を注がない。
「なぁ!ユウヤ、お前コレを商売にしてみねぇか?」
先程からずうっと黙って考え込んでいたゴドルが、そう提案してきた。
「能力値ってのは、よほどの事がない限り変わらない、世の中は能力で劣る所や得意な事をスキルでカバーしたり伸ばしたりするのが普通だ、それが一時的とはいえ能力が上がるってんなら、少しくらい高くても売れるだろう?」
ゴドルの言葉に
「確かに前衛職の私達にしてみれば、素早さが上がるさっきのお乳、正直戦闘前に飲みたい」
セレナも同意する
「あれ、銀貨1枚ならとりあえず毎回買うだろ?」
「買う」
ゴドルの問にヘレナは即答した。
リリアも隣でコクコクと頷いている。
「命の危険が銀貨1枚で軽減するなら、買わない理由ないもの」
たかが素早さが1増えるだけである、されど素早さ1で相手の攻撃が躱せているかもしれない。
わずかに先に行動できてるかもしれない、1歩逃げ出すのに間に合うかもしれない。
常に命の危険晒されている冒険者にとって、その恩恵は絶大である。
「他のモンスターなら効果も変わるのか?」
ラリーサに向かってゴドルが尋ねる。
「おそらく変わるでしょうね、でもそんな実験した事ある人居ないから、やってみないと分からないですけど」
実験の言葉にユウヤが思わずビクッとなる。
「この辺で捕まえて来れそうな奴って言ったら、フォレストウルフ、オウルベアー、ワイルドキャット辺りならお前らでもいけるだろ?」
「まぁ、その辺なら割と余裕かな」
ヘレナがゴドルの言葉に応じる。
「グリフォンはどうよ」
ニヤッと笑いながらゴドルが質問する。
「何言ってるの?正気?グリフォン倒せるやつなんて、ここのギルドにいないじゃ無い、あれは魔獣の山の空の支配者よ」
セレナが真面目に答える。
「そういうとこだけ真面目だよな」
ゴドルが豪快に笑う。
その後も、どれを捕獲するか何頭にするか、などを当事者のユウヤそっちのけで話していた。
「あのぉ」
弱々しく、ユウヤが声をかける。
「どうした?」
ゴドルがユウヤの言葉に気づく。
「エサはどうするんでしょう?」
ユウヤの言葉に、他の者全員が
「あ!」
っと、我に帰った。
ホーンラビットは別として、名前の出てくる魔獣がどう聞いても肉食である。
まぁ、草食の魔獣をいちいち駆除する事もないので当たり前なのだが
食物連鎖の1番下で支えている者たちが必要な事に気がついた。
「そうですわね、彼らの餌になっている魔獣ね…ゴブリンかしら、やっぱり」
ラリーサが悩みながら答える。
「ビーンボールサフォークとか、パイナップルブルなどでしたら人間も食用にするくらいですけど、繁殖力を考えると、ゴブリンが1番最適だと思いますわ」
「えーっと、ゴブリンって人型で背が小さい生物ですか?」
ユウヤが漫画やゲームで得た知識を総動員して質問する。
「あら、よくご存知ですわね、他にもコボルトやオークというのも居ますが、コボルトは山の洞窟の中で暮らす習性がありますし、オークは少々手強いので、ゴブリンが1番かと」
ラリーサが詳しく説明してくれた。
ただ、ユウヤが懸念しているのはそういう部分では無かった。
「いやー、人型が毎日食べられていく絵面が…ちょっと耐えられるかな思いまして」
「4足でも2足でも魔獣は魔獣よ、そんな事で躊躇してたら、あんたがあいつらのエサになるだけよ」
ヘレナがバッサリと言い切る。
「おめぇもこっちの世界で生きていくんなら、その辺は慣れるしかねぇな、じゃなきゃ死ぬぞ」
ゴドルからも手厳しい言葉が浴びせられる。
「はぁ…すいません」
ユウヤはしゅんとなってしまった。
改めて、ゴブリン捕獲の作戦会議に戻るが、あまりいい案が出ない。
メスは搾乳で家畜化できるとして、オスは今のところ実力で屈服させる以外の手段が分からない。
繁殖させるにはオスも当然必要になるのである。
「まずは、ユウヤさんの実力を引き上げないと難しいですわね」
「お前らに任せていいか?」
ラリーサの言葉を受けて、ゴドルが3人に改めて質問する。
「しょうがない、乗りかかった船だし面倒見るわよ!そのかわり魔乳私達にはタダで提供しなさいよね」
ヘレナがニカッと笑う。
しっかり、打算があった。
「まずは、先程名前にも出た、ビーンボールサフォークとパイナップルブルを家畜化してみましょうか」
ラリーサがそう提案する。
「あのぉ」
弱々しくユウヤが口を挟む。
「なぁに?」
ヘレナが聞き返す。
「先に牧柵で囲っておかないと、捕まえても置くとこないと思うのですが…」
だんだん声が小さくなっていく。
「それもそうね、どこに設置する?」
「一応、南の草原は好きに使って良いと、宰相って方が言ってたんですが」
ヘレナの問いにユウヤが答える。
「じゃあ、あの場所使いましょう」
ラリーサが即決する。
流石に今からと言うわけにもいかないので翌朝から牧柵で囲いを作る作業に入る事になった。
翌朝、ゴドルが無期限で貸してくれたロバに、やはり無期限で貸してくれた荷車をつけて、カッポカッポと最初の草原に向かっていた。
「月金貨1枚で良いぞ」
出かける前にゴドルに言われた言葉である。
無期限ではあるが、無料ではなかった。
それでも、荷台に乗っての移動は最初の徒歩に比べれば快適だし、何より早かった。
リリアが御者をしてくれている。
「こいつは賢いから、一度道覚えれば勝手に移動してくれるぞ」
と、ゴドルに言われているのでコレからのことを考えると、とても良いものを貸してくれたのだと思う。
最初の草原に到着した。
プレハブごと転移したのは幸いだった。
半分以上は物置として使われていたので、結構色々物が入っている。
引っ越しの荷造りに使う紐のような物をプレハブから持ってきた。
サイズは4倍くらいあるが紐の太さは同じくらいである。
「どうするの?」
ヘレナがその紐の塊を見て質問する。
「コレは電牧線とか、牧柵線って言って、コレを杭に縛り付けて牧柵を作るんです」
「こんな紐一本で出ていかないの?」
ヘレナの言う事も当たり前である。
牧柵といえば、木を壁のように張り巡らせるのが、この世界の常識である。
「本来はコレに電気を通して、感電させて近づかないようにさせるんです、1回感電するとこの線には近寄らなくなるので、この線だけで管理できます」
「電気?」
ヘレナが首を傾げる。
「雷などに含まれる力のことよ、魔法では風、光、水の3合成で発動する難易度の高い存在ね」
ラリーサが説明してくれる。
「電気はないですが、スキルの効果読む限りコレで囲うだけで効果出ると思うんです」
そうユウヤが言うとプレハブから杭と大槌を持ってきて近くの草原に打ち始める。
数時間かけて、杭に電牧線を張り巡らせた。
1番狭い囲いに家畜化したホーンラビット3匹を入れる。
問題なく牧柵として機能しているようだった。
「さてと、こっちは完成したしどっち捕まえに行く?」
「捕まえやすいのはパイナップルブルですから、そちらにしましょう」
ラリーサが即答する。
何も話からにユウヤはとりあえず、うんうんとうなずいておいた。
「じゃあ、出発ね。暗くなるまでには戻ってきたいし」
ヘレナそう言って歩き出す。
「え!あれ?あの、ロバは?」
ユウヤが驚いて質問する。
「何言ってんの!歩きよ、あ・る・き」
ヘレナが即答する。
「あ、はい」
ユウヤは力無く頷いて後ろを着いて歩き始めた。
目的地の魔獣の森に着いた。
草原よりも危険な動物が出る地域である。
と言うよりも、草原自体がほとんど危険な動物は出ないので、ここからが本当に危険な冒険地帯といった所である。
幸いパイナップルブルは比較的安全な入り口付近に生息している魔獣である。
その名の通り、パイナップルのように見える体表をしており、イメージとしては顔と足が牛で身体が陸亀と言うイメージである。
危機感に乏しいのか逃げるということをしない。
サイズは大きめの犬程度なので、よほど油断しない限り負けることはない。
体表が恐ろしく固いので、魔獣もあまり食べないのかもしれない。
肉は食用に皮は防具の素材になるので、駆け出しの冒険者などは無難にこなせる狩りの対象になる。
難易度が低いので、価格も低いのだが。
「うーん、オーケーこの子メスよ、ほら、チャチャッと搾乳しちゃって」
ヘレナがかがみ込んでお腹の辺りを確認してる。
「え、押さえつけたりとかしてくれないんですか?」
ユウヤが屁っ放り腰で、おそるおそる近づいていく。
「なーに言ってんの?パイナップルブルすらまともに相手出来なかったら、みんなに笑われるよ!ほら!早くしなさい!」
ヘレナがドンとユウヤの背中を押す。
思わずヨロめいてパイナップルブルの背中に手をついた瞬間。
「グフォォ」
後ろ足で腹を蹴られ、ユウヤが凄い声をあげながら転げ回る。
「あー情けない!ウチらの間じゃ、パイナップル拾いに行くって言うのよ!それくらい楽に狩れる相手なのよ!」
「すいません」
セレナの説教にユウヤはうずくまったまま返事をする。
「もう、ラリーサお願い」
セレナに言われて、ラリーサがニコニコしながら
「気にしないでくださいね」
とユウヤに語りかけ
「パラライズ」
と、魔法をかけた。
「ほら!今のうちに!」
セレナに急かされ、ユウヤは慌てて
『搾乳スキル発動』
と念じながらお腹に触る。
無事、乳が搾れて、当たり前のようにラリーサが飲む。
「うーん、あ、HPが1ポイント上がってますわ、疑似的な回復ポーションになるかも」
「うわ、微妙、1ポイントじゃ誤差よ誤差!」
ラリーサの分析にセレナがそう感想を述べる。
「とりあえず、森の外に連れて行きますわね」
ラリーサがユウヤとパイナップルブルを連れて森の外まで移動する。
そのまま、プレハブから持ってきた杭と電牧線で作った囲いの中にパイナップルブルを入れ込む。
念の為の2組行動である。
「ユウヤ様、お願いのありますの」
「え!な、なんでしょう?」
ラリーサが急にユウヤの腕を掴む。
「私の出したミルクは何に効果あると思います?そしてそれは私が飲んでも効果あると思います?」
「え、え、え」
ユウヤがいきなりの事に硬直していると、ラリーサはいそいそと装備を緩め胸を露にする。
「あの子達が居たら絶対邪魔して来ますの、今のうちに早く!」
断れるような雰囲気ではない。
「は、は、はい!搾乳スキル発動!」
慌てすぎて念じるにでは無く声に出してスキル発動してしまった。
こうして出たミルクを2人で飲む。
「やりましたわ!知性が2ポイント、賢さが1ポイント上がってますわ!貴方はどうですの?」
「あの、服を着てもらえますか?」
胸を露にしたまま喜んでいるラリーサにユウヤはそうお願いする。
「えっと、僕の方は、知性3に賢さ2ですね」
「本人だと効果が落ちるのでわね、ほんと興味が尽きないですわ!」
ニコニコしながらラリーサはユウヤを連れてセレナの所に戻っていった。
「リリアがもう1匹見つけてくれたわよ」
彼らと合流すまでの時間を使って、リリアが周辺を斥候に行ってくれていた。
流石に2回目だったのか、ラリーサのミルクのおかげか、今回は簡単に家畜化に成功した。
目標を3匹としていたので、もう1匹で帰るという話だったのだが、そういう時に限って残り1匹が見つからない。
「もう無理ねぇ、これ以上居たらここで野宿になっちゃう」
セレナが撤退の判断をくだした。
こうして、パイナップルブルを置いていた場所まで行くと
「どういう事ですの?」
ラリーサが真っ先に声を上げた。
「あんた分かる?」
セレナがユウヤに聞く。
「いえ、全然分かりません」
目の前には4頭のパイナップルブルが居る。
「ちょっとユウヤ様のステータス見せていただけます?」
ステータス
ユウヤ レベル3
種族 人間
強さ 12 物理的攻撃力
器用 12 命中率
素早さ 12 回避率、移動速度
知性 12 魔法的攻撃力
耐久力 12 HP基準値
賢さ 12 MP基準値
HP 27
MP 27
職業 農者
スキル 酪農 レベル3
家畜化 条件を満たした生物を家畜化出来る。
搾乳 乳を搾る事ができる。
牧柵 囲った場所が家畜の住処になり出て行かなくなる。
農具装備 農具を装備出来る。
品質管理 乳の品質を管理できる。
容器保存 乳を容器で保存出来る様になる。
称号 農業に従事する者
特典・農業に関する事全てにプラス修正
家畜リスト
ホーンラビット 6
パイナップルブル 4
牧童リスト
ラリーサ 1
ラリーサはステータスを確認してから、目の前に居るパイナップルブルを確認する。
「恐らくですが、メスを家畜化するとそれとツガイになっているオスも家畜化するんだと思われます」
「え!なんか分からないけどラッキーって事?」
セレナの言葉に
「オスを家畜化したらどうなるかはまだ分からないでけどね」
と、ラリーサが返事をする。
とにかく、4頭に増えた家畜を草原まで連れて行く事にする。
草原に着いた頃には暗くなっていた。
そのままプレハブで全員雑魚寝する事になった。
翌朝、ビーンボールサフォークを捕らえに魔の山に行く
森よりもさらに危険な地帯だが、ビーンボールサフォークのいる辺りはそこまで危険ではない。
たまに大型の魔獣を見たという報告があるが、出会ったという報告は聞いたことがない。
ビーンボールサフォークはその名の通り、毛で丸く見える羊のような魔獣で、攻撃は飛び跳ねての体当たりである。
毛が弾力のある性質のためダメージはほとんど無いが、こちらの物理攻撃もほとんど効かない。
魔力耐性も強く、体力も高いので、相手にすると疲れてしまう。
バランスを崩して倒れると顔の上に乗り窒息させにくる。
ただただ、厄介な相手であるため、冒険者に人気が無い。
今回もラリーサがひたすらパラライズをかけ、その隙に搾乳するという作戦で行く。
魔力耐性が高いので、かかりづらく、かかってもすぐ解けてしまうので、ラリーサのMP頼みの作戦になる。
なんとか、3匹目を囲みに入れた所で周囲の警戒をしていたリリアがこちらに向かって走りながら初めて大声をあげる。
「グリフォン!逃げて!」
ユウヤが初めて聞いたリリアの叫びはどう考えてもヤバイ内容だった。
「ラリーサ!パラライズあと何発行けそう?」
「4…いえ、3ですわね」
セレナの問いかけに冷静に答える。
「ユウヤ!私たちが時間稼ぐから全力で逃げて!」
「え、でも、グリフォンは倒せないって」
ユウヤは先日のゴドルとの会話を思い出していた。
「貴方を見捨てないと逃げ切れないの!でもそれは私達の矜持が許さない!だから早く逃げろぉ!」
セレナの声がもう大声では無く叫び声に近かった。
「パッション」
ラリーサが4人全員にパッションをかける。
恐怖心を麻痺させないと立ち向かえない相手だと、理解している行動だ。
「あの、でも、搾乳スキルで」
なおも食い下がるユウヤ。
「オスなのよ!空を巡回して襲ってくるグリフォンは全部オスなの!」
セレナ怒鳴り声に近い声で叫ぶ。
程なくしてグリフォンの影が見えてきた。
そこから自分達まで近づくのが物凄い早い。
コレを見つけていち早く報告したリリアの技量も相当なもののはずだ。
そこからは乱戦だった。
リリアが弓で牽制する、セレナが斬りつける、どうしても避けれない攻撃が来た瞬間にパラライズで一瞬回避する時間を作る。
見事な連携で攻撃しているのだが、殆どダメージが通っている気配がない。
代わりに一発当たれば大ダメージ必至である。
足場も石ころだらけでかなり条件が悪い。
「あっ!」
セレナが足を取られ転倒した。
そこをグリフォンが足で踏みつけようとする。
無言でリリアがその足に組みつく。
「フレアアロー!」
目潰し代わりにラリーサがグリフォンの顔面に火の矢を放つ。
かろうじて体制を立て直すセレナ。
しかし、今の火の矢でグリフォンはラリーサに怒りをぶつけようと突進を始める。
足を振りまされて、リリアが吹っ飛ばされる。
セレナが体当たりするが突進は止まらない。
グリフォンはラリーサに体当たりし、吹き飛んだ所に駆け寄り、なおも追撃しようとする。
「ラリーサァァァ」
セレナのその声よりも早く、岩陰から何かがグリフォンの腹の下に入り込んだ。
一瞬静寂が空間を包む。
「出来ないと書いて無いなら、出来るかもしれないんでしょ?」
腹の下から出てきたユウヤがそう言いながらニッコリ笑う。
ラリーサが駆け寄ってグッと強く抱きしめる。
「貴方ねぇ!逃げろって言われたら、逃げるの!誰かが村に伝えなきゃいけないでしょ!分かってる?そういう事は実力つけてからするの!…でも、ありがとう助かったよ」
近づきながら説教していたセレナはユウヤの頬っぺたにキスをする。
は!っとなっているユウヤにリリアも近づいてきてキスをした。
「ありがとう」
無口なリリアから言葉少なだが気持ちのこもった声だった。
「カッコよかったですわよ」
最後にラリーサがキスをする。
その後、家畜化出来た魔獣達をしばらく観察する事にした。
ツガイとなるものらしき個体が現れ、囲いの中に入った時点で家畜化する。
思いがけず、グリフォンを確保してしまった事で、本格的に餌の確保が必要になってしまった。
魔乳屋開業までの道のりはもう少しかかりそうである。
つづく
読んでいただきありがとうございます。
まだまだこれからの話ですので、まずは彼が自立するところまで
出来るなら彼が成り上がるところまで書いて行けたらな思います。