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導の先に立て ―ダンジョン攻略して世界を救う英雄の物語―  作者: 紅咲 いつか
Area1:悪意の森と渡り鳥

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Point2-5「手がかりなき攻略」

 リタの宿場町へ戻ったジェイドとルカを出迎えたのは、深刻な表情のロディルトだった。リタの役場では資料を手にしたロディルトと、アディナとキティカの顔ぶれが揃っている。三人がジェイドとルカを一斉に振り返った。

「水源の方はいかがでしたか?」

 ロディルトの問いかけに、ジェイドは静かに頷いた。

「間違いない。この疫病はダンジョン出現の『予兆』だ」

「なっ、ダンジョン!?」

 驚きに目を見開くキティカの横で、アディナがジェイドを見据えた。

「何故、今回の疫病がダンジョンと関わりがあると?」

「痕跡があった。気になるなら自分たちで調べればいい」

 ジェイドは素っ気ない。これ以上問われても答えるつもりはないのだろう。

 まぁ、聞かれたところで答えづらいか……。

 ルカはちらりとジェイドの背を一瞥する。

 ジェイドの言葉に嘘はない。しかし、そもそも出現前のダンジョンを感知する能力が彼にしかない以上、周囲から根拠を示せと言われても無理な話なのだ。

 説明するには彼が幼少期に悪魔に印を刻まれたことを話さなければならないし、ルカもジェイドと一緒にダンジョンの中へ実際に潜ったからこそ、彼の言葉を信用したのだ。

「やはり、そうですか」

 ロディルトは心得た様子で頷いた。

「時期から見て、相手は『女帝』ですか?」

「紋章は三重の円に薔薇だったから、間違いないわ」

 ロディルトの視線を受け、ルカもすかさず口を挟んだ。ロディルトが疑問も持たずに納得している様子から、胡散臭そうにやり取りを見守っていたアディナとキティカが表情を引き締めた。

「間違いなく、ヴァノスでの報復だろうな」

 ジェイドもため息まじりに呟く。彼のこの言葉が、確信に繋がったのだろう。

「『翡翠眼の渡り鳥』……」

 アディナはぽつりと呟く。彼女の目が、ジェイドを真っ直ぐ見据えた。

「噂で聞いたことがある。ダンジョンを見つけ出し、事前に国へその貴重な情報を提示。さらには自らもダンジョン攻略に参加するという命知らずの渡り鳥がいる、と。やはり、精霊都市ミルネフォルンが支援をされていたのか」

 アディナの視線を受け、ロディルトは胸に手を当てると柔らかく微笑んだ。

「ミルネフォルンはこの世界を侵食するダンジョンの消滅を望んでいます。魔界からの侵攻の阻止は人類の存亡をかけた最優先事項ですから。ルシエ国の皆さまもその点では、我々と志を同じくしていると思いますが、いかがでしょう?」

 ロディルトはキティカの鋭い視線を前に、悪びれた様子もなく平然と返す。

「我が国が精霊教会との繋がりが深い国だと知った上で、このようなことを――」

「キティカ、落ち着け」

「ですが、このことを団長が知ったら……」

 アディナの制止にキティカは戸惑う。アディナの髪と同じ水色の瞳が、真っ直ぐジェイドに向けられた。

「この国が、ダンジョンの脅威に晒されているということは本当か?」

 アディナの問いかけに、ジェイドは表情を崩さなかった。

「ああ」

 短く、淡々と事実として告げる。

「っ!? デタラメを!」

「いや、むしろ納得した」

 声を荒げるキティカに反し、アディナはロディルトが手にした資料を一瞥した。

「我が国の医師、精霊術師、学者がこぞってこの疫病の原因を突き止めようと尽力してくれた。それにも関わらずまったく原因がわからないなど……おかしいと思ったんだ。この世の原理から逸脱した『ダンジョン』が相手ならば、我らの技術や知識で解明できなくて当然だな」

 アディナはそう言って、どこか自嘲気味に笑う。

 キティカと違い、彼女は合理的な判断をする人のようだ。

 ルカは背に負っていた布包みを掴む手をそっと離した。ジェイドの方も腕を組んだ姿勢で、剣の柄に近づけていた右手をそっと元の位置に戻す。

「このような状況で嘘をつく利点がない以上、私は君たちの言葉を信じよう」

「ありがとうございます、アディナ団長補佐殿」

 アディナの言葉に、ロディルトが丁寧に頭を下げた。

「しかし……どう上層部を説得すべきか。ヴァノス国でも大規模なダンジョン攻略部隊を編成するのにそれなりの日数を有していた。さらにキティカが言うように、我が国は精霊教会との繋がりが深い国だ。ダンジョン出現の報が入れば、教会からの審問官を招く必要もある」

「まず、そんな時間はないだろうな」

 ジェイドはアディナの言葉に、首を横に振った。

「ダンジョン出現の予兆である疫病の発症が十日前頃となれば、ダンジョンはあと三、四日中には出現するだろう」

「そんなに早く……」

「加えて、今回はヴァノス国のような大規模な攻略部隊を送り込むことはやめた方が良い」

「それは何故だ?」

 ジェイドを怪しむキティカが、やや険のある声で尋ねた。

「今回のダンジョンは、仕掛けが多いタイプのようだ」

 ジェイドはロディルトに向けて告げた。その言葉で、ロディルトはすべてを察したようだ。

「厄介ですね。内部がどうなっているか知れない以上、大規模な攻略部隊は悪手になります」

 ロディルトは思案気に呟く。

「いつも通り、俺たちだけで潜るしかないだろう」

 ジェイドがさも当たり前のように呟く。

「な、何を勝手なことを!」

 声を上げかけたキティカを、アディナの腕が制した。

「ひとまず、状況は察せた。貴殿らの噂も聞き及んでいるが……今までの話を全て鵜呑みにすることはできない」

 アディナの言葉に、傍らでキティカが何度も頷いている。

 騎士の国というだけあって、色々としがらみが多いのね……。

 ルカはどこか幻滅したようにため息をついた。

「キティカは今の話を首都にいる団長へ伝えてくれ」

「はい……補佐はいかがされますか?」

 訝しむキティカに、アディナは己の胸に手を当てて平然と告げた。


「私は『翡翠眼の渡り鳥』殿とともに、ダンジョン攻略に同行する」


 役場の一室で、ルカとキティカの驚きの声が無人の廊下に響き渡った。

「な、正気ですか!?」

「こう言っちゃなんですけど、ダンジョン攻略は命がけなんですよ!」

 キティカとルカがアディナをすぐさま説得しにかかる。

「なんでお前が出会って間もない他人の心配をしてるんだ?」

 アディナを心配するルカを見て、ジェイドが呆れる。ルカはジェイドを横目で睨み、とりあえず無視した。ジェイドの事情を知らないアディナが同行すれば、不都合なことが起きるかもしれないのだ。ルカとしては、それは避けるべきだろうという配慮からの説得だったのだが、当の本人は至って呑気だった。

「実際、本当にダンジョンが現れるかわかったものではありません。たとえ真実でも団長補佐お一人を行かせるわけには……」

「キティカ、私はこの一件を秘密裡に解決すべきだと考えた」

 キティカを見据え、アディナがその双眸を細める。

「私の意見を、団長へ必ず伝えてくれ。あの方なら、私の意図を察してくださる。そして、キティカは団長の指示に従って動くんだ」

「しかし……」

 なおも何か言いつのろうとしたキティカを、アディナが彼女の肩に手を置くことで制した。

「真実を見極め、ルシエ国の民の脅威となる存在が明らかになれば切り捨てる。安心しろ、キティカ。我らが誇るルシエの騎士道は、このアディナの心にもしかと刻まれている」

「……はい、どうかご武運を」

 アディナの退かない姿勢を見て、キティカは力なく項垂れた。

「さて、聞いての通りだ。足手まといにはならない。貴殿らのダンジョン攻略に同行させてほしい」

 アディナが己の胸に手を当て、毅然とした口調で断言する。

「わかりました。では、さっそく移動しましょう」

 ロディルトは逡巡した後、小さく頷いた。

「急ごう。時間が惜しい」

 ジェイドは纏った筒型衣(カフタン)の裾を翻すと、扉のドアノブに手を伸ばしたのだった。

Copyright(C)Itsuka Kuresaki 2021

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